君に贈る花言葉。
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切島くんと一緒に職員室に戻ると職員たちがにこやかに迎えてくれて私も釣られて笑顔になった。
感謝を伝えてから帰り支度をしているとヒーロースーツから私服に着替えた切島くんが職員とわいわい楽しそうに喋っている。
持ち前の明るさで彼は誰とでも直ぐに打ち解けるからすごいなぁと思う。
「烈怒頼雄斗、今日はありがとうございました!」
「へ!?いや、俺は何もしてねぇッス!ただ居ただけで頑張ったのはみょうじッス!」
「切島くんがいてくれてすごく心強かったよ。ありがとう!」
「…おう!」
私がお礼を伝えると切島くんは少し照れたような顔をしていて思わず笑ってしまったけれど、一度笑顔を消して今度は職員に向き直る。
「みなさんにもたくさんのご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私のために時間を割いていただいて」
「堅い!!」
私の言葉を遮って大きな声を出したのは理事長だった。
普段こんなに大きな声を出してるところを聞いたことがなかったのですごくびっくりしたけど、驚いたのは私だけじゃなくてこの場にいた全員だったみたいだ。
「みょうじさん。あなたのことは入社面接から今までずっと見て来ました。あなたがどういう人か私たちは知っています。だからここにまで気を遣う必要はない。いいんだよ、大丈夫だから」
理事長のその言葉を聞いて職員たちも笑顔を向けてくれて、引っ込んだはずの涙がぼろぼろと零れるには十分で、精一杯感謝の気持ちを口にした。
そんな私の背中を切島くんは「よかったな!」と言いながら優しく叩いて笑った。
周りの人に支えられて生きていると実感する。
私は本当に人に恵まれた。それはとても幸せなことだ。
みんなで少し話をしてから私と切島くんは帰宅するために靴を履き替えて外に出ると子供のはしゃぐ声が聞こえた。
「ダイナマイトだ!!!ダイナマイト!!!」
子供が呼ぶヒーローの名前は私の大好きなヒーローでここにはいないはずの、早く会いたいと思っている人の名前だった。
その声の方を向くと見慣れた大好きなヒーローの後ろ姿があって、子供が3人、彼のことを囲んでいた。
「大・爆・殺・神 ダイナマイトだ!ちゃんと覚えろや!」
「さっきテレビ出てたの見たぜ!」
「今日ヒーロースーツ着てないのかよー!」
「仕事終わったあとにヒーロースーツ着てるわけねぇだろ」
遠くからこっそり見ていると面倒くさそうにしながらも子供たちの相手をしてる勝己くんに思わず笑がこぼれる。
保護者から悪影響と言われたけれど、実際ダイナマイトは子供からの人気も高い。
乱暴だけど敵に勝つ強いヒーローなんて、子供の憧れそのものだと思う。
「ダイナマイト、お願いがあるんだけど」
「あ?ンだよ」
「握手してくださいっ!!」
そう言って手を勝己くんに差し出す子供たちのお願いはとても可愛いけれど、勝己くんはその手をジッと見る。
「しねぇよ」
勝己くんのその一言で場は凍り付いて、見ているこっちもハラハラしてしまう。
切島くんも「握手くらいしてやれよ!男らしくねぇ!」と小声で言っている。
そのまま見ていると勝己くんは子供たちの目線に合わせて座り、握った拳を子供たちの目の前に差し出した。
「男ならグータッチだろーが」
にっと笑う勝己くんに子供たちは目を輝かせて嬉しそうにグータッチをしている。
それを私と切島くんはとても微笑ましく見ていた。
言葉遣いはたしかに悪いけれど、彼はとても優しい人だ。
「ありがとう、ダイナマイト!」と嬉しそうに子供たちが走って帰って行くのを勝己くんは「気ィ付けて帰れやクソガキども」と声をかけながら見送っていた。
「…いつまで見とんだ、人のこと待たせやがって!遅ぇんだよクソが!!」
「せっかくほわほわの雰囲気だったのに台無し!!」
「ほわほわしてねェんだよ!!」
