君に贈る花言葉。
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「なんかお前ら似てきたな」
勝己くんがいなくなった部屋に切島くんの声が響く。
この状況から考えてお前らって言うのは私と勝己くんのことだろうけど、似て来た自覚もなければどこが似てるのか検討もつかない。
「そ、そう?」
「全員殴るとか」
「あ、口悪かったよね。ごめんね」
「爆豪の口の悪さからしたら可愛いもんだ!それにそれだけじゃないけどな」
「……?」
そう言って切島くんは笑った。
口悪く強気で言ったのはね、私も勝己くんみたいになりたいから。
あ、口悪くなりたいんじゃなくて、勝己くんの強さを見習いたくて。
今日は負けられないから。
「っしゃ!俺らも行くか!」
「よろしくお願いしますっ!」
「おう!任せな!」
拳を合わせる彼はとても力強くて心強い。
私も私に出来ることを精一杯頑張らなくちゃ。
準備をして早めに職場に向かう車の中では切島くんが私の緊張を解すためか、ずっと喋っていてくれてその気遣いが嬉しかった。
職場に着いて「ご迷惑をおかけしてすみません。今日はよろしくお願いします」と挨拶をすると「大丈夫。頑張ろう!」と笑顔を向けてくれて涙が溢れそうになるのを堪えた。
切島くんはヒーローのコスチュームに着替えて準備を済ませている。
時計を見るともうすぐ勝己くんの会見が始まる時間だ。
職員室にあるテレビを付けるとどのチャンネルでも勝己くんの会見会場が映し出されていて、時間になって勝己くんが壇上に上がると眩しいくらいにカメラのシャッターが切られる。
会見が始まり、勝己くんは落ち着いた様子で記者の質問に答えている。
嘘をつかない彼の言葉は全部が本心で、お父さんのことも私のことも守ってくれていて、これ以上私に火の粉が降りかからないように盾になろうとしてくれるのがわかる。
彼の深い優しさと愛情に涙が出ないように唇を噛んだ。
「全国放送で惚気けたな!」
「…うん」
「爆豪、かっけぇな」
「…うん」
トンっと背中を切島くんが叩いた。それは大丈夫だと励ましてくれるように優しかった。
なんとか涙をこらえきって最後まで勝己くんの会見を見た。
ああ、やっぱり勝己くんは私のヒーローだ。
どこにいたってその存在が、言葉が、私の原動力になる。
次は私の番。
勝己くんの会見が終わって1時間後に職場の説明会が始まるので、しばらくすると保護者たちが集まってきた。
「みょうじ!俺は近くで待機してっからぶちかまそうぜ!」
「ふふ、おう!」
2人でガッツポーズをしたあとに深呼吸をする。
緊張は無い。私には切島くんも、勝己くんも、勝己くんの言葉もついてるから。
時間になって会場となっている園のホールへ入ると保護者の他にメディア関係者も来ている。
理事長と園長と共に前に置かれているテーブルと椅子の前に立ち、お辞儀をして理事長が挨拶をして説明会が始まった。
「この度は私の父のことで皆さまにご心配、ご迷惑をおかけしました事、心よりお詫び申し上げます。本日は皆様からのご意見、ご質問に時間の許す限りお答えしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げてから、今回の事件の発端についてを説明した。
6年前にヴィランに目を付けられて学生だったダイナマイトと烈怒頼雄斗に助けられたこと。
それを根に持たれてしまって、父を標的にされてしまっていたこと。
私を人質に取られ、職場の金を横領することを強制させられ、罪を犯してしまったこと。
そして、全ての真相をこの前の事件で知ったこと。
全て包み隠さずに話した。
「……だから犯罪をしても許されると?その事実を隠していたあなたをこれからも信頼していけと?」
「父のしたことは決して許される事ではありません。そしてそれを黙っていた事で大切なお子様を預けていただいている保護者の皆様からの信頼を失ってしまうのは当然だと思います」
理由がどうあれ許されないことをした。
ヒーローや警察に言っていれば父は犯罪者にもならず、あのヴィランはその時に逮捕されていたかもしれない。
でも今そんなことを言っても何にもならない。
「アンタもアンタの父親と同じように大事な子供たちの金を取って行くんじゃないかって思っちまってる」
言葉が心臓を突き刺してくるみたいだ。
だけど戦うと決めた時にこんな事は覚悟した。
「そんなことしません、なんて口ではいくらでも言えます。今の私がそんなことを言っても信ぴょう性に欠けると思います。だからこれからの私をもう1度見て、評価していただきたいです」
私の信頼はなくなった。だから、もうこれからを見てもらって信頼を取り戻すしかないんだ。
それはすごく険しい道だけれど、やると決めたんだから。
「こんなことまで言いたくないけど、ダイナマイトと交際されてるんですよね?子供の人格形成に大事な時期を預かる人が粗暴な人とお付き合いしてるのもちょっと……ハッキリ言って彼の言動は子供の教育に悪影響だと思うんです」
私を攻撃出来れば話題なんてものはなんでもよかったんだと思う。
でもこの言葉に我慢は出来なかった。
私のことは何と言われようと構わない。
だけど彼を、勝己くんを言うことは許せなかった。
