僕らの日常。
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あっという間に時は過ぎ、10月。
インターン組はオールマイトと相澤先生の引率のもとナイトアイのお葬式へ参列し、インターンもしばらくの間見合わせることになった。
私と勝己くんの補習は順調に進み、通常の授業の後ということもあってなかなかにハードだったけれどインターン組より一足先に今日で終了になった。
補習が終わる頃には空は真っ暗になっていてみんなで寮までの道を歩く。
「かっちゃんとみょうじさんは今日で最後だよね?」
「うん!」
「私たちはまだまだ補習地獄や」
「インターン組は作戦前にも活動があったりしたから私たちより範囲広いもんね」
お茶子ちゃんと切島くんはくたびれた顔をしている。
学業が本業だから仕方ないと頭では思っているけど、授業の後にまた授業となると気が滅入るのもわかる。
「私たちよりも大変なのは爆豪ちゃんよ。授業の補習に仮免補講まであるんだから」
「それはそうだ。俺たちより大変なのに弱音吐いちまった、わりィ!!」
「てめェら喧嘩売ってンのか」
みんなの会話を聞いていると平和だなぁって楽しくなる。
勝己くんがキレながらもみんなと話しているのを見て、入学してすぐの頃はすごく尖っている印象だったのに少し丸くなった気がする。
私が勝己くんと付き合っていて違う一面を知っているからというのを抜きにしたって、友達と話す時の顔付きが違うなって思う。
言葉遣いが悪いのは相変わらずだけど、その奥に優しさがあるのもわかるし、素直じゃないってクラスのみんなも知っているしね。
「んふふ」
「なに笑っとんだてめェは!」
「内緒」
丸くなったとか言うと怒るから言わないに限る。
現場に行っていろんな体験をしたからこそ、こんなふうにみんなと話して笑う当たり前のことが幸せだなぁって実感した。
「あ!なまえちゃん!補習前に言ってたやつ見せて!」
「うん!ちょっと待って今……あれ?」
お茶子ちゃんに言われて携帯を出そうとしたらない。ポケットにも鞄にもない。
記憶をさかのぼると教室で最後に使ったからきっと机の中だと思い至った。
「携帯、教室に忘れちゃったかも…。取ってくる!」
「何やっとんだ」
「あ、大丈夫!外に出るわけじゃないし先に帰ってて!」
そう言い残して学校までの道を走って戻る。
携帯を取りに行くと言ったら勝己くんが一緒に来てくれようとしたのがわかって、思い出したら嬉しくなってちょっとにやけちゃう。
そういうのを自然にやっちゃうからかっこよくてズルいんだよなぁ。
「ヒーロー科のせいで文化祭出来ないかもしれないってマジなん?」
校舎に向かっている途中で聞こえて来た声に足を止める。
文化祭…?ヒーロー科のせいでって何…?
