君に贈る花言葉。
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気がつくと何もない真っ白な空間にいた。
ここはどこだろう。
歩いてみても何も変わらず、次第にどこへ行けばいいのかも分からなくなって来る。
なんで私はこんなところにいるんだろう。
「お前のせいで父親は犯罪者だなぁ!!」
突然響いた忌々しいその声と言葉に心臓が潰されそうになる。
息が苦しくなるのと同時に真っ白だった世界は真っ黒に変わった。
「はっ、はぁっ、は…っ」
肺が上手く酸素を取り入れられない。
全部全部、優しいお父さんを利用したあの男が悪い。
けど、お父さんにそうさせてしまった自分のことも許せない。
憎しみ、恨み、怒り、苦しみ、悲しみ。
どんどんどす黒い感情が湧いて出て来て、自分の何もかもが黒い感情に支配されてしまう気がして一気に恐怖が体を駆け巡る。
「はぁ、い、いや、やだ…っ」
体を抱きしめてどうにか恐怖を拭い去ろうとするけど、涙がとめどなく溢れてくる。
自分が自分でなくなってしまうようで怖い。
黒い感情は体を侵食し続けてあと少しで全部飲み込まれてしまう。
「たすけて…」
自分から発せられた言葉はか細く震えていた。
私は自分の感情も制御出来ない弱い人間なんだとこんなところで痛感させられるなんて情けない。
彼がこんな私を見たらなんと言うだろう。
「……勝己くん」
彼を思い浮かべて名前を声に出すと心が落ち着いた。
彼みたいに強くなりたいっていつも思ってる。
あの時だってあなたがそこにいてくれたから、そうなりたいと思ったから、私は頑張れた。
…負けたくない。
そう思った瞬間、自分の体を侵食していた黒い感情は光を当てられたかのように消えていく。
恐怖が消えていくのと同時に眩しくて目を開けてられない光が差し込んできて、強く目を閉じた。
目を開けると知らない天井が映り込む。
ここはどこだろう。
体が重くてだるい。
「なまえっ!」
「おか…さん…」
「よかった、よかった…」
私の手を強く握って泣く母の手はとても温かくてここは現実だと認識出来た。
ああ、そうか、私あの人に捕まって、それで個性たくさん使って体の中から熱くてフラフラして、鉄塔から落ちて勝己くんが助けてくれたんだ。
切島くんに保護してもらったところで記憶がない。
「勝己くんは…?」
「爆豪くんは大丈夫よ。ヴィランのことも爆豪くんが解決してくれて、ずっとここにもいてくれたんだけど少し前に事務所から呼び出されたって」
「そっか…」
勝己くんなら大丈夫だと思ってた。
お仕事が忙しいはずなのに時間の許す限りここにいてくれたのかな。
グッと体に力を入れて起き上がる。
お母さんが脱水症と体への負荷によって寝ていたと教えてくれた。
それでも気を失ってから3時間くらいしか経ってなくて、点滴をしてもらったから脱水症は改善されたけど、体の疲労を回復させるのにはもう少しかかりそうだ。
「お母さん。お父さんのことで話さなきゃいけないことがあるの」
お母さんには真実を話さないといけない。
私のせいだったと、言わなきゃいけない。
「お父さんのことは爆豪くんが教えてくれた」
「全部聞いたの?なんでお父さんが横領なんてしたのかも」
「聞いたよ」
罪悪感でいっぱいで、お母さんの顔が見れなくて強く握った手を見つめる。
勝己くんみたいになりたい、そう思ってもお父さんの人生を台無しにした自分を簡単には許せるわけもなくて、体が黒い感情に侵食される感覚を思い出してゾクッとする。
「バカね」
お母さんのそんな優しい声が耳に届いて顔を上げると、声と同じように優しくて、全部見透かしているような、でも泣きそうな顔で笑っていた。
「お父さんもなまえも。お父さんは私たち家族、ヒーローや警察に頼らないで1人で突っ走って娘を傷付けた大バカ。でもね、娘のためなら他のどんな事だって投げ出せるの。例え自分が犯罪者になってしまっても親なら動いちゃうものよ。だって娘よりも大切なものってないでしょう?だからね、自分の責任だとか、そんなこと考えてるなまえもバカなんだから」
