君に贈る花言葉。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
6年前。高校1年の春。
私は公立高校の普通科に入学した。
有名な誰もが憧れる雄英高校にも普通科はあるけど、私にはとても手が届かないのでそもそも受けるという選択肢はなかった。
入学して友達も出来た。バイトも許可されてる学校だったからバイトも始めた。
職場の人たちも優しくて、親切で、人に恵まれて、私なりに順風満帆な高校生活を送っていた。
この日も学校が終わってそのままバイト先に向かっている途中だった。
よそ見をしていたわけでも、音楽を聞いていたわけでもない。
ただ普通にいつも通り、歩き慣れた道を歩いていただけだった。
「きゃっ」
ドンっと前から来たガタイのいい男の人とすれ違いざまにぶつかった。
ぶつかった、というか、ぶつかって来たと言う方が正しい。
この人が来ることを視認していたし、通れるように道を空けた。
それにもかかわらずぶつかったという事はそういう事だ。
私はぶつかった勢いのまま硬いコンクリートに倒れそうになって痛みに備えて目を瞑ったけど、痛みはやって来なかった。
「おいおい、痛ってぇな。腕折れたし服も汚れたわ。なぁ、金だよ金。慰謝料ほら、早く出せよ」
その人は私とぶつかった衝撃でよろけてブロック塀に体をぶつけたようだった。
私とは体格差があるのにそんなによろけるなんて明らかにおかしい。
「てめェがぶつかって来たんだろ、当たり屋がよ」
自分の真後ろから聞こえた声にハッとすると薄い金髪の不機嫌そうな男の子が私の腕を支えてくれていた。
そのおかげで倒れなくて済んだんだと気付く。
「部外者は引っ込んでろよ、俺はこの姉ちゃんと話してんだよ」
「あ?通行の邪魔してんじゃねぇわ。巻き込まれとんだ、こっちは」
私の後ろを歩いていたら私が倒れたから咄嗟に支えてくれたみたいだ。
体勢を整えると私を背中に隠すように立ってくれた。
「姉ちゃん金。さっさとしろよ。こっちは怪我してんだよなぁ」
「私からぶつかってません…!悪くないのにお金は払えません…!」
私も自分が悪くないからそれを主張する。
怖くて声が震えてしまったけれど、彼の背中がすごく心強かった。
「俺ら後ろから見てたけど、自分からこの子にぶつかって来てたように見えたぜ」
「てめェとコイツの体格差じゃ、どう考えたって負けんのはコイツだろ」
不機嫌そうな男の子の隣から赤髪の男の子が声を出す。
同じ制服を着ているから2人は友達なんだろうか。
私は怖くて立ってるのもやっとなのに、臆せず戦ってくれる二人はヒーローに見えた。
「あー、ここで話しててもらち明ねぇわ、来い」
「や、いやっ」
「今度は人さらいかよクソモブ野郎」
その男の人は私の腕を思いきり引っ張ってどこかに連れて行こうとするけど、薄い金髪の男の子が私の腕を掴んでくれたおかげで連れて行かれずに済んだ。
それに男の人とも体格差があるのに力負けしてない。
「あ!おまわりさーん!すんません!この人なんスけど!」
「チッ、クソガキ共が!女ァ、顔覚えたぜ。俺の邪魔したこと後悔させてやるからなぁ」
去り際の男の人の顔と言葉に今まで以上の恐怖を感じた。
赤髪の男の子がちょうど通りかかったお巡りさんを呼んでくれたおかげで男の人は逃げて行って、私もなんとか無事だった。
視界から見えなくなると彼は掴んでいた私の腕を解放してくれた。
途端に一気に恐怖と安堵で力が入らなくなって地面に座り込んで涙が溢れてきた。
「こ、わかったぁ…」
「おい、泣く前に立てや」
「力入らなくて、立てない…」
「めんどくせぇ女だな、てめェは」
この人、口悪いけどちゃんと守って付いててくれるの優しいな。
赤髪の男の子はお巡りさんに事情を説明してくれてる。
よく見たら2人とも雄英高校の制服だ。
ヒーロー科なのかな。だからきっと助けてくれたんだ。
「助けてくれてありがとう」
「全くだわ。目の前でよろけてきやがって」
「ごめんなさい」
涙を拭って立ち上がろうとするけれど、今までどうやって立ってたのかわからないくらい力が入らなくて立てない。
腰が抜けるってこういうことかと思ってしまった。
「あの…」
「あ!?今度はなんだよ」
「手を貸してもらえませんでしょうか…」
「ざけんな!自分で立てや!」
