僕らの日常。
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Side 轟
あの日、みょうじに告白した。
みょうじが爆豪のことを好きだってことにはなんとなく気付いてた。
俺でも見てればわかる。
元々よく笑って明るいやつだけど、爆豪と喋る時だけはもっと穏やかで幸せそうに笑ってることが多かったから。
気付けばみょうじを目で追っていて、爆豪にも負けたくねぇって思っちまった。
そのせいで爆豪と喧嘩してみょうじにも怒られたけど、ふたりがすげぇ思いあってんのがわかって勝てねぇって素直に思った。
諦めが悪ぃのか、情けなくもすぐにみょうじへの気持ちをなかったことには出来なくて、無意識にみょうじを視界に入れてる自分がいる。
「良くねぇってわかってるんだけどな…」
こんな感情になるのは初めてのことで正直どうしたらいいのかもよくわからねぇ。
これからも友達としてって言ったけど友達ってどんなだ。
緑谷と飯田とは一緒に飯を食ってるから、みょうじとも一緒に飯を食えば友達としていられるってことか。
「轟くん?難しい顔してどうしたの?」
俺の顔を覗き込んで話しかけて来たのはまさに今考えていたみょうじだった。
服装はルームウェアだけど髪をひとつで束ねて団子にしているのを見ると寝起きというわけではないみてぇだ。
いつも朝早くに起きて爆豪とトレーニングしたり喋ったりしてるみたいだしな。
「みょうじ、一緒に飯食わねぇか」
「ん?うん?ご飯?じゃあ準備してくる!」
「俺も行く」
俺の言葉に不思議そうな顔をしながらも笑って了承して、ランチラッシュ先生が作って届けてくれた朝食を準備しに向かう。
みょうじは和食と洋食の2種類を目の前にしばらく「うーん…」と悩んでいたけど、最終的に洋食に決めたみたいだ。
「今日も悩んだぁ。お待たせしてごめんね」
「いや、大丈夫だ」
「轟くんはいつも和食だね」
「家がそんな感じだったから、落ち着く」
「わかる!お味噌汁の味ってなんであんなに落ち着くんだろうね!って言いながら洋食にしちゃったけど」
あははと楽しそうに笑うみょうじを見てると気付けばつられて俺まで笑ってる。
さっき座ってた談話室のテーブルに向かい合うように座って朝食を食べ始めるとみょうじは美味しいと幸せそうな顔をしていた。
気持ち切り替えねぇといけねぇのにこんなんじゃみょうじとの友達としてって約束守れねぇ。
「轟くんが私をご飯に誘ってくれるなんて珍しいね」
「友達とは一緒に飯食うだろ」
「いつも緑谷くんと飯田くんと食べてるもんね」
「友達だからな」
みょうじは突然黙ると俺の顔をじーっと見て来た。
なんだ、俺の顔に何かついてるのか?
今度は視線を逸らして考え事を始めたかと思えば顔を赤くして、コロコロと表情が変わって見てて飽きない。
それから気まずそうな顔をしたかと思えば意を決した顔をしてやっと口を開いた。
「…あの、勘違いならすごく恥ずかしいんだけど…」
「なんだ?」
「私に告白してくれた時の…仲間としてよろしくって言ったこと気にしてる?」
それを聞くのに百面相してたのか。
たしかにそれを考えている時にみょうじが話しかけて来てくれたから勢いのまま朝メシに誘ったけど、なんでわかったんだ。
「みょうじのことを無意識に目で追ってる」
「そ、ん…どストレートに来られると恥ずかしいです… 」
「わりぃ」
「平気…じゃないけど大丈夫!つ、続けてくださいっ!」
真っ赤になった顔を自分の手でしばらく包んでから、手を膝の上に置いて俺の目を真剣な顔で見て来るみょうじは律儀だなと思う。
「みょうじにも爆豪にも悪いことしてるって思ってる。早くお前への気持ちも切り替えなきゃいけねぇって思ってるのに、すぐになかったことには出来ねぇのも本当だ」
「…お断りした私がこんなこと言うのもおかしいと思うし、何様だって思うかもしれないんだけど…人を好きに思うことが悪いことなわけないよ。それにすぐに切り替えられないってことは、それだけ真剣に私のこと好きでいてくれてるってことだもん。そんな轟くんに好きになってもらえて嬉しいです」
変わらず頬を赤くしながらも俺の気持ちを肯定して微笑んでるみょうじに思わず触れたくなっちまうのを堪える。
こういうところを見て来たから俺はみょうじを好きになったんだろうな。
「ありがとな」
「こちらこそ!」
俺の気持ちを否定せず、まだこの気持ちを無理やり無くさなくていいと言ってくれたことが嬉しくて、この笑顔に救われてんだと思った。
「おいなまえてめェ!何でよりによって半分野郎と飯食っとんだ!」
俺の思考を切り裂くように爆豪の大声が近付いてきた。爆豪も寝起きって感じじゃねぇし、みょうじと一緒じゃねぇのも珍しいとは思ってた。どこ行ってたんだ。
みょうじは爆豪を見るとやっぱりさっきまでより柔らけぇ表情になった気がする。
