僕らの日常。
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絶対に誰かを助けられるヒーローになると誓った。
私なんてまだスタートラインから一歩飛び出しただけだけど、それでも目の前で泣きそうになっている子を見過ごすなんて出来ない。
「あなたを助けたいッ!!」
彼女の個性である刃を全身で受け止めながら手を伸ばす。
痛い。個性使って自己回復し続けてるけど全身痛いし、汗止まらない。ふらつく。
でもたどり着かなきゃ。
気張り続けろ、私の力は誰かを助けるための力って相澤先生が言ってくれた。
倒れないって勝己くんと約束した。
「あなたのこと、知りたい」
「知ってどうなるのよっ!どうにもならないっ!もう、私は、彼っ、戻って来ないのにッッ!!!」
今までよりも強い攻撃が来て何ヶ所も肉が切られる。
治りが早いだけで切られる時はちゃんと痛みがあるし、それにもうすぐ自己回復も切れる…。
でもまた一歩彼女に近付いた。
「もう彼は戻って来ない」という言葉。それから治癒個性を疎ましく思っていること。
彼女をちゃんと、助けたい。
「その人は、あなたの大事な人?」
「…っ、大事だよ、大事なのにっ!!私のせいで死んじゃった!!!」
その言葉を発した彼女の目からは大粒の涙があふれ出した。
そんな彼女がひどく苦しくて、悲しくて、切なくて、今すぐに抱きしめたいと思うのに、彼女の気持ちが高ぶると刃の勢いも増してくる。
「私の個性が治癒だったらよかったのに!!そしたら、死ななかったのに…っ!!」
まずい、そう思った時には手後れで、彼女の刃は私のお腹を貫通していた。
自己回復もほとんど切れてすぐには治らない。
痛い。疲れとは違う発汗。力が入らなくなる。
「倒れんなよ」
頭の中で勝己くんに言われた言葉が響いた。
そうだ、私まだ倒れられない。
今ここで私が倒れたらこの子を助けてあげられない。
気張れ、気張れなまえ…!
少しでも傷をふさげ。
「くぅ…、はっ、はぁ…」
「あ、あ…わたし、どうしよう…」
「だい、じょうぶ…こんな傷、なんてことないよ…もう塞がる、から」
そんな力残ってない。精々止血するのが精一杯。
私の傷を見てこの子は罪悪感でいっぱいの顔をしてる。
きっと本当はこんなことしたかったわけじゃないと思う。
気持ちが乱れて、自分でもどうしたらいいかわからなくて、それで道を間違えてしまっただけ。
私がここで倒れたらこの子は人殺しのヴィランになっちゃう。
倒れるもんか…!
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「大丈夫」
やっと、届いた。手を握れた。
こんなにいっぱい泣いてる。この子は本当は心の優しい子なんだと思う。
私は彼女の心にも触れたい。
「あなたのこと、聞かせて。何があったの?」
彼女は嗚咽を漏らしながら、ゆっくりと言葉を紡いでくれた。
数日前、この地域では災害が起きた。
ヒーローも少なくてなかなか救助も来ない、物資だって間に合わない、そんな状況だった。
彼女には大事な人がいた。その人は彼女の恋人で、被災してからも二人で励ましあっていた。
でも事件は起きてしまう。
災害の混乱に乗じてヴィランが現れた。それは珍しいことではない。
悪事を働く人はどんな状況でだって現れる。それが凶悪であればなおさら。
ヴィランが無差別に攻撃していく中、彼女にもその攻撃が向かう。
それを庇ったのが彼女の恋人だった。
「血がいっぱい出て、止まらなくて…っ!助けてって叫んでも誰も助けてくれない!私のこと庇ったからっ!私のせいで死んじゃったの!!」
そうか、そうなんだ。
だから彼女は救護所を狙ったんだ。誰も彼を助けてくれなかったから。
同じ目に遭わせるためって言うのはそういうことだったんだ。
「…わからないでしょ、大切な人が目の前でいなくなる気持ちなんて」
彼女は私にまた敵意のこもった鋭い視線を送ってきた。
これで全部繋がった。
この子がヴィランになったことも、全部、彼女が心を制御しきれなかったから。
それほど彼のことが大切で大好きだったんだ。
「わかるよ」
「は…?なんでも持ってる子がわかるわけないでしょ!?きれいごと並べるつもり!?」
「私はね、私の大切な人が目の前でヴィランにさらわれた」
「…え」
「目の前にいたの。もう少しで手が届く距離にいたのに私に力が無かったから、届かなくて、さらわれた。無事に帰って来てくれるかもわからなくて、不安で押し潰されそうで、世界が地獄に思えたよ」
彼女は私の話を真剣に聞いてくれていた。
