僕らの日常。
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私たちが被災地から帰った次の日の夜、インターンに行っていた緑谷くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、切島くんが帰って来た。
ニュースを見たし、先生からも事情を聞いた。みんな体は元気そうだけどきっと心はすごく疲弊していると思う。
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま!」
「なまえちゃんも大変だったみたいね。帰りに少しだけニュース見たわ」
「私もニュース見たよ。お互い大変だったね」
私も現場でいろんな人の救助をして、戦って心に触れた。
だけどインターンに行ってたみんなはあんなに大きな戦いがあって、ナイトアイが亡くなって…。そんなの体よりも心の方が負担が大きいに決まってる。
「私、救けたい」
「……うん」
「私も、同じこと思った。救けよう」
私は人を助けるためにヒーローを目指した。
今回救助に行って人の心に触れた。お茶子ちゃんたちと状況は違うけど、それでも私ももっと強くなって心の支えになって救けられるヒーローになりたいって思った。
だからその為にまた頑張るんだ。
「てめーらと違ってヒマじゃねンだ」
ずっと談話室のソファに座っていた勝己くんがそう言いながら部屋に戻って行くのが見えた。
何をするでもなくずっと談話室にいたのはインターン組のことを心配していたからなんだと思う。
あんな言い方するから誤解されちゃうのに。って言ってもA組のみんなは慣れてるから気にしてもいないんだけど。
「わりィが俺も」
勝己くんに続いて轟くんもそう言って部屋に戻った。明日仮免補講があるから集中したいのかな。
耳郎さんの言う通りそれにしては早いけど。
二人がいなくなった談話室でお茶子ちゃんと梅雨ちゃんをさり気なく見ると当たり前だけど元気ない。私が二人にしてあげられることってなんだろう。
部屋に戻ってからもたくさん考えたけど、人が亡くなったんだから簡単に気持ちを切り替えることなんて出来ないと思う。
きっと私も現場で出会ったあの子を救けられなかったら、誰かが巻き込まれて目の前で亡くなっていたとしたら気持ちを切り替えるのは容易ではないはずだもん。
緑谷くんは大丈夫って言ってたけど、緑谷くんを含め、みんなの心はとても傷付いてしまっていると思う。
いろんな事を考えていたらその日はあまり寝付けなかった。
「お前寝てねンか」
「おはよ、なんか寝付けなくて」
毎朝早く起きて勝己くんとトレーニングしたり談話室で話すのが日課になっているけど、仮免講習がある日はそっちに集中するために朝には会わないと二人で決めた。
だけど例え寝不足であってもその時間に起きてしまうのが習慣付いているもので、いつもより少し遅い時間に談話室に行くと勝己くんと轟くんが準備をしていた。
私を見て一瞬で寝不足を見抜く勝己くんはすごいと思う。
「…弱かねぇンだから見守っときゃいンだよ」
手を止めず自分の準備をしながら言う勝己くんに何の事かと少し考えたけど、すぐにインターン組のことを言っているんだってわかった。
勝己くんは私のことは何でもお見通しなんだって、隠し事は出来ないなぁって思う。
「爆豪、人のこと弱くないとか言うんだな」
「私も思った!」
「俺が断トツで強ェに決まってンだろ!!クソ雑魚共の中でっつー話だわ!!」
ギャーギャー言い合うのが面白くて笑顔になる。
あ。そっか。こういう日常の何気ないことで人は笑顔になれるんだ。
みんなも笑えれば心の傷が少しでも癒えるかな。
「でも、そうだね!みんな強いもんね!」
「話聞いとらんのか、てめェは!」
「聞いてるよ、勝己くんが1番強いよ!大丈夫!」
「手懐けられてんだな」
「黙ってろ半分野郎」
「わりィ」
コントでもやってるみたいで二人の会話は面白い。仲良くなれてよかったなぁって嬉しく思ったのをバレないように抑え込んだ。だってバレたら怒鳴られるし。
楽しく思いながらも時計に目をやるともうすぐ出発の時間だ。
荷物を持って玄関に行く二人を見送るために私も着いて行く。
靴を履き替えた轟くんが「行ってくる」と挨拶をしてくれたので「行ってらっしゃい、頑張ってね!」と手を振り返すと先に外に出て行った。
「なまえ」
「わっ!」
勝己くんに呼ばれて手を引っ張られる。なんの構えもしていなかった体はバランスを崩しながら勝己くんの胸に飛び込んで行くと彼の指が首をかすめながら後頭部を包み込んで、軽く唇が重なってすぐに離れた。
「顔赤ェ」
「急にするから…」
「予告すりゃいいンかよ」
「違くて、嬉しいけど…照れる」
まさかこのタイミングでキスされるなんて思いもしなかったから照れるでしょ…。
私の反応を見て楽しそうに笑ってるのも悔しいけど、でもこのイジワルそうに笑う顔、好きなんだよね。惚れた弱みってやつだ。
「ンじゃ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい、頑張ってね」
玄関が閉まって姿が見えなくなったので一度自分の部屋に戻って身支度を済ませて寮を出る。
向かったのは教師寮。
今日は学校も休みだし、時間も早いからまだ先生だって寮にいるはず。
歩いて数分のところにある教師寮の扉を「失礼します」と言いながら恐る恐る開けると出掛ける準備をしている相澤先生が少し離れたところに見えた。
「おはようございます!先生怪我はもういいんですか?」
「おはよう。元々大した怪我じゃないからばあさんの個性で治ったよ」
「お出かけですか?」
「昨日の事件絡みでな。学校をあけることも多くなる」
まず怪我の具合を聞いて安心した。きっと先生は自分の怪我に私の個性を使おうとは思わないはずだから。
そして昨日の事件のことで外出…。先生は後処理に行くんだろうか。大きな事件があると必ず何か、誰かにそのしわ寄せがいくんだ。
そんなことを考えていると「お前がここに来るなんて珍しいな、どうした」と先生の方から話を振られてしまった。
これから用事があるって言ってたから早くしないとなのに!
