僕らの日常。
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チャイムが昼休みを告げる。
それまでの授業の道具を片付け、急がないと混んでしまう食堂へと向かう準備をしているとこの時間には珍しく相澤先生が教室に顔を出した。
「爆豪、みょうじ、すまないが時間いいか」
まさか教室に来た用事が私と勝己くんだとは思わず反応に遅れてしまう。
私たち何か呼び出されるようなことをしちゃったっけ…と記憶をたどるけど心当たりがない。
勝己くんと目配せをしてからいつも一緒にお昼を食べているお茶子ちゃんと梅雨ちゃんに「先に食べてて!」と胸の前で手を合わせながら言うと「なまえちゃんの席とっとくからねー!」と手を振ってくれた。
勝己くんに遅れて相澤先生の元に寄ると先生は廊下を歩き始めたのでそれに続く。
「悪いな」
「大丈夫です、珍しいですね」
「詳しくはあとで話すが、みょうじ、お前にインターンというより依頼が来てる」
「い、依頼?私にですか?」
「あァ!?俺ァなんのために呼ばれたんだよ!」
「後で話すから静かにしろ」
そう言われて勝己くんは一応黙るけど不機嫌そうな顔をしてる。
この前仮免を取得したばかりの私にインターンでもなく依頼だなんてどんなことだろうと少し不安になるけど、相澤先生の後を追って進路指導室に入る。
昼休みのこの時間帯なら職員室でも他の生徒は来ないだろうけど一応ということらしい。
相澤先生がソファに腰かけると「座れ」と促されたので対面側のソファに私達も腰をおろす。
「早速話の続きだが、みょうじに応援要請が来てる」
「応援要請だァ!?」
「私学生で仮免取ったばかりですよ」
「仮免取ったらヒーローのひよっこではあるからな。とはいえ、インターンでもなく応援要請が学生に来るなんて異例だ」
インターンは仮免取得者がプロヒーローの元で本格的なヒーロー活動をするけど、応援要請ということは私は誰の元にも付かずにヒーローとして活動するということ。
要するに事務所に所属せず、ひとりで跳び回っているミルコに応援要請が来たようなもの。
もちろん学生だし経験もないからミルコと自分を並べてしまうのは良くないんだけど。
「数日前にあった災害、知っているな?」
「はい、ニュースで見てます」
数日前、北の方で災害が起きて、その被害は予想よりも深刻で行方不明者や負傷者、死者も出ているとニュースになっている。
「詳しくは言えないが、別件で俺を含めたプロヒーローが動いていて人員を割いている。それもあってヒーローが足りてない」
「それで仮免を持っていて個性が治癒の私に応援要請が来たんですね?」
「ああ」
「リカバリーガールはどうしたんだよ。そーゆー時の一番の戦力だろ」
「ばあさんも別件だ。応援要請が来たとはいえ学生だ。13号が同行する予定でいるが、行けるか?」
そんなの決まってる。
私はこういう時に人を助けたくてヒーローを志した。
この力が誰かの役に立つなら迷う必要なんてない。
「行きます!」
「そう言うと思ってたよ」
相澤先生はそう言って少し笑ってすぐに表情を元に戻して、今度は勝己くんに視線を動かした。
「で、爆豪。お前も同行しろ」
「俺は仮免持ってねぇんだが!?」
「仮免補講の一環として現場での立ち振る舞いを見るらしい。だが、訓練じゃない。わかるな?」
「…わーってるよ」
「みょうじもだ。気張り続けろ。助けるためのお前の力だ」
「…はい!」
訓練じゃない。
私たちが間違った行動をすれば不安を抱えた被災者たちはヒーローへの信頼を失い、そこから亀裂は大きくなってしまうこともある。
現場に出たら学生だなんて関係ない。私たちはプロとして仕事をしなきゃいけない。
相澤先生に場所や現地にいるプロヒーローの人数、だいたいの被災者の人数、必要な情報を教えてもらい頭に叩き込む。
「後の細かいことは現地で状況確認しろ。悪いがすぐに準備して出発してくれ」
「はい!行ってきます!」
進路指導室を出て私と勝己くんはヒーロースーツを取りに行くために教室への廊下を歩く。
学生に応援要請が来るだけでも異例なのに、仮免補講を担っているなんて異例中の異例だ。
仮免試験の合否が出た時に公安委員会の目良さんが質の高いヒーローがなるべく多く欲しい、その為に育てていくと言っていた。
だからきっと勝己くんも補講の一環として呼ばれたんだと思う。
「なまえ、お前無茶すんじゃねェぞ」
「それは勝己くんもだよ」
「お前個性使うとぶっ倒れんだろーが」
「私だってちゃんと個性伸ばしてるよ!大丈夫!」
私を心配してくれる勝己くんに笑ってガッツポーズをすると勝己くんもニッと笑って、あぁ、その顔が好きだなぁって思う。
心の中で自分に喝を入れて前を見る。
