僕らの日常。
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side爆豪
携帯忘れたっつって補習で使ってた教室に取りに行って帰って来たなまえの様子がおかしい。
聞きゃァ「途中で相澤先生と会って話してたら取って来るの忘れた」ってどんなボケだ。
クラスの連中と楽しそうに話して笑っちゃァいるが何かあって無理してんのバレバレなんだよ。
一人で大丈夫っつってたけど、ついて行ってやりゃァよかったか。
「なまえ」
「あ、もう寝る?」
「ちょっと付き合え」
しばらくして俺が部屋に戻る時間になまえに声をかけて寮から連れ出した。
テキトーに飲み物買いに行くとでも言っときゃァ付いてくんだろ。
まだ冬本番じゃねぇけど秋の夜は冷えるから事前に準備しといた上着をなまえに着せてやりゃァ、されるがまま大人しく俺の上着に覆われとる。
…小動物みてぇ。コイツがこんな状態じゃなきゃキスのひとつでもしてたわ。
「奢ったる。好きなの買え」
「えぇ、なに?どうしたの?」
「早くしろや」
「う、うん。ありがとう」
金を入れた自販機のボタンを押してホットココアを取り出すと両手を温めるように缶を握って「あったかーい」って嬉しそうにしてやがるがいつのもバカみてぇな元気がねぇ。
こっちのが調子狂うわ。
「その空元気どうにかしろ。他のヤツらは騙せても俺は騙せねェンだよ」
「え、あは、えへへぇ…」
笑って誤魔化せると思うなよ。
俺の顔を見てこれ以上隠すンは無理だと思ったらしく、どう切り出すか悩み始めたから少し待ってやることにした。
「…えっと、喧嘩した?」
「ンで疑問形なんだよ」
しばらくしてなまえから出て来た言葉がこれだった。
俺に聞いて来んじゃねぇ、てめェのことだろって呆れた顔で見とったら「勝己くんも緑谷くんと喧嘩したでしょ?」だと。
…にしても定期的に喧嘩しとンな。
前にも普通科のモブ女に殴られとったことあったろ。
どの口が俺に喧嘩云々言っとんだ。
少なからずそれが原因でダメージ受けてるけど無理してるってとこか。
「言い合ってたら相澤先生が仲裁してくれて…だからまだ解決してないの。全部終わったらちゃんと話すね」
俺に心配かけさせねぇように微笑むなまえを愛おしく感じる。
こんなこと思うなんざこの世でお前だけだわ。
そう思ったら寒くて少し赤くなったなまえの頬に触れてた。
「しんどくなったら言え」
「うん。ありがとう、勝己くん」
なまえが弱かねェこたァわかってる。それが強がりだっつーことも知ってる。
自分が間違ってねぇ、許せねぇって思うことは絶対折れねぇしな。
だから隣で見守ってやりてぇと思う。
「勝己くんに隠し事は出来ないね」っつってさっきよりも柔らかく笑っとって、「俺に隠し事なんざ100年早ェ」って返せば「そうだねぇ」ってどこか満足気なツラを見せる。
ずっと俺の隣で笑ってろ、そんなん思うなんてな。
体が冷え切らねぇうちに寮に戻ろうとなまえの手ェ引いたら「んへへ」って幸せそうな声が隣から聞こえて俺も顔が緩んじまいそうになるのをバレねぇようにした。
「アホ面どこ行ったンだよ」
「ん?上鳴くんはごみ捨て行ってくれたよ」
次の日の放課後、クラス全員分の提出物を職員室に持って行く準備をしていたなまえに声をかける。
なまえとアホ面は日直で、職員室に持ってくのもごみ捨ても仕事ではあるが今日の提出物は量が多い。
「貸せ」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて!」
素直に持ってた提出物を半分俺に手渡すと自分の鞄を持ってついてくる。
全部持ってやるつもりだったが、自分の仕事だからって嫌がるのは目に見えてるから渡された分だけ黙って持ってやる。
教室に残ってた女どもが「爆豪がちゃんと彼氏やってる!」「放課後デートだ!」ってコソコソと言ってやがるのが聞こえたが、めんどくせぇから全部シカトして教室を出て隣を歩くなまえに目を向ける。
「文化祭があります」
ついさっきのホームルームで相澤先生が放ったその言葉にクラスの連中はうるせぇくらい大騒ぎしてやがって、その中でなまえだけが安心したようなツラさせてやがった。