「だって怖くて腰抜けちゃったんだもん!」
私が堂々と言うと彼は舌打ちをしながらも私を引っ張って立たせてくれたのでもう一度お礼を伝える。
口悪いけど、やっぱり彼は本当は優しい人なんだろうな。
こんなに優しいのに損してそう。
「被害にあったのは君だね」
赤髪の男の子とお巡りさんがこちらに寄ってくる。
本当にこの2人がいてくれてよかった。
私1人だったら連れて行かれてしまって今この場にいれなかったと思う。
そう思うとまた恐怖が襲って来た。
「事情はこの少年から聞いたよ。最近ここら辺で今回と同じような被害届が何件か来てるんだ。犯人は多分同一人物だと思う。情報から推察するにそいつは執着心も強そうだからまた狙われる可能性もある。しばらく1人になるのを控えた方がいい」
お巡りさんの説明でまた狙われるかもしれないと聞いて、さらに怖くなって体が震えているのが自分でもわかる。
平常心でいようとしても腕を掴まれて連れて行かれそうになった感覚がまだ残ってる。
「わ、わかりました。気をつけます…。ご、ご迷惑を、おかけしました」
「無事で何よりだよ。君たちもありがとう。それじゃあ気を付けて帰るんだよ」
帰って行くお巡りさんにお辞儀をする。
体を起こして、短く息を吐く。
「いつまで握っとんだ、離せや」
金髪の彼の声にハッとして上から下まで見回すと彼の袖を無意識のうちに握りしめていたみたいで「ごめんなさい!」と慌てて離した。
いつから握りしめてしまっていたのかわからないけれど、一段落するまで何も言わずにいてくれた優しさに少し恐怖が和らいだ気がする。
「2人ともありがとう。本当に、2人がいてくれなかったら私どうなってたか…」
「いいってことよ!それよりまた狙われるかもしれねぇのは心配だよな」
「その時はてめェでなんとかしろや」
「おいおい、怖がってる女の子になんてこと言うんだよ!」
彼の言う通りだ。また何かあったら今度は自分一人でなんとかしないといけない。
次また誰かが近くにいてくれて、お巡りさんがいるなんてそんな保証はないんだから。
「大丈夫!なんとかする!」
両手で握り拳を作って笑ってみせる。
これ以上迷惑もかけられないし、 これは楽観的だけどまた狙われるって決まったわけでもない。大丈夫。
「ヒーローを志す男として狙われるかもしれねぇ女の子をほっとくなんて出来ねぇ!な、爆豪!」
「ほっとけや!なんで俺が見ず知らずの女の世話しなきゃいけねぇんだ!」
「ヒーローは見ず知らずの市民助けるのが仕事だぜ!あ、爆豪には荷が重いか?」
「軽ィわ。ざけんな、やったるわクソが」
「おう!その意気だぜ!さすが!」
「え、え!?」
もう私を守ってくれるっていう話でまとまってる!?
完全に会話に置いていかれたし、赤髪の男の子の方は爆豪くん?の扱い方に慣れてるのか、焚き付けたよね…。いいのかな…。
「あの、でも申し訳ないから」
「うっせぇ黙れ!やるって言ってんだろーが!」
「あ、コイツすげぇ口悪いけどちゃんと強いし、根はいい奴だから安心していいぜ!」
「そういう事じゃなくて…」
「やるからにはてめェには指一本触れさせねぇ。完璧に守ってやる」
そんな言葉を言われる日が来るなんて…ドキッとしまった。
申し訳ない気持ちとさっきの恐怖を思い出して頼りたい気持ちに揺れる。
2人ともこう言ってくれてるし、頼ってもいいのかな…。
「本当にいいの…?」
「しつけぇ」
「だって本当に見ず知らずだし…迷惑かけちゃうよ…」
「気にすんなって!」
「何かあった時の方が気分悪ぃわ」
「……じゃあ、あの、よろしくお願いします!」
「おう!」
ただ絡まれた私の後ろを歩いていただけの二人なのに。
雄英のヒーロー科ということを除いたとしても見ず知らずの女の、そんなめんどくさい事を引き受けて、不確定要素から私を守ってくれるなんていう人がいるだろうか?
彼らは初めて出会った時から私のヒーローだったけれど、今思うとこの時、私たちは出会わなければ良かったのかもしれない。
出会わなければ、こんなにも思い悩んで、苦しくて、辛くて、自分の気持ちを押し殺さなくてよかったのかもしれない。
勝己くんのことを好きにならずに済んだかもしれない。
爆豪勝己と切島鋭児郎とは私の不運な出来事をきっかけに出会った。
これが全ての始まりだった。