「外出したくて。1時間くらい」
「最近よく外出してるな」
「あ、う…たしかに続いてるかも…」
お茶子ちゃんたちとのお出かけに夏祭りに勝己くんとのデート、そして今回。言われてみれば続いてしまっている。
指摘されてしまうと罪悪感がわいて外出しにくい。
私が頭を抱えていると相澤先生が「外出届を出せば文句は無い」と言ってくれたので「すみません…」と謝って外出届を書く。
「お前一人で外出か?」
「みんなでお菓子パーティーしようと思って」
私の返答に相澤先生はなんとも言えない表情をして「…そうか」とだけ言った。
お菓子パーティーなんて子供じみてること、それはそういう反応にもなるよね。
「私は外傷は治せても心の傷を癒してあげることは出来ないから。でも、誰かと一緒に話して笑うだけで少しは抱えてる物が楽になるのかなって…。だからそのキッカケになればいいなって…けどお菓子パーティーなんて子供すぎますよね、えへへ…」
一瞬でも心から笑って、それが続いて少しづつでも心が癒せたらいいって思った。
インターンに行ったみんなの心の傷を一瞬でも軽くしたい。
勝己くんと轟くんと話したのが楽しくていっぱい笑ったから、みんなも笑えたらいいかなって。
私が外出届を渡すと不備がないかを確認しながら相澤先生は優しく微笑んだ。
「どんなことでも仲間がいると思ったら心強いもんだ。アイツらを思うみょうじの気持ちが一番嬉しいんじゃないか」
肯定してくれた相澤先生の言葉が嬉しくてつられて微笑むと「早く行ってこい」と言われたのでお礼を伝えて教師寮を出た。
相澤先生はいつも私たち生徒をしっかり見てくれる本当に優しい先生だと思う。
ほんの少し軽くなった気持ちで雄英を出た。
「みんなっ!!お菓子パーティーをしますっ!!」
帰寮した私は仮免補講中の2人を除いたA組全員を談話室に集めてそう言い放つとみんなで盛り上がるのが大好きな上鳴くんと三奈ちゃんは「パーティーだぁぁぁ!!!」と大はしゃぎ。
いろんな種類のお菓子をたくさん買ってきた。こんなに買ったのなんて人生で初めて。
「みょうじさん、突然どうしたの?こんなに大変だったんじゃない?量もだけどお金も…」
「緑谷くん!それは言いっこなし!私がやりたかっただけだよ。みんないつも頑張ってるからお疲れ様会!」
みんなのコップにジュースを注いで乾杯をした。それだけでなんだか特別感がすある。
「補講組が嫉妬するかもな!」「このお菓子久しぶりに食べた!」「子供の頃好きだった!」って他愛のない話だけど会話が広がってみんなが笑顔になってる。
インターン組もみんな楽しそうにお菓子を食べたり話したりして笑っていて少しほっとした。
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん!これ食べたことある?私好きなんだぁ」
「なまえちゃん。私たちのためにしてくれたんよね?」
「こうしてみんなでおしゃべりしていたら、少し気持ちが晴れたわ。ありがとう、なまえちゃん」
「二人の傷が少しでも癒えたなら全部私のためだよ!」
誰かを助けたくてヒーローを目指した。
最初は怪我をした人を助けたいって、そんな思いだった。
だけど雄英に入っていろんなことを知るうちに人の心に触れて心ごと救けたいと思った。
きっとそれはとても難しいことかもしれない。
だけど、ありきたりでも私はいろんな人を救けるヒーローになりたいと改めて心に決めた。
「私の方こそ、ありがとう」
私の言葉に二人はなんでお礼を言われたのかわからない顔をしているけど、二人が笑ってくれたおかげで私も嬉しいから、だからありがとうなんだよ。
少しして勝己くんと轟くんが補講から帰って来たから今度はお疲れさまパーティーになってみんなでたくさん話して騒いで、すごく楽しい日を過ごした。