僕らの日常。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※緑谷くん視点です。
苦手な方はご注意ください。
Side 緑谷
かっちゃんがみょうじさんと付き合ってることを公言した日。
僕はやっぱりかと、今までの二人を思い出してやっと腑に落ちた。
そしてあの優しい顔したかっちゃんを見てしまったことに対しても気持ちが軽くなった気がした。
それでも見たことがバレたら僕は終わりだと思うけど。
公言してから、二人はずっと一緒にいる…わけではなかった。
みょうじさんはわからないけど、かっちゃんは揶揄されるのを嫌うから適度な距離を取ってるようにも見える。
でも僕は気付いてる。
みょうじさんとかっちゃんがみんなの前で2人になることはほとんどない。
でも彼女を見守るように、視界の範囲にかっちゃんはいる。
かっちゃんとは幼稚園からの幼馴染だから性格はよく知ってる。
口も性格も悪くて、自分本位で、他の人はモブ扱い。
もちろん個性とかその使い方とか戦闘技術とか勝利へのこだわりとかすごいところもたくさんある。
かっちゃんの恋愛遍歴はよくわからないけど、僕が見てきた限り女の子に興味があったとは思えない。むしろ面倒くさがっていたように思う。
そんな彼が一人の女の子に固執するなんて。
入学してからみょうじさんとはもちろん友人として交流してきた。
彼女はすごく明るい。いつも笑顔で泣いてるところなんて見たことがない。
素直で、真っ直ぐで、彼女の周りには誰かがいる。
そんな彼女があのかっちゃんを選ぶなんて。
何が起こるかわからないなぁ、なんて考える。
「あ、緑谷くんだぁ」
おはようと眩しいくらいの笑顔を向けてくるのは今まで僕が考えていた二人の内の一人。みょうじさんだ。
朝5時を少し過ぎた。
まだ早い時間なのに談話スペースのソファに座りながら冷えた紅茶を飲んでいたらしい。
「おはようみょうじさん。早いね」
「あ、うん、そうなの」
歯切れの悪い返事に少し違和感を持ったけど、早朝トレーニングだったり、目が覚めてしまったり、早く起きるのにそこまで理由もないかと思った。
キッチンの冷蔵庫からコップいっぱいに牛乳を注ぎ入れ、みょうじさんの正面のソファに腰かける。
正面で彼女をよく見たら、彼女の体型には大きいTシャツを着ていた。
「その服…かっちゃんの…」
無意識に口に出してしまった。
気付いたら勝手に!
しかも見たことあったから!
みょうじさんは僕の言葉を聞くと顔を一気に赤くした。
「か、借りたの!」
「あ、そうなんだね…ふ、二人は付き合ってるしそういうこともあるよね!?」
彼女の顔の赤みが伝播したのか、僕も突然恥ずかしくなって自分でもよく分からない言い訳を何故か僕がしていた。
付き合っててTシャツ借りることもあるってどんな時だ!
僕は付き合ったことがないからわからないけど!
「緑谷くんは好きな子いる?」
「へ!?」
突然の質問に変な声を出してしまった。
まさかみょうじさんからこの手のことを聞かれるとは思わなくて!
好きな子…。
誰かを好きになるってどういう感情なんだろう。
最近は女子とも話せるようになって来たけど、麗日さんは距離が近くて照れる。
オールマイトは子供の頃からずっと好きだけど、でもそれは尊敬や憧れで、もちろんみょうじさんがかっちゃんを好きって言うのとは違う好きだ。
「僕その手のこと疎くて、よくわからないんだけど…。みょうじさんはかっちゃんのどこを好きになったの?」
流れとはいえ、ずっと気になってたことを聞いてしまった。
どうやってあのかっちゃんを好きになって付き合ったのか。
みょうじさんは顔を染めている。
「勝己くんは何でも器用にこなすけど、すごく不器用だよね。だからすごくわかりにくいけど、本当はすごく優しいんだよ」
かっちゃんは確かに器用でなんでも出来る才能の塊だ。
でも優しい…?優しいなんて今までで一度も思ったことないよ!?
