君に贈る花言葉。
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Side爆豪
当たり屋モブ野郎に絡まれた女の護衛をやることになった。
売り言葉に買い言葉で切島にもやるって言っちまったから後には引けねぇ。
やるからには徹底的に完璧にやってやる。
女の名前はみょうじなまえっつーらしい。心底どうでもいい。
みょうじは俺と切島に申し訳なさそうにずっとヘコヘコ謝ってきやがって、それすらめんどくせぇしうぜぇ。
震えながらもクソモブ野郎に言い返してやがったのは、以外に度胸あるやつだとは思ったが。
連絡先を交換すると「ありがとう!爆豪くん、切島くん」と言って笑顔を見せた。
ンだよ、そんな顔も出来るんか。
みょうじはこれからバイトがあるらしく「遅くなるから大丈夫です」と言っていたが、ついさっき狙われたばかりだ。
女のコイツからしたら恐怖でしかなかったのか、大丈夫と笑いながらも指先が震えてるのに気付いた。
バイト先の場所を聞いたら角を曲がってすぐの飲食店だと言っていた。
終わる時間になったら迎えに来てやると伝えてみょうじとは別れるが、切島が「あ!ワリィ爆豪!俺今日この後予定あってみょうじの迎えは無理だ!てことでよろしく頼む!」と抜かしやがった。
めんどくせぇが約束しちまった以上仕方ねぇ。
明日クソ髪のことはぶっ飛ばすと決めた。
19時50分。
あの女のバイト先の近くで終わるのを待つ。
ババアには女迎えに行くって言うと後がめんどくせぇからダチのとこに行くと誤魔化した。
イヤホンをつけて曲を流して時間を潰しながらこれから来る女のことを考える。
名前と雄英近くの公立高校に通ってることと住んでるとこくらいしか知らねぇ。
当たり前だ、今日会ったばかりのやつだからな。
20時10分。
パタパタと走る音がイヤホン越しに聞こえて顔を上げると昼間に見た女が駆け寄ってくる。みょうじだ。
「爆豪くん!お待たせしました!迎えに来てくれてありがとう!」
俺がイヤホンを外すのを確認すると昼間の怯えた表情は消えて笑ってやがった。
バイトが気分転換になったのか表情が柔けぇ。
「はよ帰んぞ」
「あ、うん!お願いします」
駅までの道を歩いてると俺の少し後ろを必死に着いて来る。
ンだ、コイツ。歩くのクソ遅せぇ…。
仕方なく歩く速度を落として合わせてやると隣に追いついて来て、俺の顔を見上げながらみょうじは嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとう。爆豪くんって優しいね」
「あ?」
「今日ね、爆豪くんが私の事支えてくれて、あの男の人に言い返してくれたり、すごくめんどくさいだろうし、やりたくないと思うのにこうして迎えに来てくれて、すごく心強くて嬉しい!爆豪くんとも切島くんともお友達になれたしね!」
「ざけんな、友達じゃねーわ」
「あ、そうだよね、ごめんね」
笑ってるかと思えば俺の言葉に肩を落としたり、表情がコロコロ変わって忙しいやつ。
バイト行く前はずっと不安そうに怯えてたのにな。
俺が迎えに行ったくらいのことでも、ちったァ前向けたんならよかったんじゃねぇか。
「あ、私は甘い物が好き!ジメジメする日はちょっと苦手かな。それでお花と小さい子が好き!私たち知り合ったばかりでお互いのこと何も知らないでしょ?だからお友達になるための一歩!爆豪くんは?」
突然自己紹介なんざし始めて無邪気に笑うコイツに少しガキっぽさを感じて、てめェがガキじゃねぇかと思う。
みょうじはよく笑って、よく喋るやつで、この数十分でもそれがよくわかる程やかましい。
やかましいと言ったが、その声が耳障りなことはなく、むしろ耳に馴染んで来やがる。
