君に贈る花言葉。
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衣替えも終わり、夏の匂いが近付いて来る。
梅雨入りも済ませた空は今日は珍しく暑いくらいの梅雨晴れだ。
「今から行く」と短いメッセージが届いたのは15分程前。
彼からの連絡が来ると頬が緩んでしまうことに気付いたのはいつ頃だったかな。
毎日一緒にいるからいろんなところを知れる。
口が悪いところ。粗暴なところ。でもとても優しいところ。嘘をつかないところ。負けず嫌いなところ。気遣ってくれるところ。歩くペースを合わせてくれるところ。穏やかな表情をするところ。
知れば知る程、彼の存在が大きくなっていってる。
その気持ちに気付いてしまったら止められるはずもなくて、どんどん好きになっていく。
「おい」
「わっ!びっくりしたぁ!」
突然今まで考えていた相手に声をかけられて心臓が跳ねる。
私の驚き方に呆れたような顔をしている彼。
爆豪勝己くん。私の好きな人。
いつも律儀に送り迎えをしてくれて、不器用な優しさをくれる人。
「行くぞ」と言われ慌てて彼の隣を歩く。
今日は爆豪くんと切島くんとこの前雄英で会った2人の友達の上鳴くんと4人でお茶をすることになっている。
爆豪くんは乗り気じゃなかったけど、この前会った時に今度お茶しましょうと約束したのでそれを果たしたかったからお願いした。
峰田くん?も一緒にと言ったけれど、爆豪くんが「あのクソ玉だけは呼ばねぇ!」と声を荒げたので申し訳ないけれど上鳴くんだけになった。
切島くんと上鳴くんは先にお店に行ってるらしく、爆豪くんだけが私を迎えに来てくれた。
「上鳴くんってどんな人?」
「アホ、チャラい、女好き」
「その紹介の仕方いいの…?」
「事実だわ」
この前少し会って喋った時は今どき高校生って印象だった。
爆豪くんはこう言っているけど、爆豪くんと切島くんの友達だから悪い人ではないのは確かだ。
雄英近くのファミレスに入ると私たちを見付けた切島くんが「爆豪!みょうじ!こっちこっち!」と立ち上がって声をかけてくれた。
「うっせぇんだよクソ髪!」と言い返していたけどどっちもどっちだった。
切島くんと上鳴くんに挨拶をするとドリンクバーだけ先に頼んでくれていたみたいなので荷物だけ置いて爆豪くんと飲み物を取りに行く。
「爆豪くんも声大きかったよ 」
「俺の声はでけぇんじゃねぇ!通るんじゃ!」
「なんだそれ」
笑いながら氷を入れたグラスを勝己くんに渡して空いてるグラスを受け取り、それにも氷を入れていると勝己くんは当然のように自分は飲まない紅茶を注ぎ入れ、そのまま私が持ってるグラスを手に取るとコーラを注いでいた。
紅茶は私のためのものだった。
「ありがとう、よく知ってたね」
「毎日飽きもせずに飲んでりゃ覚えんだろ」
「そっか…」
私が紅茶飲んでるの見てたんだ…と思うとそれだけのことがすごく嬉しくて胸がキュンとした。
毎日同じものを飲んでたら嫌でも覚えてしまうだけなのに、勝己くんに言われるとそれだけで特別になる。
そんな小さなことですら好きが大きくなっていく。
「約束覚えてくれてたのちょー嬉しいよ、俺!」
「私も約束守れてよかった!爆豪くんと切島くんのおかげだよ!」
私と爆豪くんが席に戻ってくるなり上鳴くんはにこにこと嬉しそうに言うので私も釣られた。
「あ、みょうじ悪ぃ!爆豪!この前の演習の時なんだけどよ」
私が入れない話題を思い出したみたいで、切島くんは私に謝ってから話を進めた。
男の子3人で真剣にヒーロー科での演習の話をしていて、私は邪魔をしないように話を聞いていた。
切島くんと上鳴くんは私を気にかけてくれてたまに解説を入れてくれた。
真剣に話している姿は普段の姿とは違ってみんなかっこいいなって思った。
「なまえちゃん?どした?」
「あ、ごめんね。みんな夢に向かって一生懸命ですごくかっこいいなって思って!私も負けてらんないなぁ!」
