僕らの日常。
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あの日、全てが変わった世界で救護活動をし続けていた。
その日の夜に対個性最高警備特殊拘置所であるタルタロスが死柄木弔によって破られ、収容されていたオール・フォー・ワンが脱獄し、タルタロスを含めた計7箇所の刑務所が襲撃され6箇所から受刑者が脱獄した。
そして脱獄した受刑者が暴れ回り、自衛のためにヒーローを見限った対ヴィラン戦闘訓練を受けていない市民たちの武装戦闘はさらなる被害を生んだ。
誰が悪いわけでもない。みんな必死にやったもの。
それでもたった一日で私たちの周りは地獄のような世界になってしまった。
「なまえちゃん。私たち先に寮に戻るね」
作戦決行から一夜明け、治癒がひと段落したタイミングでお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが申し訳なさそうに声をかけて来た。
私ひとり残って救護活動をしているのに自分たちは帰寮することになったからだと思う。
これが私に出来ることなんだから、そんなこと気にする必要なんてないのに。
それに2人だってトガヒミコと交戦したって聞いたから、私よりも大変だったと思うのに。
「二人ともしっかり寝て!ゆっくり休んでね!」
「私たち何もなまえちゃんの力になれなくて、ごめんなさい」
「何言ってるの梅雨ちゃん!これが私のやりたいことだよ!謝らないで!」
2人の顔を見て、それから3人でぎゅうって強く抱き合った。
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんがいてくれたから、私もこの地獄みたいな場所で頑張れたし、頑張ろうと思える。
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん。ありがとう」
「なんでなまえちゃんがお礼言うん!?」
「今ので元気もらったから!」
手を振って別れて私はまた救護に戻る。
ずっと個性を使い続けているから疲れはある。
インターンで効率の良い個性の使い方を出来るようになってよかったって心底思う。
このくらいで倒れていられないもん。
「みょうじさん!次の人の治癒いい?」
「はい!今行きます!」
そうして現場に戻った私の携帯に瀬呂くんから「時間出来たら電話して。話したいことある」ってメッセージが来ていたことに気付いたのは数時間後だった。
この地区の怪我人もやっと落ち着いて来て、なんとか休む時間が確保できた頃には私の体力も限界に近付いていた。
作戦実行の前から見ていなかった携帯を開くと何件かのメッセージの中に瀬呂くんからのメッセージが入っていて、心臓がドキリとして嫌な汗が出て来る。
内容には何も触れてないのに嫌な予感がした。
人気のない場所に移動して、私の勘違いであれって思いながら恐る恐る瀬呂くんに電話をして、変に脈打つ私の心臓と違って規則正しい機械音が彼を呼び出している。
数コール鳴らしたあとに電話が繋がった。
「おー、みょうじ。忙しいのにごめんな。ちゃんと休めてる?」
「正直休めてないけど、なんとかやってる!大丈夫だよ」
電話越しの瀬呂くんはいつも通りの口調だけどどこか元気がないように聞こえる。
それが疲れからならいい。そうであってほしい。
怖くて私から「どうしたの?」って一言が聞けない。
「……こんな状況だし、みょうじはまだ帰っても来れないから悩んだけど、ちゃんと言っといた方がいいと思って」
心臓がうるさいくらいに早く音を立てる。
瀬呂くんの言葉を聞くのが怖い。
意を決したように小さく息を吐く音が鮮明に聞こえてしまう。
「……ミッドナイト先生が殉職した」
「………え?」
なに?今なんて言ったの?
瀬呂くんの言葉に頭が追い付かない。
というよりも何を言ってるのか理解したくなくて頭が拒絶している。
「それから、相澤先生が右目と右足を失った」
「まって、さっきから何言ってるの?」
相澤先生がなに?瀬呂くんずっと何言ってるの?