「本当はね、私たちが付き合ってるの内緒にしておくつもりだったの。勝己くんが寮生活なのに私たちが付き合ってる事を知ったらみんな気を遣うだろうからって。内緒ね」
そう言って笑う彼女はとても穏やかだ。
かっちゃんにそんな人を気遣う一面があっただなんて。
「それでね、勝己くんは私が困ってる時、助けてくれるんだよ。だから私のヒーローなの。素直じゃなくて負けず嫌いで、誰も見てないところでトップになる為の努力も怠らないところもね、好きなんだぁ。勝己くんはいいところ多いのに損してるよね」
彼女がかっちゃんのことを口にする時、その表情は柔らかくて、声も優しくて、心からかっちゃんを好きなんだと伝わってくる。
こちらが恥ずかしくなるくらいに。
「あ!ごめんね!喋りすぎてしまった!恥ずかしい…内緒にしててね」
「かっちゃんのこと大好きなんだね」
「…うん、大好きだよ。すごく、好き」
こんな表情で、こんな声で、こんなに真っ直ぐな好意を向けられたら男なら誰でも好きになるんじゃないか。
かっちゃんを少し羨ましく思う。
みょうじさんは火照った顔を冷やすために片手で顔をパタパタ仰ぎながら冷えた紅茶を飲んでいる。
「あ、そうだ緑谷くん。勝己くんのこと、ありがとう」
かっちゃんのことでみょうじさんにお礼を言われる心当たりが全くない。
最近であったことと言えば仮免試験の後にケンカしたくらいで、怪我して帰ったし謹慎にまでなった。
怒られはしてもお礼を言われることではない。
「え、何?何の話?」
「勝己くん、最近ずっと悩んでたみたいなんだよね。あ、もちろん私に悩み事があるとかは全然話してくれないけど、見てて辛いくらい悩んでたの」
オールマイトのことだ。
あの晩、かっちゃんと本音で、本気で向き合った。
かっちゃんがあそこまで、誰よりも抱え込んで悩んでることに僕は気付けなかった。
でもみょうじさんはかっちゃんの変化に気付いていたんだ。
「緑谷くんとケンカして帰って来たら表情が変わってた。悩み事、解決できたんだなって。だから緑谷くん、ありがとう」
そう眩しいくらいの笑顔を見せた。
かっちゃんのこと、誰よりも見て、誰よりも理解してるんだなと思う。
こんなに思ってもらえるなんてかっちゃんは幸せ者だ。
「あ、いや、僕は何もしてないよ、ほんとに、ケンカしただけで…」
「本当にねぇ、2人がボロボロで帰ってきた時びっくりしたんだから!」
腕を組んでムスーっとした顔でそういうみょうじさんは言葉遣いは全然違うけど、動作がかっちゃんに似て来た気がする…。
けどすぐにいつもの笑顔に戻る。
「でも今回はそれでよかったのかなって。緑谷くん的には勝己くんにケンカ吹っかけられただろうから災難だったのかもしれないけど。謹慎だしねぇ!」
「あ、うん、それは…いや、でもいいんだ。向き合うべきだったと思うから」
「そっか。勝己くんもすごく優しいんだけど、緑谷くんもすごくすごく優しいよね!根っからのヒーローって感じ!」
眩しい笑顔のままガッツポーズをする彼女は可愛らしいと思う。
見ているこっちまで笑顔になる。
「みょうじさんも優しいよ。何があったか絶対に聞かないでしょ」
「聞かれたくないことだってあるもんね!誰でも話したくなったら勝手に話すもんだよ。だから私からは聞かない!」
その気遣いが僕とかっちゃんにとってはすごくありがたかった。
オールマイトとの秘密は守らないといけない。言えない。
「あ、今の話内緒だからね!」
「うん、わかったよ」
もともと言いふらす気なんてさらさらなかったけど、今日したみょうじさんとの会話は全部内緒だなぁと思う。
僕が返事をすると彼女はまた微笑んだ。
「なまえ」
みょうじさんと話をしていると彼女の名前を呼ぶ声が聞こえた。
聞き慣れた低い声。でも他の人を呼ぶよりも優しく穏やかに聞こえた。
もちろん声の主はかっちゃんだ。
タオルを肩にかけて、髪の毛からは乾ききってない水分が少し落ちてる。
お風呂に入ってたらしい。
「行くぞ」
「あ、待って。コップ片付けてくる」
みょうじさんは空になったコップを持ってキッチンにパタパタと走っていく。
かっちゃんと2人になってしまった。気まずい。
そうか、かっちゃんがお風呂入るのを待ってたのか。
だからこんな早朝に談話スペースにいたんだ。
…こんなに早くお風呂に入るってことはトレーニングでもしてたのかな。
「なんでてめェがなまえといんだよ、クソデク」
「え!たまたまだよ!たまたま目覚ましちゃって喋ってただけっ!」
「変なことしたらタダじゃおかねェぞ」
「そ、そんなことするわけないじゃないか!」
みょうじさん!!この目付きと発言のどこが優しいの!!!
早く戻って来てみょうじさんっ!!!
「もー、勝己くん!緑谷くんに威嚇しないでよ」
「してねェわ!!」
「ほら、行こ。緑谷くんまたね」
「押すんじゃねぇよ」
みょうじさんがかっちゃんの背中を押して談話スペースから離れて行く。
押すなと文句を言うかっちゃんだけど、そんなに嫌がってる風には見えなかった。
みょうじさんがかっちゃんの背中から手を離すと隣を歩いて僕に向けていたよりも優しい女の子の顔をしていた。
本当に2人は仲がいいんだな。
お互いがお互いを大切に思い合っているのが2人を見ているとわかる。
かっちゃん、こんなに思ってくれる人が近くにいてきみは幸せ者だ。
きみが彼女の手を離すとはとても思えないけど、絶対に離しちゃだめだよ。
なんて、僕が言うことでもないと思うけど。
よかったね、かっちゃん。