僕らの日常。
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「ヴィラン…!!」
そのヴィランは学生服を着た女の子。多分、私と同い年くらい。
まさかお医者さんと怪我人ばかりの救護所に来るなんて…!
それにあのヴィランの背中に生えた無数の刃はどう見たって攻撃特化型の個性。
ここのヒーローは少数。私だって戦闘が得意なわけではない。
「君はこのまま救護活動を!!ここは俺たちプロが食い止める!!」
「は、はいっ!」
言われた通り救護活動に専念する。今やれることを、やるべきことをやれ!
ようやくトリアージ赤の患者さんの治癒が終わり、軽く息を吐く。
まだ輸血をしている途中なので風で端のベッドに運んで次の患者さんの手当を始める。
後ろではヴィランと交戦する爆発音や衝撃音が響いて戦闘の激しさが見なくてもわかる。
「ぐああっ!」
ものすごい速さで交戦中のヒーローが飛ばされ、倒壊した壁に叩き付けられる。
その衝撃で壁が崩れ落ちてくるのを咄嗟に鋭い風で軌道をズラしてヒーローに当たるのを防ぎ、すぐに駆け寄って治癒を行う。
「治癒の、個性…」
標的がプロヒーローから私に移ったのがわかって、いつだったか勝己くんたちと話したことを思い出す。
寮の談話室を通りかかった時にソファに座って勝己くん、切島くん、上鳴くん、瀬呂くんが揃って携帯でゲームをしているのを見て気になって近付く。
「ゲーム大会中?」
「そー。上鳴が爆豪煽るからアツくなっちゃって解放してもらえないのよ。みょうじもやる?」
「ううん、私昔からゲーム苦手で」
勝己くんの負けず嫌いなところが出て上鳴くんとゲームで対戦中みたいで、その画面を切島くんが見ながら上鳴くんを応援してる。
バトルアクションゲームだと瀬呂くんが教えてくれて、自分の携帯画面を私に見せながら説明をしてくれた。
「こうやっていろんなタイプのキャラがいるから、そいつらを使ってチーム作って相手を倒した方の勝ちってわりとシンプルなゲームなわけよ」
「へぇ…戦士とか魔法使いとかいるんだね?」
「そ。キャラによって役割が違うんだよ。例えば戦士は攻撃が得意で…わかりやすく言うと爆豪ね」
「あ、わかりやすい」
「だろ~。んで、この魔法使いは攻撃力は弱いけど唯一回復が出来る。要するにヒーラーね。みょうじがそれだな」
瀬呂くんの説明は例えが的確でわかりやすい。
なるほど、現実の個性と一緒でゲームの中でもキャラクターごとに得手不得手があるんだ。
「くっそおおおお!!!!また負けたあああ!!!かっちゃん強すぎるって!!!」
突然上鳴くんが大声を上げたからビックリした…。
どうやら対戦が終わったみたいだけど、上鳴くんの口ぶりからするともう何回も勝己くんに負けちゃってるみたい。
「爆豪お前、ゲームでも才能マンかよ」
「てめェらが弱すぎんだよ」
「最初にヒーラー潰して来るのずっこいんだよなぁ」
「常套手段だろ。ヒーラー潰しちまえばそれ以上回復はねぇ。あとは残りぶっ潰せば完全勝利だわ」
上鳴くんはそれはそうなんだけどさぁ…となんとも納得いかないような表情を浮かべている。
みんなの様子を見ていると勝己くんが私を視界に捉えた。
「なまえ、俺がヒーラーを狙うように相手もまずヒーラーを狙う。つまりヴィランと対峙した時、一番に狙われんのはてめェだ」
「うん」
「強敵相手にヒーラーが潰されたら最終的にチームは死ぬ。だから倒れんな」
勝己くんに言われた。倒れちゃいけないって。
でも最優先は非戦闘員のお医者さんや怪我人を守りきること。
「どこ見てるんだ!!お前の相手はこっちだ!!!」
「うるさいっ!!」
「がっ!!」
ヴィランに向かって行ったプロヒーローが個性を使って戦うけれど、肩を刃で切られてしまう。
落ちてくるヒーローを風で受け止めると続けて敵の刃が襲って来るのを風で速度をあげて回避しながらヒーローの傷を治癒する。
このヴィランが本当に私を標的にしたのだとしたら私を最優先で殺しに来るはず。
「おい、何する気だ」
「ヴィランは私を狙ってます、ここじゃ人が多すぎる」
「お前になんとか出来ると思ってんのか!?」
「これ以上好きにさせられない」
彼は止めてくるけど無理やり離れてヴィランに向かって走る。
なんとかしないと被害は抑えられない。私はみんなを助けたくてここにいる。
やれることは全部やってやる。
そのためにヒーローを志して雄英に入ったんだもん。
あっちの方は倒壊がひどい地域で住民は避難してるって先生たちが言ってた…!