考えるのを放棄しようとする頭に対して呼吸も浅くなって体が震え出して止まらなくなる。
「…緑谷と爆豪と轟も大怪我して、轟はもう目を覚ましたけど緑谷と爆豪がまだ起きない」
「な、ん…」
立っていられなくなってよろけて壁にぶつけた背中はしっかりと痛くてこれは現実なんだって思い知らされる。
言葉なんて何も出て来なくて、耳元で鳴り続けるように大きく聞こえる心音と浅い呼吸音で頭が真っ白になる。
「はぁっ、は、は、ぁっ」
「みょうじ!みょうじ落ち着いてゆっくり息しろ!!」
「んは…ぁっ、はぁ…ごめ…ごめん……っ」
疲れた体と心にとどめを刺すような出来事の連続を聞いてパニックになってしまった。
瀬呂くんが電話越しに何度も呼びかけてくれてなんとか呼吸は落ち着いたけど、心まで落ち着くはずもない。
「……神野ん時にさ、みょうじ何も知らなくて悔しかった、話して欲しかったって言ってたから話しとかなきゃって思った。疲れてんのにこんな報告しか出来なくてごめん」
「…ううん。嫌な役引き受けて話してくれてありがとう」
そんなに前のことを覚えていてくれて、今回の出来事を口にするだけでも辛かったはずなのにちゃんと伝えてくれた、瀬呂くんは優しい人だ。
電話を切ったら喪失感に襲われて、現実味のない話なのに心が痛くなった。
轟くんは目が覚めて本当によかった。
あの時エンデヴァーの加勢に行こうとする勝己くんと緑谷くんを止めていたら大怪我せずに済んだのかな…。
相澤先生の怪我も近くにいて治癒出来ていれば少しは違ったのかもしれない。
ミッドナイト先生のことも私が前線にいれるだけの力があって近くにいたら死なずにすんだかもしれないのに。
なんで私はこんな時に大切な人たちのことを助けられないんだろう。
「くぅ…ぅぅ…っ」
考えれば考えるほど力のない自分が不甲斐なくて後悔ばかりが募る。
守るためにヒーローになるって誓ったのに大切な人1人守ることが出来ない。
声を押し殺して泣くことしか私には出来ない。
悔しい、悔しい…っ!
…今から戻って治癒すれば勝己くんと緑谷くんと相澤先生の回復はしてあげられるかもしれない。
「……だめ、行けない」
相澤先生に「気張り続けろ、助けるためのお前の力だ」って言われた。
勝己くんとも頑張ろうって話したもの。
相澤先生にもミッドナイト先生にも、民間人を見捨てるようなヒーローになれなんて教わったことは一度たりともない。
それを望む人なんて一人もいない。
だからみんなのところにはまだ戻れない。
今は病院の先生やみんなの回復力を信じて、私はこの場で私のヒーロー活動を続ける。
それが今の私のやるべきことだから。
「私、頑張る。頑張るよ」
こぼれ落ちた涙を拭って立ち上がる。
ここの避難所が落ち着いたって脱獄した受刑者たちと訓練を受けていない市民の戦闘で街の被害はどんどん増えていく。
私の目の前で絶対に人は死なせない。
これから私が行くところでは混乱に乗じていつヴィランが襲って来てもおかしくない。
そんな状況から人々を守るためにこの個性を伸ばして来た。
治癒と風。盾にも矛にもなる私の力で守って、それで雄英に帰るんだ。
「救護に戻ります」
「え!?君ずっと動きっぱなしでしょ!?倒れるよ!?」
「限界だと思ったらちゃんと休みます。今はとにかく動きたいんです」
がむしゃらにでも頭も体も動かしていた方が暗いことを考えずに済む。
自分を奮い立たせているけど、少しのことでぽっきり折れてしまうような状態なのは自分でわかってる。
前だけ向けるように、恥ずかしくないように、誇れるように。
助けるための私の力だから。
頑張ろう。
グッと拳を握りしめて救護の現場に戻った。
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