これから私たちが向かうところには体も心も傷付いた人ばかりだと思うから、早くみんなを安心させてあげたい。
学生の私に出来ることなんて小さなことしかないけど、それでも出来ることを精一杯やろう。
教室に戻ってヒーロースーツの準備をしていると食堂から戻って来たクラスメイトたちに声をかけられたので事情を説明するとみんなが頑張れ!って応援してくれて、それでもっと頑張れる気がした。
私と勝己くんはヒーロースーツが入ったケースを持って13号先生が待っている敷地内のバス停に向かう。
「爆豪くん、みょうじさん。急なヒーロー活動になってしまってすみません」
「いえ!プロになったらいつだって急なことばかりですから!」
「急ぐんだろ、喋ってねぇでさっさとしろや!」
勝己くんに言われて止まっているバスに乗り込み、駅まで向かうと今度は新幹線に乗り換えて被災地に向かう。
現地に着く頃にはもう日が傾いていた。
「遅くなりました、雄英高校です」
「ああ、13号!待っていたよ!」
「どんな状況ですか?」
13号先生は現場にいたプロヒーローから必要な情報を聞いていて、私と勝己くんもそれをしっかりと頭に入れる。
被害地域はそんなに広くはないけれど、家屋の倒壊もありまだ取り残されている人がいるみたいだ。
負傷者を助けるための72時間の壁までもう半日程度しかないのにヒーローはいろんなところに出払っていて間に合わないからと私たちが応援で呼ばれた。
もう一刻を争う状況で、私も気合いを入れ直す。
「私の個性は治癒です。医療班に加わります」
「よろしく頼むよ。それから君は取り残された人の捜索を」
「わかっとんだよ!俺が一人残らず見つけてやらァ!」
「勝己くん、がんばろうね!」
私がそう言うと背中を少し強めに叩いて「倒れんなよ」と言うと倒壊した被害地域に個性を使って飛んで行った。
その姿が小さくなるのを確認して「行ってきます!」と13号先生に言ってから私ももうひとつの個性、風を使って救護所に向かって飛んだ。
少しだけ飛ぶとすぐに救護所の仮設テントに着いたので中に入り自己紹介を簡単に済ませるとすぐに負傷者の元に近付く。
足を怪我した小さな女の子。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」
この子が不安にならないように笑顔を作って声をかけ、そのまま手のひらを怪我した部分にかざし個性を使う。
大丈夫。この傷の深さならすぐに治る。
個性を使うとみるみるうちに傷は塞がっていく。
「はい!終わり!」
「わっ!治ったの!?痛くない!!」
「よかったぁ!」
「お姉ちゃんありがとう!!」
その子は私に抱きつきながらお礼を伝えてくれる。
ああ、これで私はまた頑張れるよ。
女の子を保護者に受け渡し次の患者さんの治癒を行う。
「大丈夫です、すぐに治します」
トリアージが黄色のそんなにひどくない怪我の人ばかりだ、よかった。これならみんなすぐに治せる。
治しては次の患者さんを治しを繰り返す。
個性を伸ばしておいてよかったと心から思う。
「トリアージ赤です!最優先、お願いします!!」
「こっちに運びます!!」
緊迫した声が響く。
集中して神経が鋭くなっていて、いろいろな情報が頭に入って来て何を優先するべきか、私がどう動くべきかの判断が瞬時に出来た。
「何を言ってる!!君は今治療中だろ!!学生の遊びじゃないんだ!!」
「遊んでません、助けたいから動くんです」
出来ないことを言っているわけじゃない。
今治癒している人はもう終わるから入れ替わりで対応出来る。
治癒しながら風の個性を使って救護所の入口まで運ばれて来た重症の患者さんを慎重に自分の方に運ぶ。
それと同時に治癒が終わり「もう大丈夫です」と笑顔を見せれば「ありがとう、頑張って」と言われ、私はまたその言葉で元気をもらえた。
今運んだ人に目をやると出血がひどい、傷を塞いでも血を出しすぎている。
とにかくまずは出血を止める…!
「すみませんっ!輸血はありますか!?すぐにそれだけ準備してくださいっ!!」
私は治癒は出来ても医療行為は出来ないから、だからみんなの助けが私には必要で、私に出来ることは全力でやる。
輸血パックを持ったお医者さんがすぐに来てくれて、治癒を続ける私と一緒に治療をしてくれる。
それから程なくして地面が揺れるような強い衝撃の後に建物が崩れる大きな音が響いて、近くにいた被災者たちは悲鳴を上げパニックを起こす人もいた。
落ち着いて、大丈夫とプロヒーローたちも声を上げて安心させようとしている。
二次災害かと思ったけど何かが違う。
建物の上に何か影が見える。
「ヴィラン…!!」
そこには街に攻撃を再度仕掛けようと背中から生えた無数の刃を構えているヴィランがいた。