君に贈る花言葉。
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翌日。退院の日の朝。
病室の窓から外を覗くとどこから入院先がバレたのか、マスコミが集まっていてとても正面から出れる状況ではなかった。
勝己くんが迎えに来てくれることになっているけれど、これでは病院を抜け出すだけでも一苦労だし、心無い言葉をたくさん言われるんだと思う。
「準備出来てんのかよ」
その声に振り向くと勝己くんが病室に入って来ていた。
しばらく外を見ていたけど、勝己くんのような人はいなかったし、待機しているマスコミが彼を見付けて慌てるような素振りもなかった。
「え!?どうやって来たの?下マスコミすごかったでしょ?」
「めんどくせぇから裏口使った」
ああ、なるほどと納得していると大して重くもない、お母さんが持って来てくれていた自分で持てる程度の重さの入院道具が入った鞄を勝己くんが持つと手を引かれて歩き出す。
途中でお世話になった看護師さんに会い、少しだけ時間をもらってお礼を伝えた。
「お世話になったのに最後まで病院にご迷惑をおかけしてしまってすいません」
「元気になってよかったです!…あの、ネットとかではみょうじさんを非難する声が多いですけど、数日間だけどみょうじさんを見てダイナマイトを騙したり出来るような人じゃないってわかってます。だから、負けないでください」
その優しい言葉に思わず涙が零れてしまって看護師さんを慌てさせてしまった。
もう一度お礼を伝えて深くお辞儀をしてから少し離れたところで待っていてくれた勝己くんに近付くと「なに泣いとんだ、泣き虫が」と呆れたような顔をしながら私の手を繋いで再び歩き出した。
ここはセントラル病院程ではないけど大きな病院で、ヒーローみたいなメディアに露出してる有名人も使うことがあるみたいで裏口をマスコミ対策として開けてくれるらしい。
おかげで私たちはマスコミに気付かれることなく車に乗り勝己くんの家へと帰れた。
数日ぶりなのになんだかすごく久しぶりに勝己くんの家に来たような気がする。
キッチンで2人分のコーヒーを入れてローテーブルに置き、ソファに座っている勝己くんの隣に腰掛けると自分の家に帰って来たような安心感で一気に気が抜けてしまいそうになるけれど、勝己くんに言わなければいけないことがある。
「まだちゃんと言えてなかったけど、あの日助けてくれてありがとう。勝己くんが見えたから頑張れた!」
「…助けられたンは俺の方だろ。ありがとな」
「じゃあお互い様だね」
そう言ってガッツポーズをして笑うと勝己くんの大きな手が私の頭をくしゃっと撫でた。
この手が安心出来て、あたたかくて好き。
夢の中でも勝己くんの存在が私を助けてくれた。
お互い様なんて言ったけれど、私の方がいつもずっとずっと勝己くんに助けられているんだよ。
「勝己くん、お願いがあります」
頭に乗ってる勝己くんの手を下ろしてそのまま握りしめる。
顔から笑顔を消して、今度は真剣な顔で勝己くんを見つめると勝己くんは眉間のシワを深くしながら私の顔を見た。
「お父さんの記事が出回って、私が勝己くんのこと騙して株を下げてるって言われてるでしょ?でも株下げてることは事実だし、迷惑かける」
「おい、てめェまだそんなこと言っとんのか?」
勝己くんの声に怒りが混じったのがわかる。
迷惑かける、だからまた離れようって言うと思ってる?
でも、違うよ。
「迷惑かけちゃうけど、私と一緒に戦ってください」
離れた方が楽かもしれない。
他人に理解してもらうのも、信頼してもらうのもとても大変なことだから。
だけど、私はやっぱり勝己くんからはもう離れられない。離れたくない。
これは私のわがままだ。
「はなからそのつもりだわ。二度と手放すかよ」
勝己くんは私の言葉に少し驚いた顔をしてから自信満々に笑いながら私の手を強く握り返した。
私もその笑顔に釣られて頬が緩んだ。
「まァ、この事は俺も考えちゃァいた。こうなっちまった以上避けて通れねぇ。だから会見することにした」
「…うん。ごめんね」
「一緒に戦うんだろーが。いちいち謝んな、バカが」
「わ!うん、ありがとう」
額を軽く小突かれるけれどその痛みがとても優しい。
「私も職場から連絡が来て、心配で子供を預けられないからちゃんと説明して欲しいって保護者から言われてるみたい。だから私も説明会開いてもらう。勝己くんを表立たせちゃうけど、私も戦うから」
「全員叩き潰して来いや!」
「ふふ、おう!」
勝己くんの少し乱暴な言葉は私に元気と勇気をくれる。
彼が笑うと私も笑える。昔から変わらず、私を笑顔にしてくれるヒーローだ。
「体はもう平気なんかよ」
「うん!もう全快!」
「ンじゃ手加減する必要ねぇよな」
「へ!?わっ!」
一瞬のうちに座っていたはずのソファに倒されてしまった。
勝己くんが覆い被さって来て、久しぶりに間近で見る赤い瞳がとても綺麗だと思う。
「散々人に心配かけさせやがったからなァ」
「勝己くんならなんとかしてくれるって信じてたよ」
髪を撫でる彼の手が心地良い。
私も同じように彼の髪の毛に触れる。
最初に触れた時は見た目よりも柔らかい手触りにびっくりしたっけ。
「あの高さから躊躇なくダイブ出来るヤツなんざ、てめェくらいだわ」
「勝己くんが惚れた女だもん、やるさぁ」
手を髪の毛から頬に移動させて覆うと彼の顔が近付いてくる。
赤い瞳は真っ直ぐ私を見ていて吸い込まれそう。
私の唇に重ねられたそれはとても優しくて、甘くて、刺激が強い。
日を追う事に、勝己くんの存在が大きくなって、大切で、愛おしさが増す。
この気持ちに上限なんてなくて、ずっとずっと増えていくんだと思う。
それで、言わずにはいられなくなるんだ。
「勝己くん、好き、大好き」
「バカか…俺のが好きだわ」
彼が普段口にしない言葉が返って来て、びっくりしたけど嬉しくて幸せで胸がきゅうっと苦しくなる。
ああ、この人は本当にずるい。
私が欲しい物を全部くれる。
だから私はどんどん欲張りになっていくんだ。
彼が隣にいない未来を私はもう想像できない。
ずっと隣にいたい。
隣にいるために戦うんだ。
そのためなら、勝己くんが一緒なら、私はどんなに険しい道でも進んでいけるって思う。
後日、私は職場の人たちに今までの事を全て説明した。
「みょうじさんの人柄は見て来たから、大丈夫」「私たちがサポートするから」と言ってもらえて、その言葉がとても嬉しくて涙が止まらなかった。
私はいろんな人に支えられているんだと改めて思う。
そして保護者への説明会を行いたいこと、世間を騒がせてしまっているので園にも報道陣が入ってしまう可能性があることを伝えた。
その日のうちに勝己くんも事務所で予定を調整して3日後に会見をすると連絡があったので私達も同日に説明会を開くことにして、すぐに保護者にもその旨を連絡した。
私が出来ることは誠心誠意、しっかりと説明するだけだ。
勝己くんが会見をすると発表をした日から、自宅に帰ると母までメディアに露出してしまうかもしれないと勝己くんが配慮してくれて私は勝己くんの家に泊まっている。
そしてあっという間にその日は来る。