僕らの日常。
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見慣れた雄英の門をバスでくぐり抜け、敷地内の駐車場で降りるとたった3日帰らなかっただけなのにひどく懐かしさを感じる。
ずっと気を張りつめていたからかもしれない。
「お二人とも、お疲れさまでした。明日からの授業、補習に備えて今日はゆっくり休んでください」
13号先生のその言葉に一気に現実に引き戻されるようだ。
私たちは学生で、学生の本分は勉強だから当たり前なんだけど…。
先生と別れて私と勝己くんは寮に向かって歩く。
こんなにゆっくりした時間すら久しぶりに思う。
「てめェは助けに行ったンか、怪我しに行ったンか」
「えぇ…助けた方が圧倒的に多いよ」
「俺ァなまえ抱えた回数が圧倒的に多いわ」
そりゃ個性の性質上、使って治したらその分自分の体力が削られてへばっちゃうけど…。
怪我したのだって彼女にお腹刺された1回だけ。自己回復が切れかけててその1回が死ぬ程痛かったのも事実で、個性があったから生きているけれど即死でもおかしくなかった。
それに堂々と誇れることでもないからあまり強くは出れないのが悔しい。
まだまだ私の課題はどこまでも地道に体力強化だなぁと自分の握った拳を見て思う。
「…あの子、立ち直れるよね」
「どうだかな。あの女次第だろ。まァ、最後のあのツラなら大丈夫なんじゃねェか」
プロヒーローと一緒に警察の元に行く時、最後に見た彼女は笑顔だった。
大切な人を失った悲しみは消えないけれど、それでもこれからは強く自分をもてるんじゃないかって、そう思う。
3日間の救助活動でたくさん感謝された。ヒーローを志してよかったって嬉しくなった。
だけど私はもっと強くなって、もっとたくさん助けられるヒーローになりたいって思った。
今度はもっと早く助けを求めてる人のところに飛んで行けるような、心の支えになれるようなそんなヒーローになりたい。
「勝己くん」
「あ?」
名前を呼んで、こっちを振り向いた彼のほっぺに背伸びをしてキスをした。
こんなこと普段私からしないから恥ずかしいし、勝己くんもちょっと驚いた顔をしているけど、したいって思った。
「ありがとうのちゅー」
「てめ…!」
逃げるように少し勢いよく寮の玄関を開けるとクラスメイトたちが「おかえり!」と笑顔で駆け寄って来てくれる。
みんなの顔を見たらまた一気に張りつめていたものが解けていくのがわかった。
「ニュース見てたけどヴィランまで出て大変だったなぁ」
「ラベンダーティーをお入れしますわ!心が休まりますの!」
「ほれ、お二人さん、座りな」
私たちを気遣って談話室のソファを空けてくれたので二人で腰をおろすとまるで人のお家にお邪魔した時のような丁重なおもてなしをしてくれる。
八百万さんが入れてくれる紅茶はいつもいい香りがして落ち着く。
美味しいと感想を伝えると彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
ふと付いていたテレビのニュースが耳に入り画面を見ると指定ヴィラン団体の話題だった。
この3日間はニュースなんて見る暇もないくらいずっと救助活動をしていたから世間においていかれてる。
「あれ、勝己くんこの人って…」
「…胡散臭いマスク野郎」
「2人とも知ってんの?死穢八斎會の若頭」
「知ってるというかすれ違っただけなんだけど」
死穢八斎會の若頭、治崎廻とニュースに取り上げられていたその人は、先日勝己くんと出かけた帰りにすれ違って、落し物を拾ってあげた人だった。
珍しいペストマスクを付けていたから一瞬だったけどよく覚えている。
チームアップしたプロヒーローたちに捕まり、その後護送中にヴィラン連合に襲われたというニュースだった。
世の中ではこんなに大きな出来事があったなんて。
「俺たちも詳しいことは知らないんだけど緑谷、麗日、切島に梅雨ちゃんがインターン先でこの件に関わってたらしい」
「え!?みんなは無事なの!?」