「先に食ってろって言ってたから…あ!勝己くんも轟くんと一緒に食べたかった?」
「はァ!?ンなわけねェだろ!」
「そうなのか、爆豪も一緒にどうだ」
「黙れや半分野郎!」
いつも通りでけぇ声を出して俺たちから離れて行く爆豪の後ろ姿を見てみょうじはクスクスと笑って「勝己くん、ご飯持って来るから見てて」ってコソッと言って来た。
少しすると本当に朝メシが乗ったトレーを持って爆豪が戻って来て、そのまま丁寧にみょうじの隣にトレーを置いた後に少し雑に椅子に座っていた。
「ほらね」
「なんでわかったんだ、すげぇな」
「人を話のネタにしてんじゃねェ!」
「勝己くんって素直じゃないよね」
「いつでも一緒にメシ食ってやるぞ」
「誰がいつてめェとメシ食いてェって言ったんだよ半分野郎、あァ!?」
爆豪がいると他のやつといる時よりもみょうじは幸せそうに、楽しそうに笑う。
爆豪もみょうじがいると心做しか穏やかに見えて、ふたりはお似合いだと思う。本心だ。
緑谷と飯田と食う飯も楽しいけど、爆豪とみょうじと食う飯も美味いと気付いた日だった。
それから数日後、学校の昼休みに相澤先生に呼ばれた爆豪とみょうじはそのまま被災地の救援に向かうことになったらしい。
ふたりが向かった場所は大規模な被害があった地域で避難や救助が急がれる中、ヴィランまで出る高難易度案件になったとニュースで報道されていた。
クラスのヤツらも全員ふたりのことを心配していたし、俺も心配した。
「ただいまっ!!」
ふたりが出発してから3日後の夜、勢いよく開いた寮の玄関から今までの俺たちがしていた心配なんて無駄だったかのように元気なみょうじが入ってきて、それに少し遅れるように爆豪も帰って来た。
「ふたりともお疲れ!」
「ありがとう!大変だったけどみんなの力になれてよかった」
「それで自分が倒れてたら世話ねぇな」
「あ!またイジワル言う!」
爆豪の言葉に頬をふくらませて怒ったような表情を見せるけど、本当に怒ってないことはわかる。それどころか楽しそうだ。
たった数日この笑顔を見なかっただけなのにひどく懐かしく感じるのと同時に爆豪とみょうじがいつも通り仲睦まじい様子を見て嬉しくなる自分がいた。
「轟くん!仮免補講も兼ねてたから次は轟くんだね!」
「ああ、そうだな」
「頑張ってね!私も負けないようにもっと頑張るから!」
「俺も負けねぇ」
俺の言葉を聞いて満足そうに笑うみょうじはどこか爆豪に似て来た気がして、それを伝えると「強くなれたみたいで嬉しい」と少し照れながら笑っていた。
八百万が紅茶を準備して戻って来たから、クラスのみんなでふたり救助活動の話を真剣に聞いたり 、逆にふたりがいなかった間の授業のことや面白かった話なんかを喋った。
「爆豪とみょうじも疲れてるだろうし今日はお開きにしよ」
瀬呂の一言に賛同して挨拶を交わしてから各々談話室を離れ、俺も自分の部屋に戻るとみんなの賑やかな声がなくなって一人になった途端に眠気が襲ってくる。
爆豪とみょうじが救援に向かった日、相澤先生に「仮免補講兼ねてるからお前にも来るからな。いつでも行けるように気引き締めとけよ」と言われた。
もう落ちるつもりはねぇし、みんなに追いつかなきゃいけねぇ。
そのために俺はもっと頑張らねぇと。
みょうじも応援してくれたしな。
瞬きをして時計を見ると部屋に戻って来てから1時間くらい経っていて、いつの間にか寝ちまってたらしい。
寝るつもりなかったのにな。
そう思いながら喉の乾きを潤すために部屋を出てエレベーターで下に降りると電気が付いてる。
爆豪たち以外は部屋に戻ったからふたりがまだ起きてんのか?
それにしては話し声もしねぇし静かだ。談話室を見ても誰もいねぇ。消し忘れか?
「ん、んぅ…」
1度キッチンに向かおうとしたら誰かの声が聞こえて、談話室のソファを覗き込むと爆豪とみょうじが寝てた。
みょうじを爆豪が後ろから抱きしめてるみてぇにして寝てるけどソファじゃ狭ぇだろ。
ふたりとも安心しきった顔して、爆豪も起きてる時とは違って子供みてぇな寝顔だ。
寮内はあったけぇとはいえ何もかけないで寝てたら風邪ひいちまうよな。
そういや部屋に予備の布団があったな…。
1度自室に戻って布団を持ってから談話室に行くとふたりは変わらず寄り添って眠ってる。
布団をかけると一瞬爆豪が動いたけど起きる気配はなさそうだ。
爆豪がここまで起きないなんて珍しいな。
見せないようにしててもそんくらい神経すり減らしてたってことか。
だとしたらふたりが一緒の現場でよかった。
いつも隣で支え合ってるふたりはお互いを心の底から信頼しているんだとわかる。
あぁ、だからいつもみょうじは笑ってるんだな。
俺、みょうじが爆豪といる時に見せる幸せそうな顔が好きなんだ。
そうか、だったら爆豪とみょうじにはずっと一緒にいてもらわねぇとな。
それで約束も守るよ。
「友達としてよろしくな」