僕らの日常。
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4月。
私はこの満開の桜を勝己くんと、みんなと一緒に笑いあって見られるんだと思っていた。
「でっけー敵」
ボロボロになったヒーロースーツに見慣れた黄色いリュックを背負った緑谷くんに視線を向ける。
病院を出た彼は休みなく動き続けていて、私は無力にもそんな彼を見ていることしか出来なかった。
エンデヴァー、ホークス、ベストジーニストが会見をした数日後。
私はひとりでも多くの人を助けるために別の避難所で活動をしていた。
人々はヒーローへの信頼を失い、秩序も何もかもが無くなった。
ダツゴクと市民の戦闘はより大きな被害を生み、負傷者を増やす。
私はまだ雄英に帰れずにいた。
「みょうじさん、お久しぶりです」
避難所の外で作業をしていると後ろから声をかけられる。
手を止めて声の方を向くと久しぶりに見る飄々とした笑顔の男性と直接会うのは初めてな顔の半分までをジーンズで覆った男性が立っていた。
「ホークス?それにベストジーニストまで。どうしたんですか?」
No.2とNO.3が揃ってこんなところまで来るなんて絶対何かあるって私の勘が告げている。
少し身構えてしまっているのが二人にはわかったみたいで「そんな警戒しないでくださいよ」って言われてしまった。
「回りくどいのは苦手なんで、単刀直入に言います。今日はみょうじさんにチームアップのお願いをしに来ました」
「九州の時のお話の件ですか?」
チームアップ。九州に呼ばれた時にホークスに言われた、私が囮になりながらエンデヴァーのサポートをするというもの。
今ここにはいないエンデヴァー、ホークス、ベストジーニスト。
トップ3のチームアップだなんてとても普通じゃない。
この状況じゃ死柄木弔たちを見つける事が最優先で、私の個性が役に立つならいくらだって協力する。
「それもなんですが……」
実は、とホークスが話し始めた。
緑谷くんは元々無個性でオールマイトの個性「ワン・フォー・オール」を譲渡してもらったこと。
死柄木弔、そして神野でオールマイトに倒されタルタロスに投獄された後、脱獄をしたオール・フォー・ワンが今一番狙っているのがワン・フォー・オール。
すなわち緑谷くんだと言うこと。
「緑谷くんが狙われてる…?じゃ、じゃあ!彼を安全なところに避難させないと…!」
「タルタロスからの脱獄を成功させた男だ。安全なところなど他にありはしない」
「そんな……」
どうにか緑谷くんを守れる方法はないのかって思う反面、ジーニストの言葉はその通りだとわかってしまう。
私が囮になれれば、そう考えたけれどホークスの口振りから今の狙いはもう私にはなくて緑谷くんだけなんだと思う。
「雄英!雄英に戻れば!!」
「緑谷出久くん。彼は雄英には戻らない」
「え……?」
緑谷くんが雄英に戻らない……?
なに、一体どういうこと?
さっきから得る情報が膨大で頭パンクしそう…。
「緑谷くんは自分が狙われているのを知ってる。そして、死柄木は緑谷くんの位置を補足できる。現状唯一こちらがヤツらの居場所を突き止められる可能性があるのもまた緑谷くんです」
「タルタロスを容易く破るオール・フォー・ワンたちに準備をさせてはならない。先手で探し出さねば勝算は上がらない」
だから、それを知ってるから雄英に戻らない決断をした、と。
緑谷くんならきっと最善を選ぶ。例え自分が犠牲になっても。
だけどそれを聞いて私は悔しさと怒りが湧いて来た。
この状況、このタイミングで私にチームアップを要請しに来るってことは。
「…私に緑谷くんのサポートをしろってことですか?」
「そういうことです」
オール・フォー・ワン絡みだったからホークスとジーニスト直々だったのね。
そしてエンデヴァーを含めたトップ3でのチームアップ。
そんなの断る選択肢なんてない。
でも、だけど…!
「……嫌です」
「…それは予想外です」
「緑谷くんを囮にすることを手伝うことは出来ません。雄英を離れる選択肢も私は正直許せない。雄英に戻ってみんなで探せばいい。緑谷くんにだけ背負わせることは出来ません」
私の個性が役立つなら、それに嘘はない。
だけど友達を危険に晒すことの協力は出来ない。
なんで彼は一人で背負って犠牲になるような選択をしたのか。
…わかる、わかるけど!
