翔陽
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夏の大会が終わり、多くの同級生が部活動を引退していった。私は元々どこにも所属していなかったのであまり関係はなく、淡々と補習に出席し、終われば完全下校時刻まで図書室に居座った。
毎日変わらないスケジュールに辟易しているところはあった。なんのために勉強しているのかわからなくなる。
遠くで唸る雷と窓を叩く雨の音に目が覚めた。今日は図書室が蔵書確認だかなんだかで使用できず、空き教室で過ごしていたがすっかり居眠りをしていたようだった。
「跡、ついてる。」
いつの間にか前の席に座っていた花形くんが、自身の頬を指さしておかしそうに笑った。反対の手には私が使っている参考書。
「……どうして花形くんが居るの。」
「さてね。それより、帰らなくていいのか。」
「え、今何時?」
慌てて腕時計を確認する。いつから寝てしまったのだろう、すっかり無駄にしてしまったじゃないか。そんな後悔にうちひしがれながら、ためいきをひとつ。
「だめだな…。」
「なんだよそれ。」
知らず口にした言葉に花形くんが反応した。無意識に出たものだったので彼の声に驚いてしまった。思わず素っ頓狂な声があがる。
「え?」
「え、って…。だめって、何が?」
「出てた?」
「出てた。」
同じ特別進学クラスに籍を置き、対照的に部活動にいそしみ、勉強もどちらも妥協しない彼は私をざわつかせる存在でしかなかった。要領がいいんだろうな、地頭がよくてうらやましい。しなくてもいい羨望と嫉妬がうずまく。
こちらはただでさえ自分の現在地も目的地がわからないでいるのに、一方で彼は全部わかっているんだ。…なんて、そんなの憶測でしかないけれど。
「は、はあ!?待て、待てよ。何を泣いて…」
「え、あ、」
「なんだ、雷が怖かったのか?それとも雨?こんなの通り雨だろ、すぐに…」
「待ってよ…そんなわけない…。」
てんで違う方向に焦る大男に思わずふきだした。おかしいな、ついちょっと前まで彼に対してどす黒い感情を抱いていたのに。
「ごめん、少したまってて。」
「そうか…。ああ悪い、これ返す。この参考書、分かりやすかった。」
「そう?使ってみる?明日返してくれるなら。」
「明日…は図書室にいるんだな。」
「え?うん。」
「今日は見えなかったから。」
「見えなかった?」
「走ってる時、図書室にいるのを見てた。頑張ってる姿に奮い立たされる。」
少し俯いて、目だけでこちらを見た。やや間を置いて口角を上げる。
「お前の頑張りが俺を現実に繋ぎ止めてるんだよ。」
いつもの所にいなくて探した。しりすぼみなその言葉に頬が熱くなる。まるで真反対の感情を抱いていたはずなのに。
ああそうか。
それほどまでに強く意識していたことには変わりないんだ。
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