君に贈る花言葉。
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Side 爆豪
会見当日。
俺もなまえも普段は着ねぇフォーマルスーツに袖を通して、ネクタイもしめた。
学生時代ですらほとんどネクタイなんて付けなかったから慣れねぇな。
俺は俺の会見会場に行かなきゃいけねぇから、もしもの時のために切島になまえの護衛を頼んだ。
朝早くから切島もヒーロースーツを準備してうちにいる。
「なまえ、あんま寝れとらんだろ」
「バレてた?さすがに緊張しちゃって」
甘めのコーヒーを飲んで落ち着こうとしてやがるなまえには明らかに緊張が見て取れる。
夜も隣で寝てる俺を起こさねぇようにしてやがったが寝てねぇことなんざすぐにわかる。
「なんかあったら俺が対処すっから任せとけ!」
「うん!心強い!ありがとう、切島くん!」
握った拳を合わせながら笑っとる切島の真似をしながら笑うなまえ。
本当ならコイツのそばにいてやりてぇが、表に立つのはプロヒーローの俺だけでいい。
それになまえにもやることがある。
飲み終えたコーヒーが入ってたマグカップをシンクに置きながら時計を確認するとそろそろ家を出る時間だ。
「行ってくる。切島、なまえ頼む」
「おう!任せろ!」
「勝己くん」
不安そうな顔させやがって。
結んだ髪がぐしゃぐしゃにならんように頭に手を置く。
「そんな顔しとんじゃねぇわ!」
「ん、ごめん!」
パシンと自分のほっぺを叩いて切り替えるなまえに切島は驚いた顔をしてやがった。
加減しろや、少し頬が赤くなっとんじゃねぇか…。
「私も頑張る!全員殴るつもりでね!」
「誰に言っとんじゃ!ったりめーだわ!なまえも完膚なきまでにぶちのめして来いや!」
「おう!」
いつも通りの笑顔に見送られ、愛車に乗り込み一度事務所に寄って公用車に乗り換えてから会見会場に向かう。
事務所から会場まではサイドキックが車を運転してくれた。
でけぇ会場用意したな。そんだけ世間が注目しとるっつーことだ。
この俺が会見すんだ、こんなキャパじゃ足りねぇくらいだけどな。
「行くか」
会場には報道記者に新聞記者、カメラマンなんかがすげぇ数が入ってやがった。
命張る仕事で、普段から人に晒されてっからこんなんは慣れてる。
それに今回は俺だけじゃねえ。なまえの名誉もかかってる。
俺がメディアの前に姿を現すとカメラのフラッシュが一気に焚かれた。
サイドキックが進行をする事になってるが、今回は質問は全部なんでも回答すると伝えてある。
一通りの挨拶を済ませてから質疑応答が始まる。
「先日のヴィラン退治、拝見しました。見事な活躍でした。そしてその時の被害女性と交際しているという熱愛報道が出ていますが、そちらについてコメント頂けますか?」
女の記者が立ち上がり一礼してから最初はそれだよな、と予想通りの質問がされた。
「事実だ。学生の時から交際してる」
音信不通な期間もあったが俺は認めてねぇから嘘は言ってねぇ。
「その女性の父親は当時勤めていた会社のお金を横領をして現在も服役中とのことですが、ダイナマイトはご存知だったのでしょうか」
これが今回の会見の核で、こっからが本番だ。
「知ったのはプロになってからだ。最近まで俺の邪魔になるからと俺にも何も言わずに姿を消していた。この前のヴィランの件に戻るが、父親の横領はそのヴィランに娘を人質に取られ、金を横領して用意しろと命じられ娘のためにした事だ」
「ですが!それだって立派な…」
記者が声を荒げたが俺は至って冷静だ。
その声に被せるように言葉を続ける。
「立派な犯罪だ。間違いねぇ。綺麗事を言う気もねぇ。プロヒーローや警察を頼ればよかった案件だ。俺ァ、まだ子供もいねぇから親心なんつーもんはわからねぇが、自分の一番大事なヤツが殺されそうになってたら命かける、そんくらいの覚悟は持ってる。善し悪しはともかくだ、親っつーのもそうなんじゃねぇのか」
会場内が静まり返る。
俺は俺の思ったことを言う。けどそれは間違ってはねェはずだ。
なまえを頭に思い浮かべる。
「だけど、親がやったことにアイツは苦しんだ。悩んで、自分の気持ち押し殺して、自分の事より周りの事を優先させた。その決意と覚悟が俺をヒーローにしたのは紛れもねぇ事実で、今ここに俺が立ってンのもアイツが苦渋の決断を繰り返して傷付き続けたからだ。自分より人のことを考えて、あんな高さから躊躇なくダイブしちまえるヤツなんだよ」
再会した時なまえは泣いてた。
それだけじゃねぇ。あの時なまえが残した手紙にも涙で滲んだ跡がいくつもあった。
苦しんで苦しんで、泣き虫のなまえが一人でずっと耐えて来た。
笑っちゃァいるが、今だって心の隅にはいつだって父親のことがあるはずだ。
なまえが心から笑えるようにしてやりてぇ。
アイツはよく俺のことを「私のヒーロー」と言う。
だったらなまえのヒーローとして俺が、この事で泣くことがねぇように。