私だって自分が囮になれるなら、それでみんなを助けられるならって思ったから緑谷くんの気持ちは理解出来る。
矛盾してると言われても友達がその選択をすることは許せなかった。
ホークスは「はぁ……」とため息をついてから私に鋭い視線を向けた。
「では言い方を変えましょう。みょうじさん。あなたにはトップ3とのチームアップに参加して、緑谷出久のサポートをしてもらう。これはお願いではなく、公安からの命令です」
あぁ、そう来たか。
公安なんて今は正常に機能していないのに。
…だからこそ、相手がオール・フォー・ワンということを考えてもなんでもありだし、ヒーロー志望に対してプロヒーロー、公安の名前を出されて断れるはずがない。
悔しくて奥歯を噛み締めるしか出来ないなんて。
「……ずるいです」
「大人はずるいんすよ。だからあなたも何かあった時には俺たちのせいにしたらいい。俺たち大人が選択の余地なく命じたんすからね」
逆らえない命令、それだけで十分ずるいやり方なのに私に逃げ道だけ残してくれるなんて本当にずるい。
世の中のために全員が決断したこともわかるから、もうこれ以上何も言えなくて余計に悔しくなる。
「夜には行動を開始します。みょうじさんもそれまでに準備をしておいてください」
「…わかりました」
ホークスの言葉にまだモヤモヤとした気持ちのまま答える。
自分の気持ちが固まる前にどんどん話が進んで行ってしまう。
「君と会うのは初めてだが、どことなく爆豪と似たものを感じる」
「え?」
「ではまた夜に」
ジーニストはそれだけ言って背を向けてホークスと共に戻って行った。
この事は口外厳禁だと言われたので、勝己くんにも何も言えない。
ここを出るまでのあと数時間私に出来ることを続けて、私も覚悟を決めなくちゃ。
…なんだか、すごく遠いところまで来て独りで取り残されてるような気分だ。
「逃げられるかと思ってました」
「剛翼から逃げられるわけないじゃないですか。それに、事情知って緑谷くんだけ行かせられません」
夜になり、避難所には雄英に戻ることになったと話をして指定された場所に向かう途中でホークスが迎えに来てくれていて、そこから合流してジーニストたちとの待ち合わせ場所まで向かう。
「みょうじさん…!」
久しぶりに聞いたクラスメイトの声。緑谷くんだ。
私の姿を視認して走って来てくれて、意識が戻らないって聞いていたから元気そうな姿を見てすごく安心した。
「緑谷くん…!よかった、本当によかった…!」
「うん、心配かけてごめんね。それから、みょうじさんを巻き込んでごめん」
きっと緑谷くんはこのチームアップに私を入れる気はなかったんだと思う。
だけどプロヒーローたちが回復役の私がいた方が効率が良いと判断した結果、私も同行することになった。
それはもういい。最善で、正しい事だと思う。頭ではちゃんとわかってる。
けど謝られたことにムッとした。
「一人で全部抱え込まないでよ。謝らないで。私だって死柄木やオール・フォー・ワンを捕まえたいし、緑谷くんの助けにだってなりたい。だから来た」
「…ありがとう、#名字さん#」
緑谷くんとの会話を終えて彼が来た方を見ると少し離れたところにジーニスト、エンデヴァー、それにオールマイトまでが揃っていた。
そっか、オールマイトから譲渡された個性なんだからオールマイトがいるのは当たり前だった。
「みょうじ少女。サポート頼むね。君の力は近くで見て来た。頼りにしているよ」
「はい、頑張ります」
正直トップ3とオールマイト、緑谷くんとのチームアップなんて心強すぎる。
むしろこの中に私がいるのは足手まといになるんじゃないかとすら思うくらいに。
…この場所に来る覚悟を決めてきた。
ううん、決めなかったとしても私に断るという選択肢は無い。
だけどずっと本当にこれでいいの?って納得は出来ずにいる。
ただ、緑谷くんの助けになりたくて、死柄木やオール・フォー・ワンを捕まえたいのも紛れもない私の本心。
私はどうするのが正解なんだろう。
こんな迷ってばかりで、どこが勝己くんに似てるって言うんだろう。
こうして私たちは誰にも何も告げずに雄英を出た。
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