僕らの日常。
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人を助けるヒーローになりたい。
そう両親に言うと「お医者さんじゃダメなの?」と言われた。
私の個性ならそういう道だってある。
ヒーローは輝いていてかっこよくてみんなが憧れる職業だけど、常に危険と隣り合わせでいつ命を失ってもおかしくない。
実際に個性を限界以上に使って意識を失い2日間も目を覚まさない娘を見れば、心配して他の道を提案する両親の気持ちはわかるし、反対するのだって当然だ。
「この前事件現場で治癒してて思ったの。あの怪我で救急車で病院に搬送してたらあの人たち命を落としてた。現場ですぐに治療しなきゃ手遅れになる。私には風の個性もあるから救助しながら救護もできる。それが出来るのはヒーローだけなの。私は人を助けるヒーローになりたい!」
何度反対されても絶対に説得してみせる。
だって、みんなに「ありがとう」って言ってもらえたんだもん。
体は辛いのに生きてるって思っちゃったんだもん。
ヒーローになりたいって心から思っちゃったんだもん。
「……わかった。やりたいこと、やってみなさい」
「え、い、いいの…?」
予想外にあっさりと承諾してくれたものだから拍子抜けしてしまう。
今回のことがあったからもっと反対されるものだと思っていたのに。
「なまえがヒーローになって怪我したり、もしものことがあったらって考えたら不安よ、もちろん。でもなまえの人生だから」
「反対されても説得するつもりだったんだろう?そうまでしてやりたいと思ったならやってみたらいい。やるからにはちゃんとなりたいヒーローになるんだよ」
ああ。私はお父さんとお母さんの子供でよかったなぁ。
心配や不安がある中で、それでもこうして背中を押してくれる。それはとても幸せなこと。
「うん!頑張ってなりたい理想のヒーローになる!」
受験まで1年もないけれど、私は最難関の雄英高校ヒーロー科を受験することを決めた。
せっかく背中を押してくれた両親に私の本気を見せるには最難関に合格するのが1番いいと思ったから。
そこから受験まで死にものぐるいで勉強して、一緒に個性の扱い方も練習した。
今まで生きてきてこんなに頑張ったなんて初めてだ。
毎日必死になっていたら、受験の日はあっという間にやって来た。
受験日。
雄英高校の大きな門を見上げると目標の高校だからなのか、緊張からなのか、実際よりも少し大きく感じた。
息を吐いて門の真ん中で手を合わせる。
大丈夫。今日まで必死に頑張って来た。私なら大丈夫。やれる。やってやれ!
……よし。
門をくぐり最初の説明を受けるための会場へ向かう。
さすが雄英高校は全てにおいて規模が大きくて周りを見渡しながら歩いた。
プロヒーローであり雄英の先生でもあるプレゼントマイクのテンション高めの説明に驚きつつも今回の試験内容を頭に叩き込む。
仮想ヴィランを倒すとポイントが加算されていくシステム。
私の風の威力で倒せたらいいけど…とにかく実物見て動きを決めよう。大丈夫、いっぱい練習して来たもん。
各自振り分けられた試験会場へ着替えてから向かう。
同じ試験会場の人たちからはピリピリとした緊張感が漂って来て、私にもそれが伝播して体が固まりそうになる。
これじゃダメだ、自分の100%が発揮出来なくなる。
顔を上げるとなんでだかそっちに目が行った。
薄い金色の髪の毛が光でキラキラと光って、漂ってる緊張感なんて彼には届いていないような、自信に溢れた顔で笑ってる。
この人の事は何も知らなくてキレイだなんて言葉とは縁遠そうな雰囲気だけど、笑った赤い瞳がキレイだと思って目を離せなくなってしまった。
ああ、ダメだダメだ!
パシンと自分の頬を叩いて集中力を高める。
試験開始の合図が聞こえて街中を模された演習場をみんなが一斉に走り出すとすぐに仮想ヴィランが現れた。
で、でかい……!
