君に贈る花言葉。
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Side 爆豪
その日もいつも通りパトロールをしてから事務所に戻って空き時間にトレーニングをする。
大きな事件なんかもなく、なんら変わらねぇはずだった。
近くに置いてあった携帯が鳴りトレーニングを中断させて画面を見ると切島からの着信を知らせてやがる。
こんな時間に電話してくるなんざ珍しいなと思いながら通話ボタンを押すと慌てたうるせぇ声が耳に響く。
「おい爆豪!!ニュース見ろ!!!早く!!!」
「あ?ンだよ」
「早くしろって!!!みょうじが!!!」
切羽詰まった切島の口からなまえの名前が出た瞬間にただ事じゃねぇことはわかった。
トレーニングルームから飛び出し執務室に設置された大型テレビを付けるとサイドキックたちも俺の慌てぶりを見て集まってきやがる。
ヘリからの上空映像だ。
『見えますでしょうか!?ヴィランが鉄塔の上で女性を人質にしております!女性は拘束されて意識がないように見えます!』
アナウンサーの声と共にズームにされたそこにいたのは紛れもなくなまえだ。
隣にいるヴィラン。そいつの顔は忘れもしねぇ。
6年前のアイツだ。執着心の塊。6年経った今また出てくんのかよ。
なまえを人質にするたァ、俺への宣戦布告ってわけか。
拘束され、意識のねぇなまえを見ると怒りが湧き上がってくる。
『ダイナマイト!!見てるか!?この6年間この女に地獄見せることだけ考えて生きて来たよ…思い通りにいかなかったのなんてあの時だけだ!!お前も邪魔してくれたもんなぁ…。ああ、烈怒頼雄斗もだなぁ。俺はさぁ、お前らに絶望してほしいんだよ』
クソが…!
その為になまえを拉致ったってか。
くだらねぇことに巻き込みやがって。
『あ、先に教えてやる。父親の件って言えばわかるか?あれは俺だ』
頭に血が上るのがわかる。
怒りを押し殺すのに必死だ。
アイツがその事でどんだけ悩んだと思ってやがる。
どんだけ苦しんだと思ってやがんだ。
「…殺す」
「ダイナマイト、落ち着いて」
「これ以上ねぇくらい落ち着いとるわ」
サイドキックが俺の怒りに気付いてなだめて来るが、自分の感情くらい制御出来るわ。
じゃなきゃプロなんてやってられねぇ。
『これは俺とダイナマイトとこの女のための場だ!!邪魔するヤツがいればこの女は殺す。さて、ダイナマイト。お前この女のためにいくら用意出来る?お前がこの女に値段を付けんだよ。タイムリミットは1時間。ダイナマイトなら1時間あれば余裕だろォ!?あ、それからここに着いたら個性使うなよ。使った瞬間女は死ぬ。楽しみだなぁ!楽しもうなぁ!ダイナマイトォ!! 』
怒りが頂点を超えると逆に冷静になるらしい。
執務室のテレビの前から離れ更衣室に向かいながら指示を出す。
「てめェら手分けしてありったけの金集めて持って来い。俺は現場に行ってアイツを殺す」
更衣室に置いてある篭手を付けて、事務所を飛び出したと同時に爆破で飛ぶ。
最短で助けてやらァ。
あの野郎、なまえに手ェ出したらただじゃおかねぇ。
現場周辺に着くと人だかりが出来てやがる。
ヒーローやら野次馬ばっかだ。
「爆豪!」
「退け、あのクソ野郎殺す」
切島が目の前に出て来るが今はそれどころじゃねぇ。
人混みをかき分けて最前に出る。
ここからじゃ死角になってなまえが無事かどうかも確認出来やしねぇ。
「なまえーーーーー!!!!!!」
腹の底から全力で名前を呼ぶ。
他人の目なんてどうでもいい。なまえが無事かどうか、それだけだ。
「久しぶりだなぁ!ダイナマイト!立派なヒーローになってて嬉しいぜ!」
「てめェと話す気はねぇんだよ!クソ当たり屋野郎がッ!!なまえ返せや!!!」
俺の声に気付いたクソ野郎が拘束したなまえを無理やり立たせて鉄塔から身を乗り出させる。
風になびかれた髪の間から見えたなまえは震えながら泣いてやがった。
人の女泣かせやがってなぁ…ぜってぇ俺が助けてやる。
「おい、動くんじゃねぇぞ」
「んんん!!!!」
「なまえ!!!」
クソ野郎がそう叫ぶとなまえが痙攣したみたいに苦しみ始めた。
個性を使われてやがる。
何の個性だ…。目に見えねぇ。内側から作用する個性。
なんだ、アイツの個性、考えろ。
「俺とダイナマイトとこの女のための場だぜ!次他のヒーロー共が手出したらこの女を殺す」
「クソがァ…!!…おいてめェら余計なことすんじゃねぇ!!!」
…どうする。
なまえが人質に取られてる以上個性も使えなきゃ攻撃も出来ねぇ。
サイドキックが金を持って来るのを待つか…?