話しているのは普通科の男子生徒2人みたいで、今まで浮かれていた気持ちが一気に冷めて悪いと思いつつもその会話に耳を傾ける。
「実際はわかんねぇけど、もう二度もヴィランに襲撃されてるしな。全寮制になったのも結局はヒーロー科のせいだし」
「自分たちメインの体育祭だけはしっかりやって、他がメインのイベントは中止とか迷惑すぎるっしょ」
あ…。そっか、そうなんだ…。
他の学科の人たちはそうやって思っていたんだ…。
最近視線が鋭いなって気付いてはいた。
狙われてるのはいつだってヒーロー科だったから、そうやって思われても仕方ない、それはそうだって少し考えれば理解出来るところもある。
でも、すごくすごく胸が痛い。痛くて、悔しい。
「あの爆豪ってヤツ、アイツがそもそもヴィランに目付けられたんだろ?」
「日頃から暴言も素行もヤバいの有名じゃん。周りのこと考えてねぇんだよ。だからヴィランにも狙われるんだろ、自業自得」
その言葉を聞いて考えるよりも先に体が動いて、気付いたら自分よりも体の大きい男子生徒2人を睨み付けてた。
突然目の前に現れて、相手からしたら私が喧嘩を売ってるように見えるんだろうけどそんなの知らない。
「…撤回して。謝って」
「は?なに?」
「ヒーロー科じゃん。あー、爆豪クンの友達?」
私の制服を見てヒーロー科だってわかっても詫びれる様子もなくて、自分たちは間違ってないないという態度をしてる。
悔しさと怒りで頭が支配されそうになるのをなんとか浅い呼吸を繰り返して自制する。
「そんな睨むけど事実でしょ?一緒にいるキミが1番爆豪の性格知ってんじゃないの?」
「勝己くんは誰よりも周りを見て周りのこと考えてるし、ちゃんと友達のこと大事に思ってる。ヴィランに狙われてさらわれて、1番心に傷を負ったのは勝己くんなの!1番近くで見てるから知ってるもん…勝己くんのこと何も知らないクセに勝手なことばかり言わないで!!」
悔しい、悔しい。
私たちヒーロー科に対して思うことがあるのは理解出来るけど、私の大切な人のことを何も知らないのに好き勝手に言うことは許せない。
「あ、あー。キミ、爆豪と一緒にヴィランに狙われたって噂の子だ」
「じゃあこうやって俺たちが行動制限されてるのも君たちのせいってことじゃん」
「……好きで狙われたわけじゃない」
「は?」
「私も勝己くんも他のヒーロー科のみんなだって、好きで狙われたわけじゃない!!」
この人たちが不満を抱くように、私たちにだって主張はある。
何度も狙われて、恐怖で体がすくみながらも戦って乗り越えた。
好き好んで危険な目に遭っているわけじゃない。
だけどこの人たちと私たちは立場が違うから対立してしまうんだ。
「あなたたちが私たちに不満があるのもわかるけど…っ!でも勝己くんのこと悪く言ったのはちゃんと撤回して!勝己くんが悪いわけじゃない!そこは私間違ってないし譲れない!」
勝己くんはいつだって誰よりも強いヒーローになる為に頑張ってるだけで悪いことなんてない。
何も見てないのに、何も知らないのに、上辺だけを見て決めないで。
そこだけは絶対に曲げられないし負けられない。
「お前ら何してんだ」
落ち着いていて、だけど怒ったような低い声が聞こえて少しだけ冷静さを取り戻した。
目の前にいる男の子たちは顔が引きつっていたけどもう逃げることも出来ない。
「イ、イレイザーヘッド…!」
「相澤先生…」
私たちヒーロー科の担任でもある相澤先生が来たもんだから相手からすると分が悪いと思うだろうけど、相澤先生はいつだって公平に物事を捉える。
だけどきっとこの状況を説明したら先生が私の肩を持つことはない。
私に味方をしたらヒーロー科と他科の溝がより一層深くなってしまうと思うから。
「合理的に説明しろ」
「……お互いの不満が衝突しました」
「どっちからだ」
「……噛み付いたのは私から」
先生に答えながら拳を強く握りしめて唇をかんだ。
私を見てから短く息を吐くと「もうお前ら早く帰れ」と先生は男子生徒を寮へと帰したから肩を持つことはないとわかっていても結局彼らが言った事を撤回させることは出来なくて怒りと悔しさと胸の痛みが残った。
先生が私の背中を軽く押して歩くように促したのでとぼとぼと歩き出す。
「緑谷、爆豪の次はお前か」
「……ごめんなさい」