「仮想ヴィランだろうがなんだろうが俺が全部ぶっ殺してやらァ!!」
さっきの男の子だ。手のひらから爆発を出して勢いを付けて仮想ヴィランに向かって行くとそのままヴィランに向かって強い爆発を撃って一撃で仮想ヴィランを破壊した。
す、すごい…!攻撃力も機動力も高い。あんなに大きいのを一撃だなんて!
私も負けてられない…!
だけど仮想ヴィランの装甲は硬そう。私の風じゃあの装甲を壊すだけの風圧も風力もない。
このままじゃ私は不合格になる。
私は記念受験でここに立っているわけじゃない。
倒せないならどうする。最善を考えろ。
「え!?」
「なに!?仮想ヴィランがよろけた…?」
「俺の個性ってこんなに威力あったっけ……?」
私がサポートするから協力して倒そうなんて言っても雄英を受ける自分の個性に自信がある人たちが素直に協力してくれるとは思えない。
だから私は彼らの個性攻撃に風の力を付与して攻撃力を上げたり、仮想ヴィランの足元に出せる限り強い風を吹き当てて体制を崩させる。
せめてサポートして多くのヴィランを倒す。
それで私に得点が入るとも思えないけど、私に出来ることを全力でする!
例え自分で倒せなくても助けるヒーローになる、これがその第1歩なんだから!
「きゃっ!」
「大丈夫!?すぐ次が来る!立って!」
「え、傷が……」
少しの傷ならすぐに治せるように特訓したから、怪我をした受験者がいたら治癒も同時に行った。
風と治癒、両方を使いながら周りの状況を見て最善の行動をするために頭を回転させる。
それは思っていたよりもしんどくて、少しでも気を抜いたら倒れちゃうんじゃないかってくらいだった。
金髪の男の子はずっと個性でヴィランを寄せ付けて迎撃していてセンスの塊なんだろうと思う。
彼みたいな人が本当に強い人なんだろうなと頭の片隅で考えていた。
試験中はとにかく必死で、細かいことはあまり覚えていない。
やっと終了の合図が鳴り響いた時にはそれと同時に疲れで崩れ落ちた。
やれることはやった。これが今の私が出来る最前の行動だった。
後はもう合否の発表を待つしかない。
合否の発表の通知書が届くまで毎日生きた心地がしなかった。
それはもう不安で不安で。
通知書が届いてからも開封するのにとても勇気と覚悟が必要だった。
意を決して通知書を開けると小型の機械で映像が投影された。
「やぁ!校長なのさ!この通知書を待ちわびたかい?やっと来たのさ!」
私の緊張感とは裏腹に雄英の校長先生の明るく軽い口調で説明がされていく。
見た目も可愛いんだよね、校長先生…。
「それじゃあ早速講評をするのさ!今回の合格条件は仮想ヴィランを倒したポイントで決まる。君は加点こそされているが残念ながら必要点数を獲得出来なかった」
わかってた。わかってたけど悔しい。
頑張った。最善を尽くした。あれが私に出来る精一杯だった。
「だけど君は他の受験者のサポートに徹していたのを我々は知っているのさ!ヒーロー活動においてヴィランを倒すことは重要なことだ。けれどヒーロー同士で協力をしたり、要救助者を助けたりすることもヴィランを倒すことと同じくらい、時にはそれ以上に大事な仕事さ。よってレスキューポイントを加算するのさ!君にはヒーローの素質が十分あると我々は判断した」
え、どういう……?私の点数は足りてないんだよね…?
仮想ヴィランをよろけさせた時にその衝撃で壊れてくれた機体は何体かいたけれど、それでも全然足りないのに。
レスキューポイント……?
「合格だよ。おいで、ここが君のヒーローアカデミアさ!」
その言葉を理解するのに少し時間がかかって、それから嬉しさが湧き上がってきてぶわっと涙が一気にあふれ出た。
校長先生の真面目で優しい声が耳に残る。
今までこんなに嬉しくて泣いたことがあったかというくらい涙が止まらなかった。
ヒーローになりたいと思って、ここまで出来ることを全力でやってきた。
まだまだこれからだけど、今までの努力は報われた。
「絶対、ヒーローになるんだ」
私の理想のためにここがやっとスタートライン。
夢への一歩だ。
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