いや、それじゃ後手に回る。
確実になまえを助けられてクソ野郎を殺れる方法。
考えろ…。
個性を使われてぐったりしていたなまえがわずかに顔を上げた。
見えた顔は俺をしっかりと見据えていて、その目は死んでねぇ。
…何かやろうとしてやがる。
ハッ、乗ってやるよなまえ!
いつでも動けるように爆破の準備をする。
来いや、なまえ!
「おわっ!!なんだよこれっ!!!」
野郎のでけぇ声が聞こえてなまえが動いたのがわかる。
見えたのは花。アイツの個性だ。
野郎の顔を中心に体中に花を生やしてやがる。
どんどん咲き続けてる花を引きちぎるためになまえを掴んでいた腕の力が弱まり、その隙になまえが自分の足で鉄塔から落ちて来た。
それを見て地面に向けて爆破を放ち空中でなまえを抱きしめる。
「さすが、俺が惚れた女だなぁ、てめェは!」
俺の声を聞くと今にも意識を飛ばしそうなくらいボロボロななまえがわずかに微笑んだのがわかる。
一度強く抱きしめ、地面に着地すると同時に切島になまえを任せ、もう一度鉄塔の上に爆破を使って向かう。
もうてめェには何もねぇ!俺は好きに暴れられる!
「おい、クソ野郎。人の女に好き勝手しやがって覚悟出来てんだろうなぁ!?」
「ダイナマイトォォオ!!!!」
鉄塔に着地するとクソ野郎が大ぶりのパンチをして来たのでそれを爆破を使って後ろに回るように交わし、被害が出ねぇように下からの爆破でヤツを空中に飛ばす。
自分も爆破で空中に飛び、ヤツより高い位置で構える。
「アイツに手ェ出した時点でてめェは負け確なんだよ!!!榴弾砲着弾!!!! 」
最大火力で地面に向かって爆破するとその威力でヤツは地面に叩きつけられ、周りには衝撃波が広がる。
俺も地面に着地し、クソ野郎を待機していた警察にまかせて切島となまえの元に向かう。
「気ィ失っちまった。救急車も呼んだからもうすぐ来るぜ」
「…そうか」
切島の腕からなまえを受け取りボロボロな体を抱きしめる。
俺がもっとしっかりしてりゃあ、こんな目に合わせずに済んだ。
守るどころか守られちまった。
「…悪かった、なまえ。ありがとな」
切島やその場に居合わせたヒーローたちが一般人の誘導をしていると救急車が到着してなまえを救急隊員に任せると脱水症になってると言われすぐに処置をしながら病院に運んでもらった。
なまえも心配だが、まだやることがある。
警察署に同行し、取調室を外から睨みつける。
視線の先には俺にのされて捕まったクソ野郎がいる。
警察の事情聴取にもニヤついた不愉快極まりねぇ顔で応じているのも腹が立つ。
「それで?なんで彼女を狙ったんだ?」
「だからよぉ、俺が金絞りとんのに失敗したのはあの女だけなんだよ。そりゃあ執着するだろ?」
「父親の件、というのは?」
野郎、なまえの親父に何しやがったんだ。
コイツのせいでなまえは悩んで苦しんで、俺から離れた。
なまえも俺も切島もいいようにされてたってわけかよ。
「ああ、それはなぁ。あの女の周りを調べて父親に目ぇ付けたんだよ。んで接触した。金用意しねぇと娘を殺すってな!殺したくねぇよなぁ、だったら会社の金横領したらいいって助言してやったんだよ!金も手に入るし、手っ取り早く地獄見せられるいい方法だろ!!」