切島が「この時代にお気楽じゃ!?」って珍しいこと言っとったが、文化祭は他科が主役でヒーロー科主体の動きにストレスを感じてるヤツもいるから簡単に自粛するわけにもいかないと先生が説明した。
なまえをまた見ると今度は思い詰めたようなツラで下を向いてやがって、あの様子からして昨日の喧嘩と文化祭は関係ある。
先生の言う他科のストレスと衝突して来たんだろうことは容易に想像出来た。
「結局文化祭の出し物決まらなかったね。公開座学はやだなぁ」
「テキトーに決めんだろ」
職員室に向かいながらなまえは心底嫌そうなツラしてやがる。
決まんなかった出し物は明日までに決めるよう言われた。
それでも決まんなかったら公開座学にすると先生が言っとったからだ。
「デスマッチはよくわからなかったよ」
「強ェヤツが生き残る殺し合いだろーが!バカでもわかるわ」
「文化祭だよ…?」
くだらねぇ話しとったら職員室の方から来た普通科の男子生徒2人とすれ違った。
すれ違いざま敵意むき出しにしてこっちを睨んで来やがったから文句のひとつでも言ってやろうと思ったが、隣を歩くなまえが睨みはしてねぇが目線を逸らさずにそいつらを見てることに気付いて喧嘩の相手がコイツらなんだとすぐに理解した。
終わったら全部話すって言われたしな、今俺が出て行くことじゃねぇ。
相手に思うことはあったが黙ってなかったことにした。
「……ありがとう」
「あァ?」
「んー、日直のお手伝い」
「なまえだけじゃ何して帰って来るかわかったもんじゃねェからな」
「えーへへへ」
「褒めてねンだが」
なまえの礼が「気付かないフリしてくれてありがとう」って意味だとすぐわかった。
おどけてヘラヘラと笑顔を見せてきたンで合わせてやると昨日よりも無理してねぇツラしてて安心する。
正直さっきのヤツらの敵意には腹立つが、なまえが満足いく結果で終わるンならそれはなまえの勝ちだ。
「負けんなよ」って心ン中で呟いてまたくだらねぇ話をしながら廊下を歩いた。
「相澤先生~!提出物持って来ました!」
「ご苦労さん。あーみょうじ、ばあさんが今日も診察しに行くって言ってたよ」
「そうなんですね!一緒に行って来ます!勝己くん手伝ってくれてありがとう!」
「気ィつけてけ」
「うん!またあとでね!」
リカバリーガールは手の足りねぇ病院だったり、事故、ヴィラン出現後の現場に行って怪我人を治療してるらしい。
なまえも個性が似てるっつーンで仮免取ってから何回もその活動に同行してるから珍しいことでもねぇ。
バタバタと職員室を出てくなまえの背中を見送って先生に向き直る。
「アイツの喧嘩止めたんだろ」
「…聞いたのか」
「止められたってことしか言わねぇ」
「そうか」
「みょうじから喧嘩売るとは思えねぇけど」
「俺も最初から見てたわけじゃないから詳しくはわからん。けど味方はしてやれなかった。今溝が深まる訳にはいかないからな」
この言葉でやっぱ喧嘩の相手はさっきすれ違ったヤツらで、その原因もヒーロー科主体の動きに対するストレスだと確信した。
だとしたらヒーロー科、しかも自分のクラスの生徒の味方すりゃァ溝は深まる。
なまえのことだからそれも理解してるはずだし、だからこそアイツはあんなツラしとったンだろうな。
「結果的にみょうじは無事だったが、お前と同じで標的にされたひとりだからな。誰よりも思うことがあったんだろ」
これが林間合宿でのことだと言われなくてもわかる。
俺もなまえもヴィラン共に狙われて、俺が弱ェからさらわれた。そのことで悪くもねぇのに目の前で俺が連れ去られたことに負い目感じとった。
なまえがヴィランに狙われた理由はあいつの個性だ。
今ヴィラン共がどう動いてンのか知らねぇが、俺よりなまえの方がまた襲われる可能性がある。
…ストレス感じとんのは他科のモブ共だけじゃねンだよ。
「折れねぇよ、みょうじは」
「……お前ら仲良いんだな」
「なんでそーなンだよ」
「いや、近くにいるヤツが自分を理解して戦ってくれるのは嬉しいことだと思ってね」
「……用済んだし帰る」
そう言い残して職員室を出て廊下を歩きながらなまえのことを考えた。
…当たり前だろ、理解するのなんざ。俺が唯一惚れた女なんだからよ。
なまえン中で今回のことが解決した時ァ、甘やかしてやろうと決めた。