「でもっ!私、お父さんの人生を台無しにした…どうやってお父さんに返したらいいのかわからない…っ」
ぎゅっと手を握ってくれるお母さんの手は優しくて力強い。
「お父さん、台無しにされたなんて思ってないし、なまえに責任を感じて欲しくもないよ。やり方は間違っていたけど、なまえのこと守ったんだもん。なまえは幸せに笑っていること。それがお父さんへの恩返しになる。なまえが気にすることなんてひとつも無い」
気遣いなんかじゃなくてお母さんの本心だとわかる。
何年も連れ添った夫婦だ。きっと考えていることは手に取るようにわかるはず。
だからこそ、私に向けられた言葉。
だからこそ、お母さんにはお父さんの異変を気付けなかった不甲斐なさや後悔があるんだと思う。
それなら、それなら私は、
「…逃げないって決めたの。私だって家族だよ。私だけ気にしないで何も無かったことには出来ない。お父さんの罪は私たち家族の罪だよ。だからみんなで償おう」
「……うん、そうね」
お母さんの泣き笑う顔に胸が締め付けられた。
私だけじゃない。あの事件があってからお母さんもずっと思い悩んでいたのを知ってる。
それでも明るく振舞ってくれていたのは私に前を向かせるため、自分を鼓舞するためだったんだと思う。
私の命を握られていての父の行動だと言うことを知って腑に落ちたと言っていた。
やり方はもちろん間違っていて納得は出来ないけれど、親として子供を守るという行動は間違っていなかったと。
私はあの日、父が逮捕された時、なんでそんなことをしたのか理解出来なくて、犯罪者の家族と言われるのが怖くて逃げた。
お父さんの話をもっと聞けばよかった。
私はずっとお父さんに守られていた。
お父さんの深い愛情に守られていたんだと、気付くのが遅すぎた。
今からでも取り戻せるかな。
今度は逃げないで、今度は私が、お父さんとお母さんの笑顔のために戦うんだ。
ーーネット上では今回の事件がトップニュースになっていた。
ヴィラン退治がニュースになり、事件を解決したヒーローが取り上げられるのはいつもの事だったが、今回は熱愛報道が出たばかりのダイナマイトが事件解決をしたこと、それからその被害者が交際相手だったということが関心を集めていた。
「ダイナマイトがあんなに必死になるところ初めて見た!!本当に被害者女性と付き合ってるんだね!?」
「噂だとサイドキックにありったけの金集めるように指示してたとか」
「被害女性、可愛くなかった?」
「あの高さからダイブする度胸がすげぇよ…ブルっちまって絶対無理。さすがダイナマイトが惚れた女性って感じ」
「助けたあとにダイナマイトが抱きしめてるのもときめいた!!」
「被害者がダイブするのもダイナマイトはわかってたような反応してたし、お互いがお互いを信じてたからこそだよなぁ」
世間からは私たちを称賛する声が多く上がっていたけれど、テレビ中継で顔も名前も流れてしまった私はダイナマイトの交際相手として周知され、話題の人になってしまっていた。
そしてそれから数時間後。
「ダイナマイトの交際相手の父親、横領で服役中らしい。話題になった事件じゃないけど、6年前の記事見つけた」
擁護してくれる人もたくさんいた。
けれどその発言によって、ダイナマイトの株を下げる、ダイナマイトを騙していると非難の声が次第に大きくなっていった。
いつかこの日が来ることはわかっていた。
勝己くんともう逃げないって約束した。
今度は私が両親のために戦うと誓った。
だから私への非難の声なんて、私は大丈夫。
ダイナマイトが非難されてなかったことが私にとってせめてもの救いだった 。
「……よし」
3日間の入院生活を終えて明日、私は退院する。
私の戦いはここからなんだ。