僕らの日常。
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エッジショットたちからその日は遠征だと聞かされていた。
寮でみんなとインターンの話になった時にどこの事務所も同じ日に遠征と言われているとわかって、少しの不安と緊張感を持っていた。
「あの麓にヒーローたちがいる!我々は後方で住民の避難誘導だ!」
バーニンの声が響いて指さした麓の方を見据える。
超常解放戦線は現在部隊編成がされていて、彼らの目的は現行制度、即ちヒーローの殲滅。AFOの再演。
それを阻止するために超常解放戦線の一斉掃討が命題だと、数時間前に説明をされた。
群訝山荘で敵軍隊長たちの集まる定例会議が、蛇腔病院には脳無を作り出している人間がいる。
この2地点を同時制圧するために私たちは各地点へ配属された。
「なんで俺ァ前線じゃねンだよクソ」
「今回の作戦だと勝己くんの爆破は味方も巻き込んだり視界も遮っちゃうし、相性良くないから仕方ないよ」
「わーっとるわ!」
「避難誘導は笑顔が大事だよ~!さぁ、やろやろ!」
私たちはエンデヴァーたちが制圧する病院の後方支援。
つまり民間人の避難誘導だけど、最前線に出て戦う人も、戦う可能性がある人たちもいる。
みんなで必ず作戦を成功させてお疲れさまって笑い合えるように今目の前のことを精一杯やろう。
「慌てないで大丈夫です!こちらの護送車で街の外の避難所へ一時待機していただきます!」
手分けして街の住民のみなさんの避難を急ぐ。
迅速に、だけど余計な不安を与えないように和やかに落ち着いて誘導をしないといけない。
口田くんの生き物ボイスは見てて和むし癒される打って付けの個性だと思う。
「動物さんたち可愛いねぇ…!」
「なまえが和んでどーすンだよ」
「ヒーローが慌てたら街の人たちも不安になっちゃうからいいんだよ」
勝己くんと話しながらもちゃんと誘導して、風でお年寄りの方や小さな子供たちを運んで仕事はしてることは言っておきたい。
それでも今頃前線では戦いが始まっている頃だから私ももっと気を引き締めなくちゃ。
「お姉ちゃんの風すごいね!空飛ぶ絨毯に乗ってるみたい!」
「えへへ、乗り心地良くてよかったぁ!」
インターン中に出来るようになった編む風を応用して人を乗せても安定感を出せるようにしたから、そうやって喜んでもらえて嬉しい。
こうして避難する時も、怪我人を運ぶ時も安定感があった方がお互いに安心だもん。
そして、もうすぐ避難も無事に終わると思っていた。
「病院が」
緑谷くんの声に蛇腔病院がある方に目を向ける。
一瞬。本当に一瞬だった。
建物や道路、全てが病院の方から崩れていく。
どんどん、猛スピードでドミノが倒れていくかのように。
「全員走らせろ!!」
「皆逃げて!!」
勝己くんと緑谷くんの大声に全員が体を動かす。
緑谷くんが個性を使って止めようとするけど止まらない。
全てが塵になって消えていく。
「皆退けぇ!!」
バーニンの命令が響いて、残った住民を必死に遠ざけた。
本能でわかる。あれに巻き込まれたら死ぬ。
瓦礫が塵になるように自分も同じになる。
早く、早く、みんなを遠ざけなきゃ!
何が起きたのか、正確に理解する間もないまま必死に逃げた。
少しして街の崩壊は止まったけれど安心なんて出来る余裕はない。
この場にいるヒーローが住民たちの避難を急いだ。
「全体通信こちらエンデヴァー!!!病院跡地にて死柄木と交戦中!!地に触れずとも動ける者はすぐに包囲網をーー」
エンデヴァーからの全体通信が入った。
死柄木弔と交戦中、それはつまり蛇腔病院の作戦が失敗したということ。
なんでなんて、私が考えてても何もわかるはずもない。
私はとにかく私に出来ることを…!
