僕らの日常。
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雄英高校の応接室。背の低いテーブルと、革張りの座り心地の良い高級感のあるソファ。そこに漂うのは緊張感。制服に身を包んだ私の隣には髪の毛を結んでスーツを着ている相澤先生。それから目の前にはいつもよりキッチリとした格好をした両親。
そう、今日は私のもうひとつの戦い、両親への説明の日。
「御足労いただきありがとうございます。先日の九州の件でなまえさんを危険に晒してしまい大変申し訳ありませんでした。学校、担任としてお詫び申し上げます」
相澤先生のその言葉で始まった説明会。深々と両親に頭を下げる先生を見て、先生のせいじゃないのにって思いながらも黙って今度は両親に目を向ける。
頭を上げた先生は九州での一件の説明をした。九州行きが急遽決定したこと、NO.1とNo.2が同行していたこと、九州行きは今後のチームアップの説明だったこと、それから脳無と荼毘。
真剣に相澤先生の話を聞いた後にお母さんが先に口を開いた。
「…先生が悪くないことはわかっています」
「九州行きの許可を出したのは私です。担任としての責任はあります」
「で、でも!私仮免持ってます!」
相澤先生が私を制止するように横目で見て来たので口を噤んだ。
仮免を持ってるから生徒を危険な目に遭わせていいのかと言われれば、学校としてもプロとしても良くない。
それは頭ではわかってる。だけどこれは私が選んだ道で危険は付き物ということだって肝に銘じてるし覚悟もしてる。
それと同時に親が子供を心配する気持ちだってわかる。
ヒーローになりたいって思った時も、林間合宿でも九州でも、雄英に入ってからもう何度も私はずっと両親に心配をかけてばかり。
この前の電話の時は勢いで心配かけないって約束するって言ったけど、心配かけてばかりの私に何の説得力があるんだろう。
せっかくヒーローになるって夢を応援してくれているのに、その気持ちを蔑ろにしていたのは私だ。
「心配なのよ、なまえ。病院や警察から電話がかかって来る度に心臓が止まりそうになるの」
「それは…!ごめんなさい。私の力が足りないから…」
俯いてぎゅうっと強くスカートを握りしめる。
何も言えない。だって何を言い訳にしたって悪いのは力不足の私で、それほど心配をかけてしまっているから。
そんなの少し考えればすぐにわかることだったのに両親の気持ちを考えなかった。そのツケが回って来たんだ。
「なまえを否定したいわけじゃないんだよ。むしろ応援してあげたいし、立派なヒーローになってもらいたいって思ってる。それはお母さんも同じだよ」
お父さんの言葉にお母さんも頷いた。
心配かけているのも私の力不足も否定は出来ない。それの言い訳だってない。
だけどここでお母さんたちの心配を少しでも取り除かないと私はヒーローになれないかもしれない。
否定してない、応援したい、立派なヒーローにと私を肯定してくれる両親の心配を軽くしたい。
私に出来ることは私の素直な思いを伝えることだけなのかも、そう思った。
「…私ね、戦闘訓練が苦手なの。対人とか組手とか。正直そこだけ切り取ったら落ちこぼれって言われても仕方ないかもって自分でも思うんだぁ。でも、みんなが練習相手してくれて。個性応用したやり方とかね、少しは立ち回り上手くなって来たんだよ」
戦闘技術はヒーローとして高い方がいい。どんなヴィランが相手かもわからないし、技術が高ければ臨機応変に対応が出来る。
入学してからの約半年で嫌という程痛感した。悔しいけど私にその技術は足りない。
「それでね、助けた人が安心した顔でありがとうって言ってくれたの。弱くて使い道なんてないと思ってた私の個性がみんなの役に立つって思ってすごく嬉しかった」
治癒と風の個性。最初は使い方もちゃんとわかってなくて持て余してたけど、個性伸ばしもして今ではリカバリーガールと活動も出来るようになった。
体力が尽きそうになってもうだめかもって思った時に「ありがとう」ってその一言を言われるだけで力が湧いて来た。
「戦闘は苦手だけど、友達とか一般の人とか、怪我した人を助けてあげられるのは私だけなの。クラスのみんな、すごい個性持ってるんだよ!でも、回復出来るのは私だけ。私にしか出来ないことだよ」
治癒の個性は希少で、ヒーローが活躍する現場では必要な力のひとつ。
だから余計にヴィランに狙われてる。だから両親に心配をかけてる。
私が今何を取り繕ったって今までのことが無かったことになるわけでも、これからの不安が無くなるわけでもないと思う。
それでも私は自分にしか出来ないことを全力でやりたい。
1度ヒーローになりたいって思っちゃったんだもん。こうなりたいって明確なものを見つけてしまったんだもん。
だから、自分の手でこの道を閉ざしてしまうことだけはしたくない。
「入学から担任としてなまえさんを見て来ました。言葉を選ばずに言えば入学当初の実力は底辺です。今でも戦闘訓練は誰よりも力を入れる必要があります」
私の言葉を補足するように相澤先生が言葉を発したのでその横顔を見る。
落ちこぼれかもしれないと思っていたけど、まさか先生にこんなにはっきり言われるとは。