「相澤先生が一緒だからきっと大丈夫だよ!」
私たちが出発する前に相澤先生が「詳しくは言えないけど別件でプロヒーローが動いてる」と言っていたのはこの事だったのかとやっと合点がいった。
指定ヴィラン団体を捕まえるとなれば情報収集を徹底的にして確たる証拠を掴まなければ動けない。
現行犯でヴィランを捕まえるよりも手間もかかるし難しい案件だったと思う。
「みんなが帰って来たらお疲れ様会しよー!」
「おっ!いいね!賛成!」
「てめェらは何かと理由つけて騒ぎてぇだけだろ」
わいわい、というよりギャーギャー騒ぐみんなを見て私はやっぱりこのクラスが大好きだなぁと思う。
もうひとつの私の心の拠り所だ。
それからしばらくみんなで私たちのいなかった3日間のことだったり、逆に私たちの救助活動の話だったりをしたけど、適当なところで私達も疲れているだろうからと気を使ってくれてお開きになってみんな自室に戻って行ったから談話室には私と勝己くんだけになった。
「なんかみんな見てると元気になるね」
「うるせぇだけだろ」
「それがいいんだよー」
「つーかなまえ」
「わっ」
隣に座っている勝己くんの鍛えられた筋肉質な肩に頭を引き寄せられた。
そのまま頭を押さえられてるから目線だけで勝己くんを見上げるけど前を向いたままで表情はあまりよくわからなかった。
「ずっと気ィ張っとったろ」
「…心配してくれてたの?」
「してねぇ」
「なんだぁ」
「心配なんざしなくても大丈夫だろ、なまえは」
ぶっきらぼうだけど私をずっと見ていてくれて、信頼もしてくれてるのが伝わって、疲れなんて吹っ飛んじゃうくらい、勝己くんの言葉に私はいつも元気をもらってる。
勝己くんの肩に頭を預けるとその体温のあたたかさに安心してまぶたがくっついてしまいそうになる。
「ふふ、じゃあ…もっと頑張らなきゃだぁ」
「寝んなら部屋行けや」
「うん…でも、もうちょっとこうしてたい」
こうして勝己くんに寄り添うのだって久しぶり。
抱えてくれたりはしてもらってたけど、もちろんその時は任務中だし怪我したりで甘い雰囲気とは程遠いし、そんなこと考える余裕もない。
それどころか「仕事増やすんじゃねェ!」なんて怒られてしまった。
救助活動中はプロも含め全員で交代で休憩して仮眠も取ったけど気を張っているからまともに寝ることも出来なくて、やっと帰って来て隣に安心出来る人の体温があればそれだけで張りつめていた心は解けていく。
「かつき、くん…はね…」
だめだ、頭ぽわぽわして来て私ちゃんと喋れてるのかな…。
でもこれだけ言わないと。
勝己くんは私がピンチの時にいつも寄り添って助けてくれる。
今までもう何度も何度も助けられた。
今回も私が作った竜巻を見て、私に何かあったって気付いて駆け付けてくれたって13号先生がこっそり教えてくれた。
私をいつも信じてくれる。
「わたしの、ヒーローだよ」
ずっとずっとこれは変わらない。
入試の時も勝己くんを見て私も頑張らなきゃって思えた。
入学してからも私が絡まれてるところを何度も助けてくれたし、熱が出た時は看病をしに来てくれた。
今回だって近くにはいなくても、言葉で、その存在で何度も私を救ってくれた。
出会ってからずっと勝己くんは私のヒーローだ。
「…まァな」
「へへ…」
少し照れてるのかなって可愛く思えた。
けどもう限界だ。どんどん意識が沈んでいく。
談話室なのに珍しく勝己くんも寄り添ってくれて、匂いを近くで感じて、体温があたたかくて、疲れた体と心が癒される。
いつの間にか眠ってしまっていて、起きたらまだ日が昇りきっていない早朝だった。
しっかりしてる勝己くんまで私と一緒になって談話室のソファに寝てるなんて。
普段なら部屋に連れて行ってくそうなのに布団までしっかりかけて寝ていて、勝己くんも疲れたんだろうなぁ。
久しぶりにこんなにぐっすりと眠れた。
まだ隣で寝ている勝己くんの寝顔は起きている時の怖い顔が嘘みたいに穏やかで可愛い。
日が昇るまで私ももう少しだけ愛しい人の隣で眠ろう。
「おやすみ、勝己くん」