「…悪いのはヴィランだよ。お前らは間違ったことはしてない。だけど他のヤツらはストレスのはけ口がないからヒーロー科に不満をぶつけてる」
「……聞いてたんですか」
「声がデカすぎるんだよ」
やっぱり先生は全部わかってたんだ。
わかっていたからこそ何のペナルティも与えずに男子生徒を寮へ帰して、私に対しても何も言わない。
「……許せなくて。勝…爆豪くんのこと何も知らないのに悪く言うから」
「爆豪の性格はヘイト集めやすいからな」
それには返す言葉もないけど、あの人たちの気持ちも理解出来たのに感情をむき出しにしちゃった。
もっと冷静に向き合えてたら勝己くんへの、ヒーロー科への不満だとか誤解は少しは解消されていたのかな。
こうも責め立ててしまったのはヒーロー失格なんじゃないか。
許せないことは許せないままだけど、後悔で気持ちが下降していって俯いていると肩にポンと手を置かれた。
「近くにいるヤツが自分を理解して戦ってくれるのは嬉しいことだよ。お互いのわだかまりはこれから溶いていけばいい」
あ、励ましてくれてる。先生って本当に生徒をしっかり見てくれていていい先生だと思う。
「ただしこれ以上面倒事は増やすな」と釘を刺されてしまったけど。
私の心はいろんな気持ちがまだ整理しきれなくてモヤモヤしたままで、だけど先生が寮まで送ってくれたのでお礼と謝罪を伝えて数回深呼吸をしてから寮に入った。
「なまえちゃん携帯見つかった?」
お茶子ちゃんにそう言われてハッとした。携帯を取りに行っていたことをすっかり忘れていた。
「途中で相澤先生と会って話してたらうっかりそのまま帰って来ちゃった」と笑いながらかろうじて嘘はついてない範囲で言うと「それはうっかりさんすぎる!」とお茶子ちゃんも周りにいた人たちも笑ってくれたからその後もいつも通りでいられたと思う。
ご飯を食べてお風呂も入ってみんなで談笑していたら勝己くんに名前を呼ばれて時計を見ると早寝の勝己くんがそろそろ寝る時間だ。
「あ、もう寝る?」
「ちょっと付き合え」
みんなに「行ってらっしゃーい」と見送られ、不思議に思いつつも勝己くんについて行くと寮の玄関先で勝己くんの上着を着せられて暖かい格好で外に連れ出された。
自分も寒くないようにしているから準備がいい。
「どこ行くの?」
「飲み物買いに行く」
寮の冷蔵庫に何かしらあるのに自販機に買いに行くなんて珍しいなぁと思いながら隣を歩く。
勝己くんが上着を貸してくれたおかげで秋の夜でも寒くない。
すぐ近くの自販機につくと「奢ったる」と言われて、今日はなんなんだろうと思いながらありがたくホットココアを買ってもらった。
「ねえ、どうしたの?」
「そりゃこっちのセリフだわ、気付かねぇと思ってんのか」
「え?」
「その空元気どうにかしろ。他のヤツらは騙せても俺は騙せねェンだよ」
やっぱり勝己くんに嘘はつけないなぁ…。
変に言ってわざわざ勝己くんを不快にさせる必要はない。
でも私の嘘なんてすぐに見破られちゃうしなぁ…と少し考えて言葉を発した。
「えっと、喧嘩した?」
「ンで疑問形なんだよ」
「いやぁ…えへへ、勝己くんだって緑谷くんと喧嘩したでしょ?」
そう言うとバツが悪そうに視線を逸らしたからおかしくなる。
私に何かあったことにも気付いていたのにあえて触れないで、気遣って外に連れ出してから私が気持ちを吐き出せるようにしてくれてる。
そういえば前に先輩に絡まれて怪我した時も理由聞かないで手当してくれたことあったなぁ。
こんなに人を見て気遣ってくれて優しい勝己くんをあの人たちは知らない。
「全部終わったらちゃんと話すね」
勝己くんに心配をかけさせない為にそう言って微笑むと少し冷たい手で私の頬に触れてじっと見つめて来るから気恥ずかしくなる。
「しんどくなったら言え」
「うん。ありがとう、勝己くん」
勝己くんの存在と言葉が私を支えてくれるから私は折れずに頑張れる。
どうしたら他科の人たちに私たちのことを理解してもらえるのかな。
衝突したいわけじゃない。ただ分かり合いたい。
みんなが思ってることを理解し合わないとときっと不満は消えない。
私も、私の大切な人のために頑張るよ。
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