僕らの日常。
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寮生活が始まって初めての早朝5時。
アラームの音で起こされてまだ眠い目を擦り、体を無理やり起こしてキッチンの横にある談話スペースへと意識がほわほわしながら向かう。
そこにはもう彼がいる。
「爆豪くん、おはよ…」
談話スペースにあるソファに腰掛ける彼は私の声に振り返り、私を視界に入れるとギョッとした顔をした。
「てめ…!なんつー格好しとんだ!!」
「んー…?」
正直、普段5時になんて起きないから眠くて、とりあえず爆豪くんが待ってるから行かなきゃとだけ考えて部屋着そのままで来てしまった。
今思えば可愛くもなんともない。
キャミソールのルームウェアにショートパンツというラフな格好を好きな人に晒してしまった。
「何も考えずそのままで来ちゃった」
「…着てろ」
爆豪くんは私に自分が着ていたであろう上着を投げて貸してくれた。
お礼を言って袖を通すと爆豪くんの匂いがした。
なんだか包まれてるみたいで1人で勝手に恥ずかしくなって、それをごまかすようにキッチンに行って二人分の飲み物を用意して談話スペースのテーブルに置き、爆豪くんが座ってるソファの隣に腰を下ろす。
「なんか不思議。爆豪くんとソファ座って話してるの」
「いつも隣で喋っとるだろ」
「それはさー、外じゃん。ここはさ、寮だけどおうちじゃん。だから不思議な感じ」
「てめェんちで喋ったろ」
「そうなんだけど」
「手ェ握らされたな」
「あ、れは!ごめん。お母さんが小さい頃やってくれてて…」
あの時のことを言われて一気に恥ずかしくなる。
チラッと隣に座る爆豪くんを見るとなんだか楽しそうに見えた。
2人で誰もいない時間に内緒で会って、私たちの関係ってなんなんだろう。
…聞けない。
聞いて、この時間が終わるって思ったら聞けない。
ずるいよね。本当はちゃんとハッキリさせるべきだよね。
でも、あなたが隣にいない怖さと寂しさを知ってしまった。
その数日間はずっと悪夢の中にいるみたいだった。
またあなたが隣にいなくなったらって想像すると、聞くのが怖い。
「そういえば昨日の部屋王面白かったよ!爆豪くん寝ちゃってたから参加してなかったけど」
「…てめェの部屋も見せたんか」
「え?うん」
「…隙見せすぎなんだよ」
「なに?」
「なんでもねぇわ!」
爆豪くんと話してる時間はあっという間で、気付けば時計は6時を過ぎていた。
もうそろそろ起きてくる人もいるだろう。
私たちの秘密の時間も終わりだ。
「その格好で他のやつの前うろつくんじゃねぇぞ」
「そうだよね…だらしなさすぎた、ごめんね」
「違ぇわ」
「…あ!また誰かに上着借りることになっちゃうもんね!爆豪くんのはちゃんと洗って返すから!」
「てめェの思考回路はどうなっとんだ」
爆豪くんは呆れたような、少し怒ってるような顔をしていた。
「…怒った?」
「怒ってねぇわ!」
「爆豪、みょうじ早いな」
声がした方を振り向くと轟くんが起きてきていた。
「おはよう、轟くん」
「ああ、おはよう」
寝起きの轟くんも三奈ちゃんの言葉を借りるならツラがいい。
「みょうじ」
爆豪くんに呼ばれたのでそちらに向き直ると借りて前開きで着ていた上着のチャックを完全に上まで閉められた。
突然なに…?びっくりしてそう思ったけど、私の隣に轟くんが座って来たので声にはならなかった。
「何座っとんだ半分野郎」
「ダメだったか?悪い」
「ダメじゃないよ!」
相変わらず爆豪くんは轟くんに悪態ばかりつく。
当の本人は気にしてなさそうだし、なんだかんだこの2人はコンビネーションもいい。
「それでかくないか?」
それとは、爆豪くんに借りた上着のこと。
半袖だけど袖も丈も私には少し大きいから気になったのかな。
「あ、これ爆豪くんに借りたの」
「寒いのか?」
「大丈夫だよ?」
「顔赤いぞ、熱あるんじゃねぇか?」
そう言いながら轟くんはその端正な顔をグイッと近づけて来て、おでことおでこで熱を測ろうとする。
そりゃこれだけ接近されたら女の子は誰だって顔真っ赤になるさ!!