今でも、また勝己くんがいなくなったらって考えると苦しなる。頭がおかしくなりそう。
それでもし最悪なことになったら私だって何をするか、彼女と同じ道を歩むことだってあるのかもしれない。
「その人は、無事だったの?」
「うん、帰って来てくれた。だから、あなたと状況は違うし、大切な人が一生戻って来ない本当の悲しさとか苦しさはわかってあげられないけど、少しなら私もあなたの気持ちわかるよ」
帰って来たと言った時、彼女はとても安心した顔をしていた。
本当は優しい子だと改めて思う。
だけど道を間違えた、それは変えることは出来ない。
「でも、私は自分の気持ちを紛らわすために人を傷付けたりしないよ。だって私の大切な人はとても強いから、そんなこと許すはずがない。あなたの大切な人もそうでしょ?」
「…うん、うん…っ」
彼女は自分が間違っていることをちゃんとわかってる。
ボロボロと大粒の涙を溢れさせながら何度も拭うその姿を見て残り少ない力を使って彼女を抱きしめた。
「もっと早く来て、助けてあげられなくて、ごめんね…ごめんなさい」
「うぅ…っ」
私の背中に腕を回しながらしゃくり上げて泣く彼女を宥めるように何度も背中をさすっていると近付いてくる足音に気付く。
けどこの歩き方、知ってる。
「勝己、くん」
「何ボロボロになっとんだ、てめェは」
「えへへ…でも、倒れなかったよ」
勝己くんの姿を見て少し気が抜けてしまった。
気張れ、倒れるなって先生と勝己くんに言われたのにダメだ、倒れそう…。
ぐらついた体は地面にぶつかることは無く、力強くて優しい手に支えられた。
「おいコラ、クソモブ女」
「口悪い、また減点されちゃうよ」
「あァ!?ヴィラン相手に減点してんじゃねェよ!」
「そんな言い方しないの!」
私と勝己くんのやり取りを呆気にとられていた彼女は「あ、あの…」と小さい声を出すけど、 睨みをきかせる勝己くんを怖がっていた。
「てめェの男やったクソヴィラン、爪のヤツか」
「は、はい!そうです!」
「逃げてたクソヴィランは俺がのして警察に渡した」
逃げ遅れた人達を探している時に会敵したんだ。
それに誰も彼女の恋人って言ってないのにこの言い方するってことは勝己くんずっと近くで話聞いてたんだなぁ…。
私を信じて適切なタイミングで出て来てくれたんだね。
「いいかクソモブ女!てめェがしたことはクソヴィランと同じなんだよ!罪は消えねぇ」
「…わかって、ます」
「消えねぇが、やり直せんだろ。…お前の相手したのがコイツでよかったな」
「一緒に、やり直そう」
勝己くんと私の言葉に彼女は「はい…!」と頷いて泣いていた。
それでも罪は罪。それはしっかりと償わなければならない。
だけどせめて彼女を人殺しにせずに済んでよかった。
「怪我させちゃったから治させて」
「てめェの腹の傷の方が重症だろーが!」
「止血はしてあるから大丈夫だよ」
勝己くんに止められたけど無理を言って彼女の腕の傷に触れるとすぐに塞がっていく。
残っている力を彼女の治癒に充ててるから頭がぼやけて汗が止まらない。
気力だけでなんとか倒れずにいた。
そうこうしているうちにプロヒーローがやって来て彼女を警察に引渡しに行くからと個性の使用を制限する手錠をはめた。
「罪を償い終わるのを、待ってるね」
「うん。ありがとう、ヒーロー」
そう言った彼女は笑顔で、前を向けたんだと思った。
彼女の後ろ姿を見送って、よかったって思ったら気が抜けて足に力が入らなくなってしまった私を勝己くんが抱えて救護所まで連れて行ってくれる。
「無茶すんじゃねぇっつったろ」
「えへへ…ごめんね」
「えへへじゃねぇんだよ、反省しろや!」
「してるよ…ほんとに」
「なんで回復させるヤツが一番重症なんだよ」
勝己くんはチクチクとずっと私に文句を言っているけど、それは心から私を心配してくれていたからなんだとわかっているから私は思わず頬が緩んでしまう。
そうするとまた「何笑っとんだ!わかってねぇだろ!」と怒られてしまうんだけど。
「私のこと信じてくれてありがとう」
「やる時ャやるだろ。なまえは俺が認めて惚れた女だしな」
いつも私が無理だと思った時にその存在で、言葉で、私を奮い立たせてくれる。
他のヒーローには何が出来ると止められたけど、勝己くんは私を信じてくれた。
私でよかったなと言ってくれた。
どこまで行っても勝己くんは私のヒーローだ。
「つーかなまえ!いつまでも神野ンこと覚えてんじゃねェよ!」
「えぇ、なんのこと?」
「いい度胸してやがんな、捨ててくぞ」
「やだやだ、ごめんね」
まだ救助活動は続く。
少し休んだらまた頑張らなきゃ。
私たちの助けを必要としている人がまだいるんだから。