僕らの日常。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昨日はリカバリーガールとの活動現場が遠かったから帰りが遅くなって、みんなにも勝己くんにも会えなくて、さっき勝己くんに「文化祭の出し物何になったの?」って聞いても「知らね、寝てた」と言われてしまった。
みんなが続々と談話室におりて来たので挨拶を交わして、日課になっている勝己くんとの2人の時間はおしまいになる。
「みょうじみょうじ!あのねあのね!文化祭の出し物、バンド演奏とダンスになりましたぁ!!」
談話室に来て私を見るなり朝から元気いっぱいの三奈ちゃんが報告してくれた。
昨日の候補を出す時もダンスって言ってたし嬉しいんだろうなぁって思うとほっこりする。三奈ちゃん可愛いなぁ。
「三奈ちゃんダンスやりたがってたからよかったね!」
「うんうん!まさかの轟が援軍だったんだよ!」
「ダンスの!?轟くんが!?それはびっくり!」
「でしょでしょー!?」
轟くんとダンスって意外な組み合わせというか、イメージにないから本当にびっくりした。
ダンスとか好きだったりするのかな…?
「他科にストレスを感じている者もいると相澤先生が仰っていただろう。彼らのストレスの発散の一助となる企画を考えた次第だ!」
「へ、へぇ…そうなんだ…。がんばろうね」
飯田くんの言葉に言い合いをしちゃった普通科の生徒の顔が浮かんで胸がもやもやして上手く言葉を返せなかった。
ヒーロー科として誰かのためにってそういう考え方がきっと正しいんだと思う。
でもなんか私はそう思えなくて、みんなはそうやって考えられてすごいな、私の考え方がひん曲がってるのかなって…少し、自己嫌悪してしまいそうになる。
みんなが頑張って決めてくれてる時に私はその場にいれなかったんだから、決定されたことに私が何か言うのも違うよね…ってもやもやを押し込めた。
授業が終わって校舎から寮までの帰り道、色々決めないと、何をしたら喜ばれるんだろうって楽しそうに話してるみんなから少し離れた後ろを勝己くんと並んで歩く。
楽しそうなみんなを見たらやっぱりこのモヤモヤは言わなくてよかったのかもしれないって思った。
「みんな楽しそうだね」
「バカなだけだろ」
「冷たいなぁ」
勝己くんと話しながら歩いていると「ねェ聞いた?ヒーロー科A組…」という声が聞こえた。
自分たちに関係することは聞こえてしまうもので、視線をそっちに向けるとこの前とは違う普通科の生徒も鋭い目でこちらを見ていた。
あ、またあの目…。
「ライブやるんだって、俺たちの為に」
「いい気なものだよ、振り回してる張本人なのに」
ヒソヒソと話しているけど多分隠す気はないんだと思う。
冷たい目と冷たい言葉に「好きで狙われてるわけじゃないのに」って言葉がまた出て来そうになる。
ここで言い争ったら普通科とは亀裂がもっと深くなってしまうと思って、悲しいより悔しい気持ちを拳を握りしめてぎゅっと沈めた。
「時間もないし、今日色々と決めてしまいたい」
寮に戻ると飯田くんがそう切り出した。
意見を出し合って楽曲から決めることになったけど、私は元々音楽は詳しくないから置いて行かれないように話を集中して聞くことにした。
楽曲が決まってバンド演奏の担当を決めていくとドラムが叩ける人はいないかという話になって、小さい頃に音楽教室に通わされていた勝己くんに白羽の矢がたった。
やらないと断った勝己くんを瀬呂くんが煽ってやる気にさせていて扱い方が完ぺきと面白くなる。
耳郎さんの部屋から持って来たドラムセットを軽快に叩く姿は音楽に疎い私でもすごいってわかるくらい、もっと聞いてたいって思って、無意識に「かっこいい…」って心の声が漏れてしまって恥ずかしくて慌てて口を押さえた。
幸いにもみんなの意識は勝己くんに向いていたから私の声は誰にも聞かれていなくて安心した。
「爆豪お願い!つーかアンタがやってくれたら良いものになる!」
「なるハズねェだろ!」
耳郎さんの言葉を完全否定する勝己くんにビクッとして、周りの空気がピリついたものに変わるのがわかった。
他科にとってのストレスの原因である私たちがストレス発散の為に、なんてものは自己満足で相手が素直に受け取るはずがない。
言い方は悪いけど勝己くんのその言葉はその通りだと思った。
「ムカつくだろうが。俺たちだって好きでヴィランに転がされてんじゃねェ…!!」
「……!」
勝己くんが言ったことは、思ってることは私と同じだった。
あの日普通科の人たちと言い合った。
私たちに不満があるのも理解はできる、だけど私たちだって好きで狙われたわけじゃない。
「なンでこっちが顔色伺わなきゃなんねェ!!」
私の胸のモヤモヤはこれだったんだって今やっとわかった。
なんで悪くもないのに私たちが気にしなきゃいけないんだろうって。
勝己くんの言葉は私の気持ちは間違えてないって肯定してくれてるみたいで、さっきまでずっとモヤモヤしてたものが晴れていく気がする。
「やるならガチでーー…雄英全員音で殺るぞ!!」
「バァクゴォォオ!!」
その光景を見てぶわぁって感情が高ぶって胸がぎゅってなって涙が出そうになるのを耐えて微笑んだ。
あぁ。勝己くんは粗暴で言葉遣いが悪くてそこばっかり悪目立ちするけど、だけど周りをよく見ててちゃんと自分をもってる。
