僕らの日常。
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相澤先生の言葉でホームルームが終わり、今日一日の授業も終わる。
みんながわいわいと喋りながら鞄に荷物を詰め寮に帰る準備をしていている中、私も急いで教室を出る準備をする。
「なまえ行くぞ」
「あ、待って!」
私よりも早く準備が終わった勝己くんが私に声をかけて、教室の出口まで歩いて行くもんだからますます慌てた。
「どっか行くん?」
「うん、ケーキ食べに!」
「あの爆豪くんがケーキ…!?あ、早くしないと待っとるね!楽しんで!」
「ありがとう!行ってきます!」
お茶子ちゃんに見送られて勝己くんのことを追いかける。
先に教室を出てたけどゆっくり歩いてちゃんと追いつけるようにしてくれている。
今日は勝己くんの仮免補講がお休みでせっかくだから体を休めればいいのに、私が前にお茶子ちゃんと梅雨ちゃんと行ったケーキ屋さんが美味しかったから今度一緒に行こうと言ったことを覚えていてくれたみたいで、その時は行かないと言っていたし、甘い物もそんなに食べないのに一緒に行ってくれるところに不器用な優しさを感じて嬉しくなる。
前もって相澤先生に外出届も出していたから今日はそのままケーキ屋さんに向かう。
こうして勝己くんの隣を歩いて雄英の外を歩くのは夏祭りぶり。
ついこの前のことだけど、あの日は非日常というかいつもと雰囲気が違ったからこうして普段通りの街を歩くのは久しぶりな気がする。
少し前までは一緒に登下校していたからこの景色を隣で見るのが当たり前だったけど、それが今は新鮮に思える。
「ふふっ」
「ンだよ」
「なんか嬉しくなっちゃった」
「そーかよ」
「手、繋いでいい…?」
「ざけんな」
「へへ、ありがと!」
「相変わらず人の話聞かねェな」
口では拒否しながらも手を握ることを許してくれる。
勝己くんの体温は高い。その温かさが手から伝わるのが嬉しくて頬が緩んでしまうと「なにヘラヘラしとんだ」と言われてしまったけど勝己くんも笑っていて、胸がきゅうっとして、好きだなぁって実感する。
雄英からそんなに遠くもないお茶子ちゃんたちと来て以来のケーキ屋さんに到着すると外装が相変わらずオシャレで、店内には新作のケーキも増えて宝石みたいにキラキラと陳列されていて見ているだけで気分が上がる。
思わず食い入るようにケーキを見つめてしまっていたら勝己くんにまた笑われてしまってちょっとだけ気恥ずかしくなりながらもケーキを選ぶ。
「まだ決まんねぇのかよ」
「2つで悩んでる…せっかく来たし…なかなか来れないし…」
陳列ケースの中のケーキとにらめっこをしていると後ろから勝己くんが声をかけてきたけど、急かすとかそういう感じではなくて、優しく見守ってくれてるような、そんな感じの声。
「両方頼めばいいだろ」
「え、えー…それは欲張りだよ…」
「俺の分、お前が決めろよ。ンで半分やる」
「い、いいの!?」
「いいから早くしろや」
「わぁ!!ありがとうっ!!」
嬉しさのあまり思わず抱きついてしまいそうになるのを我慢して、マスカットのレアチーズケーキとアップルパイを注文した。
両方とも旬のフルーツを使った限定品!オススメです!と書いてあってオススメや限定品って言葉に弱いなぁと思う。
イートインスペースの窓際の席に座って待っていると店員さんが頼んだケーキを運んで来て目の前に置いてくれた。
「うわぁ…!美味しそう…!いただきますっ!」
最初にマスカットのケーキを1口食べるとチーズの濃厚さとマスカットの爽やかさが広がってとろけちゃいそう。
口の中のケーキが無くなると勝己くんを忘れてたことに気付く…。
恐る恐る勝己くんの顔を見ると頬杖をつきながらジッとこっちを見てる。
「随分楽しそうだなァ」
「…ご、ごめんなさい」
「俺のこと忘れとったろ」
「い、やぁ…そんなことは…」
「目ェ泳いでんぞ」
「…ごめんなさい」
素直に謝ると勝己くんはイジワルな顔で笑った。
この顔は後で怖いやつだ…と思いながらケーキをフォークに乗せて勝己くんの口元に運んだ。
「ど、どうぞ」
「賄賂かよ」
「違うよ!」
差し出したケーキを素直に口に入れる勝己くんがなんかすごく色っぽく見えて少し照れてしまう。
外からの日差しがガラスを通して勝己くんの髪の毛に当たって、薄い金髪がキラキラと光る。
「甘ェ」と言いながら指で口を拭う仕草まで色気があって、かっこよくて、ドキドキする。
「…なんか、ケーキの味しなくなっちゃいそう」
「さっきまで喜んでたろーが」
「ケーキも好きだけど、勝己くんの方が好きだなって」
「は…?」
「なんもないっ!」
何を言ってるんだろう私は!