「ひゃっ!」
あと少しで轟くんのおでこが当たりそうになった時、肩を思いきり引っ張られたので思わず轟くんの洋服を掴んでそのまま体勢を崩した。
反射で閉じた目を開くと視界いっぱいに爆豪くんと轟くんの顔。
私は体勢を崩して爆豪くんにひざ枕される形で倒れ、轟くんの服を引っ張ったせいで彼も体勢を崩し、私に覆い被さるようにソファに腕をついていた。簡単に言うと押し倒されたみたいな体勢。
自分の状況を理解して一気に体が熱くなる。
「ご、ごめんなさい!!」
「ケガねぇか?」
「大丈夫ですっ!」
轟くんは私の手を握って起こしてくれた。
イケメンで紳士だ…!!
それより朝からこの2人とのこんなハプニングは心臓もたない。
いや、朝に限らずなんだけど!私には刺激が強すぎる!
「チッ…気分悪ぃわ」
「大丈夫か、爆豪」
「うっせぇんだよ!話しかけてくんじゃねぇ!」
「爆豪くん…!」
「ついてくんな」
爆豪くんは苛立ちながら談話スペースから離れて、おそらく自分の部屋に戻ってしまった。
今まで私に向けられたことがない怒りに戸惑う。
「悪い、俺が座ったからか」
「違うよ!そのくらいじゃ怒らないよ!…私がなにかしちゃったんだと思う…」
困ったように笑うと轟くんが私の頭をぽんぽんと撫でた。
それにまた恥ずかしくなる。
「みょうじのそんな笑顔見たらやりたくなった。嫌だったか?」
「…嫌じゃないよ、恥ずかしいけど」
でも。
当たり前だけど爆豪くんの手とは違う。
なんで怒ったんだろう。
爆豪くんと話しないと。
「ありがとう、轟くん。私爆豪くんと話してくるよ。また学校で!」
「ああ」
私はすぐに男子棟のエレベーターを使って4階まで上がって爆豪くんの部屋の前に向かう。
トントンと部屋の扉をノックするけど反応がない。
「爆豪くん…?みょうじだけど…あの…!」
「みょうじ?爆豪ならもう学校行ったぞ」
声をかけてきたのは爆豪くんの隣の部屋の切島くん。
彼も制服を着て学校に行く準備をしていた。
いつの間に寮を出たんだろう。
学校に行く前にちゃんと話したかったのに。
「そっか。わかった!切島くんありがとう!」
「おう!」
切島くんと別れ、自分の部屋に戻って急いで制服に着替えて寮を出た。
学校まで5分の道程を走って教室に向かったけど、爆豪くんはいなかった。
結局、爆豪くんが教室に来たのはホームルームが始まるギリギリだった。
何度か爆豪くんに話しかけようとしたけど避けられてしまった。
そのまま放課後まで話すことは出来ず、やっと話せると思ったけど相澤先生に話があると呼ばれてしまった。
今日の夜はみんなでパーティーをするって言ってたから買い出しも分担して行くことになっていたけど、それは任せるしかなさそう。
全然爆豪くんと話す時間がない。
「お茶子ちゃん、ごめん!この後相澤先生に呼ばれちゃって買い出しみんなにお任せしちゃってもいいかな…」
「うん!任しといて!」
「ありがとう!」
手を合わせながらお茶子ちゃんと話すと、お茶子ちゃんが私の耳に近付いてコソコソっと話をして来た。
「何があったんかわからんけど、爆豪くんと話したいことあるんと違う?爆豪くんも買い出し行かんと思うし、こっちのことは気にせんと爆豪くんと話したらええよ」
そう言って距離を取ったお茶子ちゃんはにっこり笑ってた。
その笑顔に思わず抱きついてしまった。
「ありがとうお茶子ちゃん!大好き!!」
「あはは、なまえちゃん大袈裟!がんばれ!」
「うん!頑張って来る!」
じゃあまたあとで!とお茶子ちゃんに挨拶して荷物を持って職員室へと急ぐ。
早く話終わらせて爆豪くんとちゃんと喋らなきゃ。
と思ったのに
「遅くなった!!」
相澤先生との話が思いのほか長くなってしまって急いで寮まで走る。
爆豪くん、寮にいるかな。
ちゃんと話がしたい。
いなかったら電話しよう。
勢いよく寮の扉を開けて中に入る。
部屋にいるかな。一応談話スペースも見て行こう。
今朝話していたソファの端から薄い金髪が見えている。
よかった、爆豪くんいた。
静かに彼の顔を覗くと自分の片腕を枕にしてソファに身を沈めて寝ていた。
朝早起きだったから眠っちゃったのかな…。
じっと顔を見つめても起きる気配がない。
ソファの正面に移動して爆豪くんの顔の前でしゃがむ。
寝顔はすごく穏やかだ。