「お!いいな!男らしい!!」
グッと握り拳を作ると切島くんと上鳴くんも真似して握り拳を作ってた。
男らしいという切島くんの言葉は女の私には褒め言葉なのかどうなのかわからないけど、褒め言葉として受け取っておく事にした。
「話変わるけどさ!爆豪となまえちゃんは本当に付き合ってないわけ!?」
突然上鳴くんがどストレートな質問を投げかけてきたからびっくりした。
爆豪くんは不機嫌そうに「あ?」と言っていて、それに少し胸が痛んだ。
「この前も言ったけど付き合ってないよ。爆豪くんに悪いからやめよ」
居心地が悪くなって残っていた紅茶を喉に流し込んだ。
上鳴くんは「へえ…」とまだ少し疑っているようで、疑ったところで出て来るのは私の片思いということだけだ。
なのであまり掘り下げないでもらいたい。
「じゃあさ!好きな人は!?いるっしょ!?」
「好き……!!?」
瞬時に隣に座っている人を思い浮かべて一気に顔に血が集まるのがわかる。
上鳴くんは変わらず楽しそうに笑っているし、切島くんは我関せずな感じだし、爆豪くんには横目で見られてる。
「その反応!いるってことだなぁ!?どんな人なんだよー!教えてよー!」
「や、いいよ!私の話はっ!!」
「いいじゃん恋バナしようよぉ!!」
「くだらねぇ」
「上鳴やめとけって!みょうじ困ってっから!な!」
切島くんが止めてくれたことに心から感謝する。
だってこのまま細かく聞かれてたら本人の前で言う事になっちゃうし、それこそ公開告白。そんなの絶対無理だ。
チラッと隣に座る爆豪くんを盗み見るとなんだか機嫌が悪そうに見えた。
この手の話嫌いだったのかな…。
たしかに爆豪くんがこういう話してるの想像できないけど、上鳴くんは「彼女欲しいよぉ」と懸命に訴えていた。
「そろそろ帰んぞ」
「あ、うん!もうこんな時間だったんだね」
勝己くんのその言葉に時計を見ると間もなく18時になるところだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうんだなぁ。
みんなでテキパキと帰り支度をしてお店を出る。
「今日はありがとう!楽しくてあっという間だった!」
「今度は俺が送ったげるよ!」
「ん、ありがと!」
「さっさとしろや」
「あ、うん!じゃあ2人ともまたね!」
「おう!気を付けてな!」
爆豪くんに催促されたので二人に挨拶をしてから彼を追うけれど、いつもは歩くペースを合わせてくれるのに今日はペースが速い。
彼に追いつこうとすると小走りになってしまって段々息が上がってくる。
「爆豪くん!爆豪くんってば!」
「うっせぇな!聞こえとるわ!」
「なんでそんなに怒ってるの!?」
「怒ってねぇんだよ!!」
誰がどう見たって怒ってる。
みんなといる時も最後の方は不機嫌そうだったし、別れてからはあからさまに怒ってる。
私が何か気に触るようなことをしてしまったのか。
話しかけても歩くペースを緩めてくれる気配はなくてこのままじゃいけないと思い、勝己くんの腕を引っ張って帰り道から逸れた道を歩く。
「おい、何しとんだ!」
「いいから来て」
爆豪くんがなんで怒ってるのか知りたい。私が悪いならちゃんと謝りたい。
彼が本気でやれば私の手くらい簡単に振り払えるけど文句を言いながらもついて来てくれてる。
ちゃんと話したくて道を逸れたけどどこに行くか考えてなかった。
そういえばこの先に河川敷がある。人目もないしそこにしよう。
「…なんで怒ってるの?」
薄暗くなって来た河川敷には誰もいなくて、私は息を整えながら爆豪くんの顔を見てもう一度同じ質問をした。
周りにはもうすっかり新緑になってしまった桜の木がたくさんあって、それが風に吹かれる音だけが聞こえる。
「怒ってねぇって言っとんだろ!しつけぇな!」
「私何かした?」
私の言葉に返してはくれるけど目を合わそうとしてくれない。