それで、いつだって私のヒーローだ。
「みょうじくん、すまない」
その声の方を向くと飯田くんが私に頭を下げていた。
飯田くんにそんなことされる心当たりがなくて「な、にしてるの!頭上げて!やだ!」ってあたふたしてると頭を上げてくれたからホッとする。
「爆豪くんの言う通りだ。君たち二人が一番ヴィランのことで心を痛めてたはずなのに周りの事ばかりに目がいってクラスメイトである君たちへの配慮が欠けていたこと陳謝させてほしい」
「い、いいよ!大丈夫だから!」
「いや、委員長としてヒーローを志す者として配慮が足りなかった」
真面目が服を着て歩いてるような飯田くんが真剣に言ってくるものだから、みんなは悪くないのになぁって思いながらも私もその誠実さに向き合わないといけないと、素直な気持ちを伝えることにした。
「…正直今回は勝己くんと同じ気持ちだったけど、でも他科のためにって気持ちはヒーローとして正しいと思ったし、私はそう思えなかったからすごいなって本当に思ったよ。だから私たち2人で反省だね!やるからには私たちも楽しもうよ!」
「ああ、そうしよう!」
それからみんなで役割を決めることになったんだけど、ああでもない、こっちの方がいいんじゃないかってより良くなるように意見を出し合っていたら全てが決まったのは深夜一時だった。
私は楽器は出来ないし、ダンスも自信が無いから演出隊に回りたかったんどけど「女子が踊った方が華がある」って男子たちが揃って言うもんだから私もダンス隊になった。
でも自信が無いからって適当にやる気はない。やるからには絶対にみんなで良い物にする。三奈ちゃんにいっぱい教えてもらわなくちゃ!
今日はもう時間が遅くなってしまったので素早く自室に戻って行くみんなの中から勝己くんに声をかけた。
勝己くんの言葉を聞いて言い合いのこと言わなくちゃって思ったから。
「あのね、ちゃんと終わってから話すって言ったけど、今話さなきゃと思ったの」
「昨日すれ違った普通科の男2人だろ、言い合ったの」
「うん、気付かないフリしてくれたよね」
「まァ…」
あれだけ睨みつけられて私も視線をそらさなかったら勝己くんが気付かないわけがない。
それでも私が終わったらって言ってたから気付かないフリをしてくれた優しさが嬉しかった。
「……あの日、あの人たちに自分たちがやりたい事が出来ないのはヴィランに狙われた私たちのせいだって言われた」
話しながらすごく悔しい気持ちになってギュッと洋服を握りしめた。
本人のいないところで勝手に勝己くんの関係のあることを言われてるのに、勝己くんをこれ以上無駄に苛立たせる必要はないと思うから言うつもりはない。
静かに話の続きを待っててくれるから小さく息を吐いて心を落ち着けて続けた。
「好きで狙われたわけじゃないって言い返したの。私たち何も悪いことしてないのに好き勝手言われて悔しかった」
「ん」
「でもみんなが他の科のストレス発散の為にって出し物決めたって聞いて、きっとヒーローを目指してるならそれが正解で、悪くないのにって思っちゃった私はダメだなぁって思ったの」
この前の男子生徒たちも昼間の普通科の人たちも、きっと他にもまだヒーロー科に対して不満がある人がいるけど、私たちだって被害者なのになんで気を遣わなきゃいけないんだろうって。
でもヒーローを目指してるなら自分よりも他者を優先して考えるべきだったのかなって。
「ヒーローだからって自分を蔑ろにするのが偉いわけじゃねェだろ。ムカつくモンはムカつく。曲げたくねェモンは曲げねェでいンだよ」
「うん、だから勝己くんが私と同じこと思ってて、それを言葉にしてくれたから、私は間違ってないんだって肯定してくれたみたいで嬉しかったよ!」
私が笑うと勝己くんも安心したような表情をしながら私の頭に手を置いてくれた。
その手がいつもと同じようにあたたかくて優しくて 、自分でも気付かないうちに少し疲れてしまっていたのかもしれないと気付いた。
ここ数日はずっと言い合ったことを考えていたし、昨日もリカバリーガールとの活動で個性もたくさん使ったもんなぁ。
「……しんどくなったら言えっつったろ」
「いつも勝己くんが隣にいてくれるから」
「たまには甘えて来いっつーことだわ」
私の頬に触れながらコツンと額を合わせて来て、目線を上げたら至近距離で目が合って恥ずかしくなる。
勝己くんの表情は優しくて、私に甘えろって言うけどいつも甘やかされてると思う。
くっついていた額が離れて今度は優しい感触がして、おでこにキスをされたことに少し遅れて気付く。
「なまえは堂々としてりゃいンだよ」
「う、うん」
「ンで、終わったら今の続きする」
「つ、続きって…」
私の唇を親指でなぞりながらそんなことを言うから勝己くんの顔をちゃんと見るのが恥ずかしくて思わず視線を逸らしたら「変なこと考えてんじゃねェぞ」って言われて余計に顔が熱くなる。
「考えてないもん!」
「へぇ…ンじゃナシにするわ」
「そ…れはズルいよ…」
私の反応を見て楽しそうにしてる。悔しいけどいつも余裕そうで敵わないなって思う。
ポンポンとまた私の頭を触りながら「もう遅ェから早く寝ンぞ」って促されてエレベーターに乗る前に「おやすみ」って挨拶をした。
部屋に戻った私の心は軽くなったみたいだった。
絶対に文化祭をいいものにしよう、そう心に誓いながら眠りについた。
32/32ページ