なるほどな。
なまえの父親がわざと見つかるようにやったのは娘は殺されたくねぇ、けど横領もしたくねぇって気持ちの現れだったってことか。
あわよくば自分が捕まってコイツも捕まればいいと思って。
だがコイツだけは逃げた。
娘の命がまた狙われることを恐れた父親はコイツに命令されたことを警察にも言えず大人しく服役するしかなかった。
これがこの事件の真相か。
そりゃ母親が付けてた家計簿になんの問題もねぇわけだ。
全部コイツが持って行ったんだからなァ。
腸が煮えくり返りそうだ。
なまえがどんだけ泣いたと思ってやがんだ。
どんだけ、俺の事を守るために必死だったか。
自分の気持ち押し殺すことがどんだけ苦しかったか。
てめェには分からねぇよな。
とめどなく湧き上がって来る怒りを沈めながらなまえが搬送された病院に急いだ。
病室に着くとなまえはまだ眠っていて、なまえのかーちゃんがベッド脇の椅子に座って心配そうな顔をしながらなまえの手を握りしめていた。
静かに病室に入った俺に気付くと立ち上がって頭を下げて来たから俺も下げた。
「なまえのことちゃんと守ってやれなくてごめん」
「何言ってるの。爆豪くんはちゃんと守ってくれたもの。少しも責めてない。むしろ感謝してる」
俺の手を握ってなまえと似た顔で笑う。
「中継見てたの。もう本当に気が気じゃなかった。でもね、この子頑張ってた。爆豪くんがいてくれたからこんなにボロボロでも頑張ってたの。だからなまえが起きたらよくやったって褒めてあげてね。守れなかったなんて言わないで。爆豪くんはなまえにとってヒーローなんだから」
あ、爆豪くんはプロヒーローだったね、と言うかーちゃんを見て親子揃って似てやがるなと思う。
なまえは個性を使いすぎたせいでエネルギーと体内の水分が極端に減ったことによる脱水症、それからあの野郎の個性で体内に電流を流されたことによる体への多大な負荷によって気を失ったと医者から説明があったらしい。
なまえが起きる前にかーちゃんに今回の事件とそれに関わる6年前の父親の横領の真相全てを話した。
かーちゃんは最後まで静かに説明を聞いたあと「あの人、一人で背負ってなまえを守ってくれたのね」と泣きながら笑った。
厳しいことを言うが、全てが正しかったわけじゃねぇ。
娘を守ろうとしたことは立派だ。そこは間違ってねぇ。けど、
「けど、警察やヒーローを頼ればあの人は犯罪者にならなくてよかったかもしれないのに」
その通りだ。警察やヒーローに頼れば何事もなく解決出来たはずだ。
気が動転してたのか知んねぇが、浅はかだったと思う。
「全くな!そうすりゃなまえも傷付くこたァなかった」
「爆豪くんって、いつもなまえのこと一番に考えてくれてるね」
「…当たり前だわ。自分でも引くくらい大切にしてぇと思っとるからな…なんで彼女のかーちゃんにこんなこと言わなきゃいけねぇんだよ!!クソッ!!」
つい出ちまった本音にかーちゃんは嬉しそうに笑ってやがって居心地が悪ぃったらねぇ。
未だベッドで眠るなまえの顔を見る。
父親が自分のせいで犯罪を犯したと、自分を責めなきゃいいがな…。
そう思いながら時間の許す限りなまえの目が覚めるのを待った。