照れ隠しにケーキを口に放り込むけど、やっぱり恥ずかしくなっちゃってケーキの味なんてしなくなっちゃった。
せっかく楽しみにしてたのにもったいない…。
でもだって勝己くんにドキドキしちゃうんだもん…。
付き合ってから少し経つけど慣れないものは慣れない。
お店を出て街をぶらりと歩きながら雄英に向かう。
半分やるなんて言ってくれたけど、結局勝己くんはほとんどを私にくれた。
今度は勝己くんが好きな激辛料理でも食べに行ってお礼しないとなぁ。
「満足したかよ」
「うん、美味しかった」
「お前それ満足いってねぇだろ」
「そんなことないよ、勝己くんと一緒だから楽しい!」
たしかにケーキの味がしなくなったのは残念なんだけど、でも楽しいのは本当。
勝己くんといる時間は何をしてなくてもそれだけで楽しいし、隣にいると安心できるし、幸せってこういうことかぁって思える。
「お前今日なんなんだよ」
「え?あ、ちょっと待ってて」
すれ違った男の人がハンカチを落としたのが見えて、勝己くんの話を遮って拾って渡しに行く。
その人はペストマスクをつけていて、珍しい装いに思わず顔を凝視しまった。
「どうもすいません…雄英生ですか?」
「あ、はい!」
「おい、行くぞ」
男の人に会釈をして勝己くんの隣に戻る。
「なんの話だっけ?」と聞くと「なんもねぇ」と言われてしまった。
ちょっとずつ秋になっていく街は、暑さはまだ続いているけど日が少しだけ短くなった。
夕日が沈んでいくのを見ると勝己くんとこうして2人で出かけてる時間はほんの少しで、あっという間に一日が終わっちゃうなぁとなんだか寂しくなる。
寂しくなったところで帰る場所は同じなんだけど。
雄英から近かったこともあってすぐに帰って来てしまった。
A組のみんなでわいわいするのも大好きなんだけど、勝己くんとこうして二人になる時間も大好きだからなんと言うか名残惜しい。
私たちが付き合っていることはみんなも知っているから二人になることは簡単なんだけど、なんだかみんなに気を遣わせてしまっているような気がするからこっちも気が引けてしまう。
もう少し二人でいたいけど引き止める理由も見付からない。
今日はこのまま寮の玄関を開けてしまおう。
「なまえ」
「ん?」
寮の玄関に手を伸ばそうとしたら後ろにいた勝己くんに名前を呼ばれ、振り返ると視界いっぱいに勝己くんの顔で唇に柔らかいものが触れる。
一瞬で、何をされたのかわからなかったけどキスされたんだって理解したら一気に顔に熱が集まって来る。
「まだ開けんなよ」
そう言いながら私の体を寮の壁に寄せ、逃げられないように勝己くんが壁に片腕をつくとグッと距離が近くなる。
恥ずかしくて思わず俯いてしまう。
「こっち見ろ」
「は、はずかしい…」
「そうさせてんだわ」
空いてる手で頬を包んで勝己くんの方を向かされた。
顔が近くて、影になってる整った顔は色気があって、キレイな赤い瞳に見つめられると動けなくなってしまう。
「俺のこと忘れて楽しそうだったもんなァ」
「それは…えっと…」
ケーキ屋さんでのことだ。ああ、やっぱりあの時イジワルな顔して笑ってたもん。
「俺の方が好きなんだろ?」
ほら、もう、今だってすごいイジワルな顔してる。
でも私を見つめてくれるその瞳が、その表情が好き。
「勝己くんが、いちばん好き、です」
顔から火が出ちゃいそう。
後で怖いなぁとは思っていたけど、まさかこうして仕返しされるなんて思わなかった。
私の頬を包む親指で唇をなぞられる。
その動きひとつひとつが優しくて、羞恥心を煽られる。
「期待してるツラしとる」
「…それは、しちゃうよ…」
また勝己くんの顔が近付いて来てキスされるって思って、残ってる理性で慌てて勝己くんの口に手を当てて阻止するとすごい顔で睨まれた。
「手ェどかせや」
「だめ!だって外だもん…誰かに見られたら恥ずかしいし…」
「アァ?見せときゃいいだろ」
「勝己くんとの秘密がいいよ…」
機嫌が悪そうだった表情がどんどん何かを企んでいるような悪い顔に変わっていく。
あ、これ私大丈夫なやつかな…。絶対いろいろとだめなやつてだと思う。
勝己くんはかっこいいし、私にしか見せない表情を見せてくれたりするからドキドキしたり、キュンとしたりして困る。
そういう意味でも私の心臓がもたなくてだめなやつ。
「ンじゃ、あとで楽しみにしといてやるよ」
「もうっ!ばかっ!」
わしゃっと私の頭を撫でると言うよりぐしゃぐしゃにして寮の玄関を開ける勝己くんの後ろ姿に悪態をつきながらついて行く。
それでも触れられたところは熱を帯びるようで、にやけてしまいそうになるのをグッと堪えた。
「おかえり!」と出迎えてくれるクラスメイトにいつも通りの態度をとる勝己くんを見て、いつも余裕があってずるいなぁなんて考えた。
私はいつだって必死なのになぁ。