こっそり見ていたつもりだったけれど、やっぱり勝己くんにはバレバレだったみたい。
それに私の職場には来ない予定だったのに「人のこと待たせて」って怒鳴ってたから、子供たちへのファンサービスを見られた照れ隠しなのかも。
そう思ったら勝己くんも可愛くて微笑ましくなった。
「爆豪、お疲れ!男らしかったぜ!公開惚気!これでまた上鳴たちにネタにされんなぁ!」
「惚気けてねェんだよ。その時ァあのアホ面ぶっ飛ばす」
「上鳴くん可哀想だよ!」
「てめェのことでもあんだろうが!」
切島くんは楽しそうに豪快に笑ったあと、私たちを見て安心したような顔をしていた。
「爆豪来たし、俺も事務所寄って帰るわ!」
「ありがとう、切島くん!」
「…あんがとな」
「おう!じゃあな!」
片手を挙げて自分の車に戻って行く彼を見届けると勝己くんは私の頭に手を置いた。
その手が大きくてあたたかくて安心して、張り詰めていた心が一気に解けていくようだった。
「俺のいねェとこで泣いてんじゃねェよ」
「…うん、ごめん」
そっか、私が泣いてるのをテレビで見て駆け付けてくれたんだ。
不器用な言動の裏にはいつだって彼の優しさが溢れてる。
だから説明会で勝己くんを悪く言われた時は許せなかった。
私が考えていることを知ってか知らずか、勝己くんは私の頭に置いた手に力を入れて自分の方へ引き寄せようとしたので慌てて制止する。
「待って、だめ」
「…あ?」
制止されたもんだから勝己くんは不機嫌丸出しだ。
いやでもここは職場だし、さすがに抱き寄せられてるの見られたら恥ずかしさもある。
それになにより
「今抱きしめられたら泣いちゃいそうだし、なんか、あの…」
「ハッキリ言えや」
「…甘えたくなって止まらなくなりそう、だから…」
勝己くんの顔を覗き見ると驚いた顔をしたあとに悪そうな顔をして「ンじゃあ、はよ帰んねェとなァ」と私の手を引くと車に向かって歩き出す。
言わなきゃよかったかなぁと少しだけ思ったけれど、でも早く二人になりたいと思う気持ちの方が大きくて大人しく勝己くんについて行って車に乗り込んだ。
今朝ぶりの勝己くんのおうちなのに随分久しぶりに帰って来た気がするのは朝からずっと気を張り続けていたせいだろうか。
車を下りてから玄関までの間、勝己くんの背中を見ていた。
見慣れてるはずの彼の背中は学生の頃と同じワイシャツ姿のせいか、あの頃よりもたくましいと感じる。
「…は、何しとんだ」
勝己くんに続いて玄関に入って、ドアが閉まると同時に後ろからたくましい背中に抱きつくと勝己くんの匂いと体温に安心する。
「…見てたよ、会見。私のこともお父さんのことも守ってくれてた。私のために頭下げてくれた」
「なまえも俺の事庇ってたろ」
「庇ったっていうか、勝己くんのこと何も知らない人にひどい事言われるの許せなかったんだもん」
「ンじゃ、一緒だろーが」
そっか、一緒だ。
私も勝己くんもお互い知らない人に好き勝手言われるのが許せなかった。
だからお互いを守るために戦った。
今後のことはまだわからない。勝己くんへの風当たりが強くならなければいい。
それすらも今はまだわからない。
だけど少しだけ、少しだけ気を抜いてもいいかなぁ。
「勝己くん、私のこと大好きだね」
「俺を惚れさせるヤツなんざ、これから先もなまえだけだろ」
「ぁ…あ、わぁ…それはずるい…」
背中から抱きしめててよかった。
面と向かって言われてたら、勝己くんの顔がちゃんと見えていたら、緩んだ心には恥ずかしすぎて耐えられなかったかもしれない。
「つーかてめェはほんっとに雰囲気もクソもねェな!?玄関ってありえねェだろ!」
「勝己くんの背中見てたらつい、こう…ギュってしたくなって」
ごめんねと謝りながら勝己くんから腕を離して靴を脱いで部屋に上がる。
前を歩く背中を見ながら、たしかに玄関で靴も脱がずに抱きついてしまったことを反省する。
キッチンで2人分のコーヒーを入れてソファに座る勝己くんに渡して隣に座る。