「みなさん!こちらに避難してください!」
避難先に向かってるという通信も入った。
1秒でも早くヒーローたちと協力して街の人たちを避難させなきゃいけない。
けど、緑谷くんの様子がおかしい。
さっきのエンデヴァーからの通信で「ワン・フォー」なんとかって聞こえてから。
ううん、その前、崩壊が起きる少し前からおかしいように思う。
一体何が……。
緑谷くんが気になって視線を向けようとしたら少し後ろにいた勝己くんが先に視界に入った。
勝己くんも緑谷くんを見て何かを考えているみたいだった。
「勝己くんっ!!」
この状況に余裕なんてなくて、間違った行動を取ったら多くの人が助からない。
だからなのか、なんでかわからないけど、私の声に振り向いた勝己くんに言わなきゃって思った。
「頑張ろう!!」
少し離れたところにいる勝己くんに拳を握って差し出しながら言うと、勝ち誇ったような顔をして「なまえもな!」って私と同じように拳を差し出して、それから私に背を向けて駆け出した緑谷くんについて行った。
きっと二人ともエンデヴァーの加勢に行こうとしてる。
本当は止めるべきなのかもしれないけど、私は誰にも気付かれないように背中を押した。
どうか無事に戻って来て、そう強く願いながら。
「よしっ!!」
私も負けないように気合いを入れ直した。
…けれど、そこからの状況は良くなるどころか悪化していく一方だった。
ほんの数十分前まで笑っていたのに。
死柄木の伝播する崩壊、群訝山荘から蛇腔病院跡地までのおおよそ80キロの距離をギガントマキアという超大型ヴィランが進行したことによって日本の大部分が壊滅的なダメージを負った。
緑谷くんと勝己くんの安否もわからないまま、不安になる心に2人なら大丈夫と言い聞かせながら目の前の命を救うために動き続けた。
「怪我人は重症者からこちらに!」
治しても治しても、次から次に怪我人が運ばれて来る。
あと何人治したら元通りの日常に戻れるんだろう。
悲鳴、泣き声、瓦礫が崩れる音が途切れることなく耳に届く。
「もう大丈夫ですよ!」
「…なにが、大丈夫なんだよ。治してくれたのは有難いけど、なんでそんな笑ってられるんだよ!これからどうすんだよ!大丈夫なことなんて何もないだろ!!」
街の人たちが少しでも安心出来るようにって、不安で仕方ない心を押し殺して笑顔を貼りつけていたら治癒した人にそう言われてしまった。
この人も不安で誰かに八つ当たりでもしないと立っていられないんだと思う。
だけどヒーローが不安な顔をしていたら街の人たちはもっと不安になるもの。
「…私が不安な顔して、俯いていたら大丈夫になりますか?私はみなさんにほんの少しでも安心してもらいたいんです。生きていればきっと、きっと、大丈夫です…!なんとかなります…!なんとか、します…!!」
「………ごめん、不安でさ…酷いこと言ってごめん。治してくれて、ありがとう」
みんなこの一瞬で心も体もすごく傷付いてしまった。
ヒーローのヒヨっ子だとしても、私は誰かを助けるヒーローになるためにここにいる。
心の傷はすぐに治せなくても、せめて少しでも添え木になればと思う。
「次の方、運びます!」
風と治癒を使って人を治す。それが私に今出来ること。
みんなはきっと大丈夫。
ここが落ち着いたらまた集まって笑いあって授業を受けるの。
街の人たちもすぐに元通りの日常を過ごせるようになるんだから。
だから今はしんどくても踏ん張れ、なまえ!
そうして救護活動を続けて、外部との連絡や情報を掴めないまま数日を過ごした。
ミッドナイト先生が殉職したこと、エンデヴァーを始めとする前線で戦っていたヒーローたちの怪我、相澤先生の目と足のこと、勝己くんの怪我も、緑谷くんがずっと目を覚まさないことも、私は人伝に知った。
その事を知った時は絶望が一気に襲いかかって来たようで、私がその場で治癒出来ていたら何か少しでも変わっていたかもしれないのに。
話を聞いても全てに現実味がなくて、悪い夢なら早く現実に戻ればいいのにって、そう願わずにはいられなかった。
