翔陽
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「お、なに、サボり?」
昼休みが終わる頃、体育館裏の階段に座ってぼんやり遠くを眺めるクラスメイトに声を掛ける。徳重はこちらを見上げると、んーまあね、と答えてまた視線を戻した。
「永野くんはさ、まだ部活やってるんだよね。」
徳重の視線の先には、外のバレーコートで遊ぶ生徒。時間も時間なので片付けて引き上げるところだ。
「おー、まあな。隣いいか。」
「うん、いいよ。」
隣に座ると、肘が当たる。近過ぎた、やべ。
「悪い。」
「あはは、気にしないで。付き合い良いよね、バスケ部。ウィンターカップ目指してるんだっけ。」
「そーそ、…次こそはあの場所に立つんだ。」
空になったバレーコートは、なんとなく物寂しい。
「…藤真くんって、バスケに関しては本当に苦い青春送ってるよね。」
「あー…よく知ってんな。」
「…まあね。」
なんとなくピンと来た。
なんだ、そういうことか。
「あのな徳重、付き合いじゃなくて、俺は俺がしたいからしてんだよ。」
「え?」
「まだあいつらとバスケしてえ。」
「…へえ。」
徳重は自分の膝に頬杖をついてこちらを見上げてくる。なんだよその笑顔、可愛いよ。あーあ、なんで藤真なんだよ、ったく。
「あいつらとまたコートに立ちたいんだ。たった一度の人生、あのメンバーに出会えたのは俺最大のラッキーだと思うぜ。」
「かっこいい。」
「バーカ、茶化すなよ。」
「でも受験大丈夫?」
「こう見えて…余裕ねえぜ。」
「見たまんま、ね。」
くすくすと笑う。
いいや、今この時間だけでもこの笑顔が俺に向いていれば。
「徳重は?進路どうすんの、新体操続けんの?」
「よく知ってるね。」
「全国レベルが何言ってんだよ。」
「んー…私は専門行くから。」
「は?もったいねえ、体操のおねえさんにでもなるのかと思った。お前可愛いし。」
「… もう、何言ってるの。」
苦笑いしながら溜息をつく。しまった、本音が出た!きもい奴じゃん俺…。
「私ね、美容師になりたいの。小さい頃からの夢。翔陽に来たのはたまたま。新体操だって続けるつもりなかった。」
「おー、受け取りようによっては嫌味だぞ。」
「いいよ、なんとでも言って。授業料免除してくれるって言うから来ただけ。」
「はは、ぶっちゃけるじゃん。」
「私の人生だもん、私のしたいようにするの。」
「…そうだな。」
「って、永野くんに感化された。さっきまで大学行くか迷ってたけど、すっきりした。ありがとう。」
「…来た甲斐あったかな、翔陽。」
そう言ってもう一度笑うと、徳重は立ち上がってスカートの埃を払う。俺も慌てて立ち上がる。その…中が、見えそうだったから。
「美容師になったらさ、その角刈りどうにかしてあげるね。」
「はは、頼むわ。」
…え?
待て待て、お前は藤真のことが、
「サボるのやーめた、戻ろっと。」
「なあ、朗報。」
「なに?」
「自習になったらしいぞ。」
「本当に?」
「だから、サボらねえ?」
すると徳重は、あはは、と声を出して笑う。
「尚更戻ろうよ、自習なら寝てればいいし。」
そう言って手招きすると、颯爽と歩き出す。俺はその背中に声を飛ばす。
「… 徳重!さっきの!」
「んー?」
「美容師になったらってやつ!俺期待していいのか!」
「いいんじゃないかなー?」
振り返って困ったように笑うと、また背を向けて歩き出した。
俺は見えないようにガッツポーズだ。
嬉しい誤算に、乾杯!
(悪いな高野、俺はどうもいい感じだ。)
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SDワンライ
『ウインターカップ〜あの場所に立ちたくて』
投稿作品