「爆豪くん、なんで避けるの…?」
寝ている爆豪くんに話しかけるけど動かない。
余程眠りが深いのかな。
「私何しちゃったんだろう…ちゃんと教えてくれないとわかんないよ」
なんで怒ったの?ちゃんと話したい。
「…ずっと聞きたかったことがあるの」
彼が寝てるのをいい事に私の口は今まで我慢していた言葉を紡ぐ。
「なんで爆豪くんは私に優しくしてくれるの?なんでいつも守ってくれて、帰りも毎日送ってくれてたの?看病しに来てくれたのは?おうち近いのが他の子だったらその子にもそうしてた?」
1度口に出したら止まらない。
「そうだとしたら、嫌だなぁ」
本心を口に出してしまった。
「爆豪くん。私のことどう思ってる…?」
何言ってるんだろう、私。
爆豪くんの髪の毛に触れると思ったよりもずっと柔らかかった。
「…寝てる爆豪くんに話すなんて、こんなのずるいよね。ごめんね。忘れてね。」
「忘れるわけねぇだろ」
その声と同時に髪の毛を触っていた手は爆豪くんに掴まれた。
目はしっかりとこちらを見ている。
「お、起きてたの?いつから…?」
「最初から」
「寝てるのかと思って…っ」
寝てると思っている彼に言った言葉を思い出して一気に恥ずかしくなる。
ずっと心の中にとどめてた。
聞かないようにしてた。
彼との居心地のいい関係が終わるのが怖かったから。
終わってしまう。
「ごめん、忘れてほしい」
「忘れねぇつっとんだろ」
「…なんで」
彼の顔が見れない。
俯いて視界が滲んで涙がこぼれないように必死に我慢する。
「…他のヤツだったら家までなんて送らねぇよ」
「え?」
「看病にも行かねぇし、こんなにずっと考えもしねぇ」
「どういう…?」
もう頭真っ白になって理解が追いつかない。
舌打ちが聞こえたと同時に力いっぱい引っ張られて爆豪くんに抱きしめられてた。
「だから…てめェが好きだって言っとんだ」
それは、ずっとそうだったらいいなって思ってた言葉で。
私と同じ気持ちでいてくれたことがすごく嬉しくて。
でも現実味がなくて。
「うそじゃ、ない?」
「嘘ついてどうすんだよ」
嬉しくて、嬉しくて。
「お前はどうなんだよ」
「好き。私も爆豪くんのことが好き」
「そうかよ」
心臓の音、ドキドキしてる。
でもこの音、私のと、爆豪くんのものだ。
爆豪くんも心臓の音、すごくドキドキしてる。
「爆豪くんの心臓の音すごい」
「…ったりまえだろ。好きなやつ抱きしめてんだから」
バツが悪そうに言う彼の顔は見えないけど、きっと照れてるんだろうなって思ったらそれだけで胸がきゅうって締め付けられたみたい。
でもなんで怒ってたのかちゃんと聞かなきゃ。
爆豪くんの胸を軽く押し返してソファに座り彼の顔をきちんと見る。
「なんで怒ったの?私なにかした?」
「……てめェが半分野郎とイチャコラすっからだろうが!!」
「えっ、轟くん!?」
「好きな女が他の野郎に押し倒されてんの見てなんとも思わねぇわけねぇだろクソが!」
「押し!?」
そしてそのまま、今度は爆豪くんにソファに倒されてしまった。
「ちょっ」
「てめェにこういうことしていいのは俺だけなんだよ。なあ、なまえ」
にやりと笑う彼に名前を呼ばれて心臓が破裂しそう。
しかもこの体勢。
初めて下の名前呼ばれた。
「心臓もたない、です…」
きっと私の顔は真っ赤だったと思う。
顔が熱いのが自分でもわかる。
好きって言われて、抱きしめられて、押し倒されて、名前呼ばれて。
刺激が強すぎる…。
でも今なら呼んでもいいかな…。
「か、勝己くん…」
勇気を出して呼んでみたら爆豪くんが私に覆いかぶさってきた。
「へ!?あの…!」
「…大事にしてやりてぇって思ってんだから煽ってくんじゃねぇよ」
「そ、そんなつもりは…」
大事にしたい…。
そんな言葉が彼から聞けるとは思ってなかった。
けど、そうやって思ってくれていたんだね。
「私、幸せ者だね。勝己くん、こんな私だけどよろしくお願いします。」
「これから甘やかしてやるから覚悟しとけや、なまえ」
「お、お手柔らかに…?」
きっと今日、私が世界で1番幸せだと思う。
そのくらい幸せで、嬉しくて。
ずっとこの人の隣にいたい。
隣にいても恥ずかしくないように頑張らなくちゃ。
もうすぐみんなが帰ってくる頃。
あと少しだけ、この余韻を感じていたい。