諸三
どうかいつも笑っていて。
諸星は強豪校のキャプテンを務めていただけあって、同期や後輩への配慮は完璧だった。感情的になることはなく、喜怒哀楽でいうところの哀と怒はどこへやったのかと思うくらい出てこなかった。先輩への対応もお手のもので、そこに一寸、一分の隙はない。
笑顔が似合いのとなりの一等星。どうしてお前は俺なんだ。三井は対峙する諸星を見つめた。全く対極にいる自分はあまりに子供で不釣り合いだというのに、この男はいくらでも愛を囁くのだ。
「三井、持ち過ぎだ!」
チームメイトの声に我に返る。なにやってんだ、練習中だぞ。自分を叱責する間も無く、囲まれ、なんとか味方のPGにボールを返す。諸星が何か言いたげにこちらを見たが、すぐにその意識はゲームに向いた。三井はひとつ息をつくと額を流れる汗を拭ってコートを見渡し、走り出した。
「なんか変だった。」
漠然とした諸星の指摘に、三井は目を見開き、すぐに視線を落とす。
「そんなことねーよ。」
「うそだ、散漫だったよ。集中してる感じしなかった。」
「そういう日もあるだろ。」
「ダメだろそれは。怪我するから危ねえよ。」
少し不機嫌そうな諸星の表情に、三井は安堵した。年相応の彼の一面を垣間見ると不安が払拭されていくようだった。
諸星の哀と怒の表情を見てみたい。彼は哀しいときどんな声で泣くのだろう。怒るとき、どんな声で叫ぶのだろう。
「またなんか考えてる。」
「晩メシのことだよ。」
「本当かなぁ。」
ああ、また笑った。三井は諸星の表情を眩しく眺め、目を細める。
「三井のその顔、好きだな。」
不意に口付ける諸星に三井は何度も目を瞬かせた。やがてみるみるうちにあかく染まっていく。
「な、な、なにしやがる!」
「三井の笑顔が好きだと思ったからキスした。」
「お前はそういうことさらっと…!」
「怒んなよなー。いいだろ別に。」
照れんなよ、と揶揄の色を浮かべて口角を上げる諸星に、三井は、うるせえ、とだけ返して鼻を鳴らす。いつか泣かせてやる、そんなことを考えてみたが良い方法が思いつくわけもなく。
「…俺だけのお前でいろよ。」
小さく呟いた三井の言葉に、諸星は瞠目し、手の甲で口元をおさえ、視線を逸らす。
「…ばか、流石に照れる。」
外じゃなきゃ大変なことになっていた。諸星は目を閉じて息を吐き出す。時々三井は怖い言葉を放つ。こちらの理性を突き破ろうとせんばかりの強烈な一撃を。
俺だけのお前でいて。
同じことを思っているよ、そう口に出したらいよいよ大変なことになってしまいそうだ。せめて、せめて家までもってくれ、俺の理性。諸星は自身を諫めるように咳払いをする。
「帰ろ。いつまでもこんなとこにいちゃ風邪を引く。」
諸星の声に三井は、おう、と小さく頷いて歩き出す。
お前のことをいとしい、いとしい、とさけぶこの胸のざわめきが、愛かもしれない。
やっと憶えたよ。
となりの星にねがいを
明日も明後日もその次も
お前のとなりが俺だといい。
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・となりの一等星
・やっと憶えたよ
・ボクだけのキミでいて
(※俺だけのお前でいて、に言い換えています。)