「爆豪くんが何を思ってるのか、ちゃんと話してくれないと…わっ」
「黙っとけ」
それは突然で、何が起きたのか理解するのに頭が追い付かなかった。
腕を強く引かれて、そのあと爆豪くんの匂いが鼻をくすぐって、苦しいくらいの強い力が伝わって来る。
身動きが取れなくて、少し遅れて爆豪くんに抱きしめられていることを理解した。
頭が状況を理解すると恥ずかしさもあったけど、それより何で抱きしめられているのか今度はそれが理解出来なかった。
「ば、爆豪くん…なにしてるの…!」
「俺のことだけ考えて頭回してろ」
「え…?」
強く抱きしめられていて彼の顔は見えない。
でもその声に怒りはなくて、優しくて真っ直ぐだった。
「他の男のことなんて考えてんじゃねぇ。俺だけ見てろ」
「う、うん…?」
「……てめェ、意味わかって聞いとんのか」
私の体を引き離した彼の顔を見ると今まで見たことがないくらい真剣で、その綺麗な赤い瞳に真っ直ぐ見つめられて目が離せなくなる。
「好きだ。てめェに惚れてる」
「………え、あ、うそ」
「こんなしょうもねぇ嘘つくわけねぇだろ」
わかってる。あなたが嘘をつかないこと。
だから言葉の意味をはき違えて、自分のいいように解釈しようとしてるんじゃないかって自分を疑ってしまう。
「…キスされなかっただけありがたく思えや。悪かったな」
何も言えずに固まっている私に彼はそう告げる。
こんなに苦しそうな顔を初めて見た。
違うって、ちゃんと伝えなきゃ。
爆豪くんは私にちゃんと伝えてくれた。
ここで恥ずかしいから言えないなんて、そんなのダメだ。
私もちゃんと、今ここで伝えなきゃ。
「爆豪くんっ!!」
私を解放した彼の腕を咄嗟に掴むと少しだけ驚いたような顔をしていた。
腕を掴んだ手に力が入る。
「私っ!他の男の人のこと考えたことないっ!!」
意味がわからないって顔してる。
でも、ちゃんと最後まで聞いて。
「爆豪くんが、好き…です」
顔が熱い。火が出そう。
「いっぱい、爆豪くんに惚れてます」
そう言い終わるとまた強い力で腕を引っ張られて、気付けば爆豪くんの腕の中に閉じ込められてる。
心臓がドクドクとうるさい。
さっきはただただビックリして余裕がなかったけど、彼の体温を感じる。
「……クソだせぇ…。はよ言えや」
「…ん、好き。大好き」
一度伝えたその言葉は今までずっと隠してたのが嘘かのように溢れだして来て、好きって気持ちが止まらなくなる。
私の気持ちはちゃんと伝わりましたか?
他の人が入る隙間なんて少しもないくらい、爆豪くんでいっぱいなんだよ。
「てめェがそんなに俺に惚れてンなら付き合ってやるよ」
「うん…爆豪くんがそんなに私に惚れてるなら付き合ってやるよ」
「ハッ、生意気」
いつもみたいに自信満々で、イタズラな笑みを浮かべると爆豪くんの指が頬に触れて、それから柔らかくて優しいキスが降ってきた。
恥ずかしくて、嬉しくて、幸せで、泣くつもりなんてないのに涙がこぼれた。
頬に触れたままの指先が涙を拭ってくれる。
ドキドキしすぎてこのまま心臓が止まってしまいそうだった。
「爆豪くんが怒ってたのってもしかしてヤキモチ、とか?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ!!誰がヤキモチなんざ妬くかよ!!」
「へへへ、自分にヤキモチだぁ!」
「いい度胸だなァ、なまえ!」
爆豪くんの顔には青筋が浮かんでて、これはまずいと思っても手遅れだ。
でもそれ以上に初めて名前で呼ばれたことに胸が高鳴る。
一気に幸せなことが起きすぎてこれは夢なんじゃないかって思うけれど、彼の体温と優しく力強い腕が現実なんだと教えてくれる。
大好きな人に不器用な告白をしてもらえて、私は今世界一幸せなんだと思う。
だからこれから起きることをこれっぽっちも想像なんてしてなかった。
幸せの時間はあっという間に終わっていくなんて、誰が予想したんだろう。