僕らの日常。
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雄英高校ヒーロー科。
そこはヒーローを志す者なら誰もが憧れる名門校。そして偏差値79の超難関校である。
私はこの春、晴れて第1志望である雄英高校ヒーロー科1年になった。
真新しい憧れの制服に袖を通し、入試の時とは違う緊張感と晴れ晴れした気持ちで校門をくぐったのはもう約2ヶ月前。
在籍する1年A組のクラスメイトとは仲良く、和気あいあいと、それでいてお互いがライバルで切磋琢磨するとてもいい関係だと思ってる。
「あ!なまえちゃんおはよー!」
「おっす!みょうじ!」
「お茶子ちゃん、切島くん、おはよう!」
クラスの扉をガラッと開け中に入ると先に来ているクラスメイトたちと挨拶を交わして自分の席に荷物を置く。
「あっ!!」
「どしたん?」
「あ、いや、日直なのすっかり忘れてた」
私が大きな声を出すとお茶子ちゃんが少しビックリしながら声をかけてくれた。
自分が日直ということを急に思い出したので思わず大声が出てしまって恥ずかしい。
「相澤先生のとこ行ってこなきゃ」
えっと、今日は…あ、爆豪くんと日直一緒だ。
爆豪勝己くん。とにかく口が悪い。目付きも悪い。でもなんでも器用にこなす。戦闘技術も個性も強い。頭もいい。才能すごい。
入学直後に上鳴くんにクソを下水で煮込んだような性格って言われてたっけ…。
そんな彼に目を向けると窓際の席にダルそうに頬杖をついて座る爆豪くんの髪が教室に差し込む日差しに照らされてキラキラしてる。
「爆豪くんおはよ!今日日直一緒だからよろしくね。これから相澤先生のところに行ってくるから、連絡事項あったらあとで共有するね」
「…ンなめんどくせェことすんなら一緒に行きゃいいだろーが」
効率考えろやと悪態をつきながらも一緒に来てくれるみたい。
なんだかんだちゃんとやってくれるんだよなぁ。
ありがとうとお礼を言うと彼は私の数歩先を歩いていく。
「今日のヒーロー基礎学なにやるんだろうね」
「さぁな」
「私も爆豪くんみたいに戦闘頑張らないとなぁ」
「てめェは個性的に救助だろーが」
「んー、そうなんだけど。爆豪くんって勉強も出来るよね!」
「あんなもん余裕だわ」
「才能マンだぁ」
「ぶっ飛ばすぞ」
「えへへ、ごめんね」
私の個性は母の治癒と父の風を操る力を少しずつ受け継いだので、ひとつひとつの個性はそんなに強くない。
けど負傷者が出た時私の個性は役に立つ。
だから彼は救助向きと言ったのだ。
それから職員室に着くまでの間、他愛もないことを話した。
彼はズボンのポケットに手を入れて面倒くさそうにしながらも会話を続けてくれた。
いつも怒鳴ってるイメージが強いけど、こんな一面もあるんだなぁ。
職員室に着いて相澤先生に連絡事項を聞いたが今日は特別なことはなかったみたい。
爆豪くんは「…ンだよ」と呟いていたが、いつもの事だと相澤先生も気にした様子はなかった。
先生とも少し話をして職員室を出て、今度は教室に向かって歩く。
そういえば、さっきもだけど教室出て行く時は前を歩いてたのに気付いたら私のペースに合わせてくれてるなぁ…なんて思う。
「連絡事項なかったね」
「無駄な時間だったわ、クソが」
「私は爆豪くんと話できて嬉しかったよ」
「…言ってろ」
チラッと私の顔を見たかと思ったらすぐに視線は進行方向に戻っていた。
その後も教室に着くまでは他愛もない話を少しした。
目は合わないけれど、初めてこんなに話して、少し仲良くなれた気がして嬉しかったのは本当だよ。
その後は何事もなく1日授業を受けた。
みんなとバイバイ、また明日ね!と言葉を交わし、続々と帰宅して行く中、私は残った日直の仕事をしていた。
黒板をキレイにして、日誌をまとめているとごみ捨てに行ってくれていた爆豪くんが帰って来てドカッと自分の席に座った。
「爆豪まだ帰んねーの?」
切島くんの声だ。隣には上鳴くんもいる。
爆豪くんは朝と同じように頬杖をついていた。
今度は夕日に照らされて薄い金色の髪が少し赤みがかっていた。
「あ?日直だわ」
「何もやってねーじゃん!少しはみょうじのこと手伝ってやれよ!」
「みょうじも爆豪と日直じゃ可哀想になー」
「うるせぇんだよ!!クソ共が!!さっさと帰れや!!!」
爆豪くんと切島くん、上鳴くんのやり取りを見て仲良いなーなんて少し笑ってしまった。
2人は私にも「じゃーな!頑張れよ!」と 声をかけてから教室を出て行った。
教室には私と爆豪くんだけになってしまった。
「もう終わるから先に帰っても大丈夫だよ?」
「待ってるって言っとんだろ!さっさと終わらせろや!」
「…ありがと」
日誌なんて2人で書くものじゃないし、やることないから大丈夫なのに。彼なりの優しさなのかな。
なんでも器用にこなすくせに、こういうとこ不器用だなぁと口元が緩んだ。
爆豪くんが待っててくれてるし、早く終わらせないと。
サラサラっとペンを走らせて日誌を完成させ、「お待たせしました!職員室寄るから先に帰っててね!」と爆豪くんに伝え、職員室にいる相澤先生に提出しに行く。
下駄箱に降りて靴を履いて外に出るとさっきまで一緒にいた後ろ姿が壁に体重をかけていた。
「爆豪くん?もしかして待っててくれてた?」