「俺たちに言いたいことがあるヤツは山ほどいると思う。アイツは自分がやったことじゃねぇ、親のしたことで今まで散々苦しんで来た。真実を知った今もアイツは自分を責め続けて、傷付きながらそれでも足掻いて戦ってる。これ以上、アイツの周りを嗅ぎ回ったり、個人情報の特定をするようなことはやめてくれ。言いたいことがあんなら俺に言え。全部対応してやる。勝手なことかもしんねぇ、けど、これ以上アイツを苦しめないでやって欲しい。頼む」
そう言いきって長めに頭を下げると会場がどよめいた。
なまえが笑うために俺ァ自分のプライドかけてなんだってやんだよ。
だからてめェだけなんだよ、なまえ。
俺にここまでさせるヤツは。
「自分を殺してまで俺を守った女を今度は俺が守る。俺にはアイツしかいねぇ。他人の目だとかそんなモンよりアイツが隣にいる方が俺にとっては重要だ。他の誰でもねぇ。俺がアイツといることを選んだ。その事でアイツをとやかく言われる筋合いはねぇ。そういうの全部引っくるめて俺だ。どう思おうが構わねぇ。誰が何を思っても俺のやる事は変わらねぇ。テキトーな事も言わねぇ!てめェらも全員もれなく助けてやらァ!だからNo.1ヒーローになる俺について来い」
言いてぇことは全部言った。
全部俺の本心だ。
いろんな考えを持つ人間がいる。そりゃ当然だ。
だから俺の思ってることを伝えて理解してくれるヤツもいりゃァ、批判して来るヤツもいる。
さっき言った通り他人にどう思われようが構わねぇ。
ただ俺の思ってることを公の場で口にすることで少しでもなまえの抱えるモンが軽くなりゃァいいと思った。
「それではお時間となりましたので、ダイナマイト…」
「ダイナマイト!仮に交際女性が世間から白い目を向けられたままで、自分の立場が危うくなるとしても交際を続けていくと言うことでしょうか!?」
サイドキックが退場を促したんでそれに従って歩き始めると記者のでけぇ声が耳に届いて足を止める。
「惚れた女手放すわけねぇだろ」
それだけ言い終えて再び歩き始めて会場から出る。
控え室に戻ってネクタイを緩め、首元のボタンを開けながら備え付けられた時計に目をやるともうすぐなまえの職場で説明会が始まる時間だ。
朝は緊張してやがったが、昔っから度胸のあるヤツだ。
心配はしてねぇ。大丈夫だ、なまえなら上手くやる。
頑張れよ。
事務所に戻って執務室に入ると「ダイナマイト!お帰りなさい!」とサイドキックたちに出迎えられる。
執務室に備え付けられた大型テレビにはニュースが流れていて、その内容はさっきまで俺がやってた会見だ。
「会見、見てましたよ!めちゃくちゃかっこよかったです!」
「ンなもん見とらんで仕事しろや!」
「うちのボスの会見ですよ!?見ないわけにはいかないじゃないですか!」
こいつら楽しんでやがんな。
なまえが数回事務所に来た時に、サイドキックたちとも話してるのを見たことがある。
少なくともコイツらはなまえを理解してくれてるっつーことだけどな。
「頭下げるとは思わなかったですよね!」
「惚れた女手放すわけないって言ってみてぇー!」
「ざけんな!てめェらにネタ提供したわけじゃねぇんだわ!!」
どいつもこいつもにやけ面しやがってよ。
こちとら全部本心で喋ってんだクソが!!
「でも、ダイナマイトがここまで大切にしたいって惚れ込むってなまえさんってほんとすごい人なんすね」
「うるせぇ」
なまえは自分より他人を優先する。
それは簡単に出来ることじゃねぇことも知ってる。
普通だったら一瞬躊躇するようなこともアイツはやっちまう度胸もある。
折れちまってもまた立てる強さもある。
いつも俺がいるから頑張れるなんて言うけど、そりゃこっちもだわ。
こんな小っ恥ずかしいこと本人の前なんかじゃ言わねぇけどな。
こいつらの前じゃなおさらだ。
「あ。なまえさんの説明会やってますよ」
サイドキックの言葉に画面に目を戻すとチャンネルを変えた番組ではなまえの職場での説明会が映し出されてる。
なまえを真ん中にして両隣には理事長と園長が座ってる。
切島は画面にこそ映ってねぇがいつ何が起きても対応出来るように待機してるはずだ。
なまえは真っ直ぐ前を見て、表情は落ち着いている。
当然、保護者からはキツイ言葉を浴びせられる。
わかっちゃいたが、画面越しに見てることしか出来ねぇのは歯がゆい。
それでもなまえは一つ一つの言葉を受け止めて返してる。
ほんっとに強ぇ女だな。
説明会を最後まで見て、今すぐにでもなまえを抱きしめたくなった。
「出て来る。あと頼むわ」
そうサイドキックに伝えれば、アイツらは笑って「今日はもうそのまま帰ってくださーい!」なんて言いながら俺を送り出した。
俺ァ、サイドキックにも恵まれたと思う。
なまえの職場まで車を走らせる。
行くつもりなんざなかったが、なまえのあんな顔見ちまったらすぐにそばに行って抱きしめてぇって思うだろ。
少しでも早く、なまえに会いてぇ。
俺がこんな会いてぇと思うのも、抱きしめてぇと思うのも、 なまえだけなんだよ。