なら向こうに飛ばせば被害は最小で済む…!
回転させた風をヴィランの死角に送り込む。
バレないように、気をそらせなきゃ。
「あなたの目的は何!!」
「同じ目に遭わせること」
「なにを…」
「もう、どうでもいいの」
「あなたがヴィランになったことも、人を傷付けることもどうでもいいの!?」
「そうだよ、どうでもいい」
「私はどっちも許せない!!」
上昇気流を起こしてヴィランの元に送り込んでいた風に乗せ大きな竜巻を作りそのままヴィランを飲み込んで倒壊地域に飛ばして、私も飛んですぐにそれを追いかける。
なんであの子は人を傷付けるんだろう。なんでヴィランになるなんて選択をしたんだろう。
何があの人をそうさせたのか、私には考えたって少しもわからないけど、でもどんな理由があっても人を傷付けることもヴィランになる選択をしたことも許せない。
「ぐぅぅう…!!」
倒壊地域に着き、竜巻の軌道を操ってヴィランごと瓦礫が散らばる地面に向かって叩き付けると大きな衝撃音と土煙が舞う。
巻き上がった土煙が少しずつ晴れて行って次第にいろんな物が見え始めると彼女は腕から血を流しているのに痛みを感じないような平然とした様子でその場に立っていた。
あのくらいで倒れるようならプロたちが苦戦するはずもない。
ふぅ、と息を深く吐いて感覚を研ぎ澄ませるように集中する。
「私の邪魔しないでよ」
「するよ、そのための力だもん」
「風に治癒…そうよね、恵まれた力よね!!!」
彼女が言い終えないうちに刃が向かって来る。
突風で刃をいなしながら軌道を変え、今度はそれを彼女自身に向かわせると風でスピードを増した自分の刃を避けることが出来ずに彼女の体からは血が出る。
「…なんで私の個性は恵まれていると思ったの!?」
「恵まれてるじゃないっ!!!治癒があればすぐに治せるもの!!」
怒りに乗せて刃の攻撃が次々に来る。
この子、個性を使い慣れてると思ってたけど違う。感情に任せて個性を暴走させてるだけなんだ。
何がそうさせているのか、私は知らなきゃいけない気がした。
それなら、私は彼女の心を受け止めてそれを知るまで倒れられない。
全神経を集中させて自己回復力を高める。
勝己くんに倒れるなって言われてから自分を守るために特訓した技。
まだ使い慣れてなくて体力の消費も激しいから長くは続かないけど、代わりに受けた傷はすぐに治る。
「たしかに治癒の個性は希少で傷もすぐに癒えるけど、それとあなたが人を傷付けることと関係があるの!?」
「…あるわよっ!!」
「くぅ…っ」
すぐに治るとはいえ、体が切られる瞬間はちゃんと痛い。
だけどひとつわかった。
彼女が怒っているのは私の治癒個性だ。
治せるのに、と言っていた。きっと根源はそこにあるんだと思う。
「なんで避けないのよ!治癒出来るからっていい気になってるの!?」
「なってないよ。治癒だって限界はある」
彼女の怒りは消えない。
何度も何度も刃で体を切られるけど、私はそれを受け止めてその度治癒して、彼女に一歩一歩近付いていく。
あ、汗すごい出て来た。頭ふらつく。でもまだ彼女を本当の意味で受け止められてない。
私は、助けるためにヒーローを志したの。
だから、怒っているのに苦しそうにしてる彼女を放っておくことなんて出来ない。
「なんで避けないのよ!!なんでこっちに来るのよ!!」
「だって、あなたが泣きそうな顔してるんだもん!!」
彼女は私の言葉に驚いたような顔をして、それから「そんなことない!」と叫びながら再び攻撃をして来る。
ヒーローになりたいと思った時、私は人の命を助けたいと思った。
だけど雄英に入ってから命はもちろん心も助けることが出来ると知って、それなら私は両方助けたいと思うようになった。
この子の心に触れたい。
私の体がボロボロになっても、この子を助けたい。
「あなたを助けたいッ!!」