「ンなんわけねーだろ」
「優しいね、ありがと!」
「うっせぇ!黙って来いや」
「へへ、はーい」
そう言って爆豪くんは先に歩き出したけど、結局私の歩幅に合わせてくれてた。
口も態度も悪いから優しさがわかりにくいや。
絶対損してるよ…。
チラッと彼の顔を盗み見れば整った顔をしていると思う。
うちのクラスでは轟くんがイケメンって言われてるけど爆豪くんもなかなかだと思うんだよ。
「家どこだよ」
そんな事を考えてたら爆豪くんから話しかけられて少し慌ててしまった。
「あ、えと、折寺」
「は?一緒かよ」
「え、爆豪くんも折寺なの?」
まさか最寄り駅が一緒だったとは驚きだ。
という事は緑谷くんと爆豪くんは幼馴染だから緑谷くんも一緒の駅なのかー。
「私地元こっちの方じゃないから一人暮らししてるんだー」
私の実家から毎日雄英に通学するのは難しいので、進学が決まってから親元を離れて学校からまあまあ近い折寺に住むことにしたのだ。
折寺にはオススメの場所ある?何が有名なの?とか今思うとかなり質問攻めしちゃってたけど、爆豪くんはぶっきらぼうに答えてくれていた。
日直の仕事をしてていつもより少し遅く駅に着いて電車に乗り込むとちょうど帰宅ラッシュの始まりで電車は満員だった。
うぅ…ラッシュ久しぶりすぎて苦しい…。
でも少しだし頑張ろ…。
と思っていたら突然腕を引っ張られた。
いきなりのことでビックリして声も出なかったけど、顔を上げると爆豪くんがすぐそばにいて、私の後ろは今まで人の背中だったのに扉になってた。
あ、爆豪くんが扉の方に 移動させてくれたんだ…。
しかも私が潰されないように私と爆豪くんの間に少しだけ空間を作ってくれてる。
「あ、ありがと…息できなかったぁ」
「ちっこいからな」
「えー、お茶子ちゃんと同じくらいだし普通じゃない?」
「丸顔の身長なんて知るわけねぇわ」
本日何度目かのお礼を伝えてそのまま小声で話す。
あ、爆豪くんって小声での会話出来るんだ…って内心思ってしまったのは内緒にしておこう。
「わ」
しばらくして電車はカーブに入って車両が大きく揺れた。
そのせいで爆豪くんも体勢を崩して私の後ろの扉に両腕を付いて体を支えていた。
要するに今私は爆豪くんの腕の間にすっぽり収まってる状態で。いわゆる壁ドン。
なんとか私との間に隙間を作ってくれてるけど、さっきよりずっと近くて。
目の前には爆豪くんの少し太い首があるし、顔なんてすぐそこでくっつきそう。
爆豪くんの匂いまでする。
だってこれって抱きしめられてるみたいですごく恥ずかしい。
自分の心臓の音が早くなってるのがわかる。
「ごめんね、大丈夫…?」
平常心を精一杯装う。
爆豪くんが腕で耐えてくれてるから私は未だこの満員電車の中でも潰されることなくいれてる。
すごくすごく恥ずかしいけど。
「動けねぇからこのまま我慢しとけ」
「~~~!!」
耳に直接爆豪くんの低い声が響いて肩がビクついてしまった。
息も一緒に耳にかかって一気に体温が上がるのがわかる。
恥ずかしさを誤魔化すように爆豪くんの言葉に何度も頷いた。
目線だけ爆豪くんに向ければ、彼の顔はそっぽを向いていて、この状況にもなにも感じていないようだった。
ドキドキしてるのは私だけなんだなぁ。
慣れてる…とか?
そこからいくつかの駅をすぎて折寺にやっと到着した。
爆豪くんとの距離の近さにドキドキしていつもより乗っている時間が長く感じた。
「腕大丈夫だった?ずっと私が潰されないようにしてくれてたよね」
「ハッ、余裕だわ」
「うん、ありがとう」
「家どっちだ」
「あ、こっち!」
家の方角を指さすと爆豪くんはツカツカ歩き出した。
え、あ、同じ方向なのかな。
「早くしろやァ!!」
「ご、ごめん!爆豪くんもおうちこっちなの?」
「まァな」
実はご近所さんだったりして。
私の家までは駅から歩いて10分くらい。
その間は主に学校での授業や訓練のことを話していた。
やっぱり爆豪くんは器用だし、実力もあるから口は悪いけど納得出来ることも多い。
そういうところは口に出さないだけでいろいろ考える人なんだなぁって思った。
すごくわかりにくいから損しちゃってそうだけど、切島くんも上鳴くんも爆豪くんの良いところわかってるから仲良いんだろうなぁ。
「私のうちここなの」
新築で綺麗な白い外観のアパート。ここが私の今の家。
ちょっと家賃が高いけど、両親から安くて古いところは心配だからと言われて新築にした。
「爆豪くんのおうちはこの近く?」
「ん」
「そっか。今日はいろいろありがとう。初めて爆豪くんとたくさん話せて嬉しかったよ!」
「そうかよ」
「また明日学校で」と挨拶をして爆豪くんを見送ろうとすると「さっさと家ん中入れや!」と怒鳴られてしまった。
送ってもらってさっさと入るのも…と思ったのでとりあえず家の鍵を開けて入るフリをしてこっそり爆豪くんの後ろ姿を見た。
「え…なんでそっち…」
爆豪くんの背中は今まで2人で歩いて来た道を引き返していた。
それって自分のおうち過ぎてるのに送ってくれた…ってこと?
「爆豪くんって、優しいんだね」
爆豪勝己という人はすごく器用なのに、すごく不器用な人だった。
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