海南
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静かな夏になる、予定だった。
「…あれ、武藤じゃん。」
職員室の前、廊下の壁に体を預け、窓の外を眺めるクラスメイトがいた。インターハイは準優勝という輝かしい結果を残したバスケ部は、冬にもある大会のために残ってる部員もいるとかなんとか。よく、知らないけど。
「おう、徳重。どうしたんだ、こんな休みに。」
「そりゃこっちの台詞なんだけど。」
「小論対策の補習出てないから、その分の課題取りに来いって言われて。」
「おつかれ。」
「サンキュ。徳重は。」
「私も。」
「苦労するな。」
「でもこれやっとかないと余計に苦労するしね。」
「確かに。」
「ところで、なんでここで待ってるの?中入らないの?」
「待てって言われたから待ってんの。」
「あ、そう。」
窓一つ分空けて、同じように壁に体を預ける。窓の外は中庭で、大して面白い光景は見られない。廊下も静かで、職員室の中の大人たちの声や物音が扉越しにぼんやりと聞こえるくらいで、蝉の鳴き声の方がよっぽどうるさい。
退屈なので空でも見ようと顔をあげたら、武藤と目が合う。
「どう、部活のない夏は。」
「暇、…と言いたいけど、部活がなきゃないでそれなりに過ぎていくものだね。」
「あっはは、わかる。」
「でも、どう過ごしたらいいかは、よくわからない。」
「それもわかるな。」
「驚くくらい部活しかやってなかったよね。」
「本当になー。」
少し間が空いて、武藤が息をついた。どうしたの、と首を傾げると、少し下を向いて後ろ頭をかきながら、あのさ、とこちらを見る。
「このまま、高校の夏終わらすのもったいなくね?」
言わんとする意味がよくわからず、額面通りその言葉を脳で反芻させると思わずふきだしてしまう。
「なにそれ、キザだよ。」
「おいこら、俺は本気でいってんだぞ。」
「意味わかんないって。」
「……どっか遊びに行かね?二人で。」
私がその言葉に固まっていると、職員室のドアが開く。現国の担当教員が姿を現したので武藤と私は姿勢を正して挨拶をし、課題を受け取る。武藤のその横顔からは、何も窺えない。
言葉の真意を教えて欲しい。ねえ、どういうつもりで言ってるの。
蝉より心臓が、うるさい。
蝉時雨
高校最後の夏が、ふたたびはじまる。