体はちっせぇし細ぇ。コイツの雰囲気も相まって見るからにひ弱。
昼間のクソモブが標的にして来やがったのも頷ける。
「私は子供が好きだから保育士さんになりたいんだ。ヒーローになるって爆豪くんみたいに立派な夢じゃないんだけど」
「なりてぇって思っとんなら十分立派な夢だろーが」
「やっぱり爆豪くんって優しいね!損してるって言われない?」
知り合ったばっかのコイツと2人で帰ることに苦痛を感じてねぇ自分に驚く。
なんならコロコロ変わる表情が面白ぇとすら思う。
コイツの家は折寺のひとつ手前の駅を降りて15分くらい歩いたとこだった。
駅まででいいなんて言って来やがったが、やるからには徹底的にだ。
それにこんな時間に女一人で歩かせるわけにもいかねぇ。
歩いてる間もずっとみょうじは楽しそうに喋ってやがった。
家の前に着くと俺に振り返る。
「爆豪くん、お願いがあります」
「あ?ざけんな!聞かねぇよ」
「爆豪くんと切島くんに迷惑かけるのも嫌だから次何かあっても自分でなんとかする!頑張るから!」
「聞いとんのかてめェは」
「聞いてるけど、だから明日、お友達として一緒に登校してほしいな、なんて…だめかな」
「…登校すンのは変わんねぇんじゃねぇか。勝手にしろや」
俺の言葉を聞くと真剣で少し不安そうな顔が一気に明るくなった。
コイツ感情がわかりやすすぎんだろ。
「爆豪くん、本当にありがとう。正直昼間のことがあってから不安で怖かったんだけど、爆豪くんがいてくれたから安心出来たよ」
「そうかよ」
「うん、あ、待ってね」
みょうじが手のひらを上に向けると花が一輪出て来た。
コイツの個性か?
「私、個性でお花を咲かせられるの。あげる!爆豪くん興味ないと思うけど感謝の気持ち!トルコキキョウっていう私の好きなお花!本当は個性で出すより愛情込めて育てた方がキレイなんだけどね」
正直花に興味なんて微塵もねぇ。
ババアがたまに買ってきちゃァ花瓶に挿してるくらいだしな。俺ァ花の名前すらよく知らねぇ。
「トルコキキョウの花言葉には感謝と希望って意味もあるんだよ。今日の感謝と爆豪くんのヒーローへの道の希望を込めて!」
柔らけぇ顔して笑うみょうじからその一輪を受け取った。
まさかこの俺が柄にもなく女から花もらう日が来るとはな。
コイツの笑顔とレースみてェな花の柔らかさが似てて思わず笑っちまう。
「気を付けてね、また明日」と手を振るみょうじに背を向け今まで歩いて来た道を戻り家に帰る。
電車の中で持ってる花が視界に入ると小っ恥ずかしくなって舌打ちをした。
「勝己、何その花」
家に着いたらババアが目ざとくすぐに花に気付きやがった。
下に向けて見えねぇように持ってたのにだ。
「…花瓶にでも挿しとけや」
ババアに渡すと花と俺を交互に疑うような目で見てきやがる。
クッソめんどくせぇな。
「友達のとこ行って花持って帰って来るってどんな友達よ」
「…関係ねぇだろ」
「……へぇ」
それ以上は何も聞いて来やしなかったが含んだ笑みを浮かべてやがる。
ダチと偽った相手が女だって勘づいてンのがわかって舌打ちをして部屋に戻った。
部屋に入ってベッドに腰掛けて携帯を開くとみょうじからメッセージが届いてる。
「爆豪くん、今日は本当にありがとう。嬉しかったです。
また明日!おやすみなさい」
短ぇメッセージを読んで口角が上がってる自分に気付く。
表情がすぐに変わって喜怒哀楽がハッキリしてるみょうじは見てて飽きねぇ。
アイツは俺がなんて言えば困った顔をすんのか、なんて言えば照れんのか、なんて言えば楽しそうに笑うんか。
知りてぇと思う自分にクソが…と悪態をつく。
思えばこの時からだったのかもしれねぇな。
俺は最初からコイツのことが気になってた。