ソファに体を沈めて思わず「はぁ~~」と声が出てしまったけれど、勝己くんは気にする様子もなくコーヒーに口をつけてからテーブルに置いていた。
ソファの背もたれに体を預ける勝己くんの隣から顔を見る。
「あのね、説明会が終わったあとに応援してるって何人かの保護者に言ってもらえたの!」
「今までなまえの何見てガキ預けとったんだって話だろ」
「ふふ、うん、でも嬉しかった!」
説明会を見ていたみたいだから保護者とのやり取りも知っているはずで、誰も自分からマイナスになることを言うはずもない。
仮に父の件を公表していたとしても同じことは起きていたはずだ。
だからこそ、今まで何を見てたんだという勝己くんの言葉なんだろう。
私はとても勝己くんに大切にされていると実感しながら、隣の筋肉質な肩に頭を寄せた。
「だけどやっぱり1番嬉しかったのは勝己くんの言葉と心配して駆けつけてくれたことだよ」
「そーかよ」
「うん、誰も勝己くんには勝てないんだよ」
「ンなモン当たり前だわ」
他の誰かが勝己くんと同じ言葉、同じ行動をしてくれたとしても、勝己くんじゃなきゃ意味がない。
同じ場所にいなくても私に力と勇気をくれるあなたは本当にすごい人で、私のヒーローだと改めて思った。
だから勝己くんには誰も、何も勝てないんだよ。
「一緒に戦ってくれて、ありがとう」
「てめェが背負ってるモンは俺のモンでもあんだよ」
「…うん、ありがとう」
ずるいなぁ。勝己くんはいつもずるい。
こんなことを簡単に言えるなんてすごい人だ。
いつも私の一番の味方でいてくれる。寄り添ってくれる。
私はこんなに恵まれていていいのかなって時々思うんだ。
それでね、その後には勝己くんが隣からいなくなってしまわないように抱きしめたくなるの。
「さっき俺のこと止めやがっただろーが。かと思えば場所考えねェし」
職場の前で私が制止したのが気に入らなかったみたいで、体勢を変えて勝己くんに向き合って抱きつく私に文句を言ってくるけど、しっかり抱きしめ返してくれてることに胸がきゅうっとする。
「私だって、早く会いたいって思ってたし、その…抱きしめてほしかったけど…職場だし、止められなくなっちゃいそうだったし…」
「おかげでお預け食らったわ」
「へへ、ごめんね」
みんなテレビの勝己くんしか知らないんだよね。
勝己くんが子供に優しいこと。周りをよく見てること。努力家なこと。嘘はつかないけど素直じゃないこと。食べ方がすごくキレイだったり。何気ない時の横顔のかっこよさとか。髪の毛が見た目よりも柔らかいとか。真っ直ぐ見つめてくる瞳がキレイなこととか。たまに甘えてくるのが可愛かったり。すごく一途で大切にしてくれることとか。
あ…そっか。
近くで一緒にいれてる私だから、勝己くんが他では見せないところ知ってるんだ。
勝己くんのそばにいないとわからないことだらけだ。
そっかぁ、そしたらそれは
「……やだなぁ」
「あ?」
「たくさんの人に勝己くんのいいところをたくさん知ってもらいたいけど、私だけが知ってる勝己くんを知られちゃうのはやだなぁって」
他の人が勝己くんの隣にいたらと想像すると嫉妬して独占欲ばっかの余裕のない彼女だなぁ。
勝己くんに回した腕に少し力を込めて肩に顔を埋めると鼻で笑われた。
それから気付くと体はソファに沈められて勝己くんが覆いかぶさっていて、今日一日ずっと見ていたはずなのに見慣れないスーツ姿にドキッとしてしまう。
「バカかてめェは。なまえだけだっつってんだろ」
「…そういうとこ、ずるいんだよなぁ」
「ずるくねェわ。俺ァいつだって正々堂々なんだよ」
「ふふ、そうだね」
あぁ、大好きだなぁ。
やっぱりこの先何があったとしても勝己くんとなら大丈夫って思える。
だから余計に昔の私はバカなことをしたなって思う。
あの頃に戻れるなら「逃げるな」って私に言いたい。
表立ってくれる彼を支えたい。
そのために私も強くなるよ。
No.1ヒーローの隣にいても恥ずかしくないくらいに。