翔陽
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「なー徳重、世界史の教科書貸して。」
廊下の窓から藤真が顔を出し、すまん、と依紗に向かって片手を顔の前に立てる。
「いーけど…昼休み挟んで次の授業で使うから絶対返してよ。」
「了解!ありがとな!」
「変なラクガキもしないでよ!」
早足で去って行く背中に依紗は声をぶつける。わーったよ!とにやにや振り返る藤真の姿に頭を抱える。
「…どうした。」
席に戻って来た長谷川が依紗に声を掛ける。依紗は振り返り、もう、と溜息をつく。
「ハッセが後一歩早く戻って来てたらフジケンに教科書貸さなくて済んだのに。」
「藤真?」
「世界史の教科書貸してって。前にあいつに貸したらチンギスハンに眼鏡描いて、花形ハーン、よ?ネーミングセンス悪すぎなクセに眼鏡だけはすごくうまいんだから。」
「…なんだそれ。」
「わざわざ付箋までつけてくるんだから。もー!」
(藤真…大丈夫か。疲れているのか。)
長谷川はやや心配そうに空を見つめたが、チャイムの音に我に返る。依紗もその音に慌てて授業の準備をしていた。
昼休みに、クラスメイトと盛り上がる依紗を、昼食を済ませて席に戻ってきた長谷川は横目で見遣る。
「フジケンはイケメンだけどねー。」
「花形は?」
「うーん、まあ、どちらかというと花形派かなぁ。」
(元気良いなぁ…。)
やがて、予鈴の音に散っていく女子たちに手を振り、授業の準備を始めた依紗が、げっ、と声を上げる。
「ハッセ、ごめん、教科書見せて。」
「別に良いけど、どうした。」
「フジケン、返しに来なかった。」
「…そうか、それは災難だな。」
そう言って机を並べると、長谷川は首を傾げる。
「徳重は藤真より花形なのか?」
「え?あー、花形派とかの話?正直誰ってないんだけど。」
そこまで言うと、依紗はくすくすと笑い出す。
「フジケンはさ、単体だとフツーのイケメンじゃん?でも、あんたたちバスケ部に囲まれると急に小さく見えてなんか可愛いよね。だからバスケ部スタメンはセット売りっていうかさ。あはは、単体にはあんま興味ない。」
(…失礼な話だな。)
しかしそんなことを思いながらも、無邪気に笑う依紗を見て長谷川も微笑む。
(徳重のこの表情、…好きだな。)
本鈴が鳴り、授業が始まると、依紗の様子に長谷川は首を捻る。
「徳重、お前左利きだろ。」
「え?あ、うん。ハッセと肘当たるでしょ。私は慣れてるけど、悪いじゃん。別に右でも書けるから。」
「気にならない。普通にしてろ。」
「…ありがと。」
「当たっても、いちいち謝らなくていいから。」
「ん、さんきゅ。」
時折肘がぶつかる感触に、長谷川は口元を緩めた。依紗がノートの端に何かメモを書き、それを見せてくる。それに返事をするように長谷川もメモを書いた。やがて船を漕ぎ始めた依紗を長谷川が軽く小突いて起こすなどしているうちに、世界史の時間が過ぎていった。
「……ハッセ、生物寝てたっしょ。」
「……ああ。」
生物の後半辺りから記憶がない長谷川は依紗に、どんな話だった?と険しい顔で尋ねる。
「眠そう〜。はは、ノート貸したげるから、明日返して。今度の期末で出るらしいからちゃんとやっときなよ。」
「助かる、ありがとう徳重。」
「…ん、いーよ、全然。」
冬の選抜に向けた練習が終わり、荷物を片付けていたところで、ふと依紗のノートが目にとまる。長谷川は何気なくそのノートを手に取ると、付箋が貼ってあることに気付いた。
(わざわざ…。それとも、なにか落書きでもしたのか?)
口元を緩め、そのページを開くと、目を見開き、すぐに閉じる。そして少し慌てて鞄にしまう。 部員たちは誰もその様子に気が付いていない。
(…嘘だろ。)
【私はどちらでもなく、長谷川が好き。】
長谷川は口を手で覆って深呼吸する。
(徳重、俺は、…俺も、)
Read me!
(花形ぁ、俺さ、一志が徳重と手を繋いで歩いているのをみたんだよ。)
(それがどうした。)
(いいよなー。俺も青春してえ。)