でも先生の表情は真剣で、私もその言葉をちゃんと受け入れなきゃいけないと思った。
「ですが今では友人からも、一線で活躍するプロからも一目置かれる存在になっています。それはひとえに彼女が入学してから今まで欠かさず研鑽を重ねて来た結果です。親御さんからすればプロヒーローという職業に不安を抱くと思いますし、これから先怪我がないとは言えません。ただ担任として、どうかなまえさんを信じ、背中を押してやってほしいと思っています。なまえさんはいいヒーローになります」
厳しいけれど生徒のことを真剣に見てくれている先生だと生徒の私でも思うことはいっぱいある。
大きな任務があると鼓舞してくれたり、労ってくれたり、先生の言葉で何回も救われた。
それでも先生の口から私を信じて期待してくれてるこれ以上ない言葉が聞けるだなんて思ってもいなくて、うまく言い表せないくらい熱いものが込み上げてくる。
「……はぁ…」
私のそんな気持ちを現実に引き戻すようにお母さんが少し長く息を吐いた。
先生からお母さんに視線を移すけれど、どういう感情なのかがわからなくて体が再び緊張する。
どうやって言葉を紡いだらお母さんとお父さんが納得してくれるんだろうって必死に考えても、今の先生の言葉以上の言葉が見つからない。
どうしよう、どうしよう…。
「ふふっ」
緊張が走っている部屋に響いたのはお母さんの嬉しそうな笑い声だった。
穏やかに微笑むお母さんの表情は今の状況と正反対で困惑してしまう。
「先生にこんなふうに言ってもらえるなんて、なまえはすごいのね」
「ここまで言ってもらって僕たちがなまえを応援しないのは親失格だ」
「え…」
元々ちゃんと応援したいから話をしようって言われただけで、私の夢を否定されているわけではなかった。
だけどこんなにも早くに2人が笑ってくれるなんて思いもしなくてこちらの方が面食らってしまった。
「全寮制と林間合宿での説明をしに先生が来てくれた時にね、この人はちゃんと生徒を見てくれている人なんだって思ったの。それで今も、そんな先生になまえのこと、こんなふうに褒めて認めてもらったら背中押すしかないじゃない。心配しないわけではないけどね」
「相澤先生、これからも娘をよろしくお願いします」
お母さんの言葉を噛み締めていると2人はそう言いながら頭を下げて、相澤先生も「こちらこそよろしくお願いします」と深く頭を下げてくれた。
私は環境に恵まれた。人に恵まれたってすごく思う。身を案じてくれて、でも信じてくれる。
それはとても嬉しいことで、両親が心から安心できるように今まで以上に頑張ろうって心に誓った。
「みょうじ。片付けはいいからちゃんとご両親見送って来い」
無事に両親との話し合いが終わり、使っていた湯呑みを片付けようとするとそう言われた。
先生と2人になった応接室にさっきまでのピリピリとした緊張感はもうなくて、それどころか先生のおかげで和やかに終えることが出来た。
「先生。私、担任の先生が相澤先生でよかったです!先生の期待にも応えられるようにもっとたくさん頑張ります!」
「そうしてくれると助かるよ。早く行って来い」
「はい!ありがとうございますっ!!」
相澤先生にお辞儀をして応接室を出て廊下を歩きながら先生に言われた言葉を思い出してはすごく嬉しくなった。
でも浮かれたり出来ない。だってその期待に応えなきゃいけないもの。
そのために私のやることはまだまだ多い。
お父さんとお母さんにも伝えなきゃいけないこともある。
「お母さん!お父さんっ!!」
校舎から出て校門に向かって少し走るとさっきまで一緒にいた後ろ姿に追いついた。
大声で呼ぶと2人は振り向いて私を確認すると「見送りは大丈夫なのに」と言いながらも嬉しそうに笑ってるけど、私の真剣な表情を見て両親も真剣な顔に変わった。
「お母さんとお父さんにたくさん心配かけてることはわかってる、ごめんなさい。心配しないでって今はまだ胸張って言えないけど、だけど、私!戦闘もサポートももっと出来るようになって強くなるから!2人に心配させなくていいくらい強くなるから!絶対、2人が誇れるような立派なヒーローになるから!信じて見守っててくださいっ!!」
私が今両親に言える精一杯。悔しいけどこれが現状で、今の不安を取り除くことは出来ないかもしれない。
だけど私はこれからもっともっと頑張って私の周りの人も、他の人も安心させられるヒーローになりたい。ならなきゃいけない。
両親にこうやって言ったのは心に決めたことを実現するっていう誓いの意味も込めた。
「なまえ!頑張れ!」
「頑張れ!応援してるよ!」
両親のその言葉に胸がいっぱいになって涙が溢れそうになるのをグッと堪えて「うん!」って応えて笑った。
それから二人の間に走って入って、「ちゃんとご飯食べてるの?」「訓練はどういうことしてるの?」って話しながら校門までの道を歩いた。
途中でお母さんが「爆豪くんとはどう?」って聞いてきた時にお父さんが複雑そうな顔をしていてまた笑ってしまった。
「ありがとう、気を付けて帰ってね」
手を振って校門をくぐって帰って行く二人の背中を見て思う。
お父さんとお母さんは私の自慢で誇りだよ。二人の娘でよかった。