「…彼の言葉遣いはいいとは言えません。でも、その言葉の裏側にはたくさんの優しさが詰まっています!彼の言葉に私は何度も救われました。彼の優しさが私をここに立たせてくれた。彼がいたから私はダメにならずに済んだ。彼はプロヒーローで、当たり前のようにみんなを助けているけれど、その裏では誰よりも強くある努力をしています。彼のその姿勢は簡単に出来る物じゃないけど、私も彼のようにありたいと思っています。彼は誰よりもかっこいいヒーローです!メディアの中の彼だけを見て否定されることだけは、ごめんなさい、嫌です」
つい感情的になってしまって止めなきゃと思ったけど止まらなかった。
だって、何も知らないじゃない。
カメラの前の勝己くんなんてほんの一部でしかなくて、何でも出来るのに人には見せない努力をしてて、素直じゃなくて、人に弱さを見せずに抱え込んでしまうような繊細さもあって、誰よりも強くて優しい人。
自分のことを言われるよりも悔しかった。
「…あの、いいですか」
その声に俯いてしまいそうになった顔を上げると、いわゆる異形と呼ばれる見た目をした何度も話をした事がある女の人が控えめに手を挙げて、それからゆっくりと立ち上がった。
「なまえ先生、お辛かったですよね」
「……っ!」
彼女の表情と声はとても柔らかくて、その一言に張り詰めていた心が溶かされて行くようでじんわりと涙が滲んだ。
「私、こんな見た目だから子供の頃いじめられました。すごく辛かったです。こんな見た目で生まれて来たかったわけじゃないのに、私が好きで選んだわけじゃないのにって。先生もそうですよね?」
そう問いかけられたけれど、涙を堪えるのに必死で答えられなかった。
気を抜いたら涙が出てきそうになる。
「自分を守ろうとしたとは言え、お父さんがしたことで全てを捨てなきゃいけなかった。自分がやったわけじゃない、この環境を選んだわけじゃないのにって。状況は違うけど同じですね、私たち」
彼女は自分の過去と私の過去を重ねて、切なそうに苦しそうに笑った。
その通りです。辛かった。苦しかった。一緒です。だからあなたの気持ちが私にもわかります。
「でも先生は強い人です。自分が辛い環境にいながら私の子供にも笑顔で接してくれて、いつも誰よりも気にかけてくれている。なまえ先生はいつも笑っている心の強いひとです」
「……う、」
耐えきれずに漏れてしまった声を手で抑えるけれど、一度溢れてしまった涙を止めることは出来なかった。
「私、ダイナマイトの動画よく見てるんです。彼も窮地に立つと笑っていますよね。この前の事件の時も先生が飛び降りる直前に笑っていて、先生を心から信頼しているんだって思いました。苦しい時に笑うのも、心が強いのも、異形だからと無下にしないでくれるところも先生とダイナマイトは似ているなって思ったんです」
優しく微笑む彼女を見て、今朝、切島くんにも似てきたと言われたのを思い出す。
私自身をちゃんと見てくれている人だっている。
勝己くんをわかってくれる人がちゃんといる。
それはとても嬉しいことだ。
「きっとまだ辛いことは続くかもしれないけど、いつか心から笑える日が来ます!だから負けないで。私は応援してます!」
「……ぅ、ありがとう、ございます…っ」
あたたかい言葉に涙は拭ってもとめどなく溢れて来て、ありがとうの一言を伝えるのも今の私には必死だった。
なんとか気持ちを落ち着けて「信頼を取り戻せるように精進して参ります」と深く頭を下げて説明会は終了した。
「みょうじ、お疲れ!」
「きりしまくん…うぅっ」
「おわ!?すっげぇ顔してんぜ!?」
会場となったホールを出ると切島くんが近付いて来るなり私の顔を見てビックリしていた。
そんなにひどい顔になっているんだとしたら恥ずかしい。
職員室に戻りながら切島くんと話をしていると段々気持ちが落ち着いてきた。
「…わかってくれる人も、ちゃんとみょうじ自身を見てくれてる人もいてよかったな!」
「……うん。でもこれからもっと頑張る!」
「おう!それにしても2人揃って惚気けたな!」
「あ、あれは惚気けじゃないでしょ!?」
「なまえ先生っ!!」
名前を呼ばれてそちらを振り返ると説明会に出席していた保護者が数人立っていて、私も切島くんから離れて保護者に近付く。
「本日はお忙しい中お時間をいただいて…」
「ごめんなさい」
「え?」
私の言葉を遮って耳に届いた謝罪に目が丸くなる。
「…正直先生のこと混乱してて、不安で、先生を責め立てたの。先生はずっと笑顔で子供にも親にも誰よりも親切に接してくれていたのに。ちゃんとそれを見ていたのに。1番辛かったのは先生なのに。本当にごめんなさい」
そう言って保護者たちは頭を深く下げたので私は慌てて「顔をあげてください!」と促す。
頭を下げられるようなことはされていない。
「そんなの、お母さんたちはお子さんを守る立場にありますから当然のことです。だから謝られるようなことはされていません。悪いのは私ですから」
「悪くない!悪くないよ、絶対に!!だから遅くなったけど、私達もみんな先生を応援するから!」
また引っ込んでいたはずの涙が目に溜まるのがわかって、零れてしまわないよくに唇を噛んだ。
「またいつもみたいに可愛らしい笑顔で笑ってね。それで子供たちのこと、これからもよろしくお願いします」
「…っ、はいっ!責任をもってお預かりいたします…!」
今できる精一杯の笑顔を作ると溜まっていた涙が零れてしまった。
それを拭って今度は「ありがとうございました」と頭を深く下げた。
保護者たちも私と切島くんにお辞儀をして帰って行くのを見届けると「よかったな、みょうじ!」と切島くんが笑った。
「うん、よかった」
心が少し軽くなった気がして説明会をしてよかったと思った。
私たちは再び職員室に向かって歩く。
勝己くんにちゃんと勝ったよって報告しないと。
早く勝己くんに会いたい。