翔陽
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君となら、笑顔が溢れる。
「ねえ高野、凝ったラテアートのお店知らない?」
「それなら、」
同期の高野はカフェに詳しい。あと創作料理のお店とか、ベーカリーとか。友人と出掛けるのにいいお店を探したければ高野に質問すると毎回満足してもらえる印象だ。
しかしなぜそんなに詳しいのかわからない。甘いものが好きなのかと聞いたら、好きは好きだけどコンビニスイーツで満足しているらしいし(そこも詳しい)、デートに使うのか聞いてみたらそこには触れるな、とのことだ。お察しである。
「高野はさぁ、なぜか美味しいラーメン屋知ってるイメージ。」
「なんだそれ。」
「バスケしてたんでしょ?帰りにチームメイトとラーメン!とか。」
「行く時もあったけどこだわりないわー。」
「なんで急にそうなるの。」
「俺はモテたい一心なんだよ。」
「ごめん一気に引いた。」
「男なんてみんなそんなもんだろ!?」
「簡単に括らないでよ。」
なんとなく合点がいった。なるほど、女子うけの良いお店や話題にアンテナ張ってるわけか。けどそれ正直に言っちゃうのなんでだろう。
「ああでも、美味いラーメン屋もちゃんと知ってるぜ。」
「突然得意げにされましても。」
「定食屋もリサーチ済み。」
「モテたいもんね。」
「これからメシ行く?」
「口説く相手が違うでしょ。」
ここまであけすけにされてしまうと笑ってしまう。女の子にモテたいからやってるのに、全てをネタバラシした私を誘うなんて暇人にもほどがあるよ。
「口説いてねーよ。」
「こりゃ失礼しました。」
「でも実際どう?腹減ってない?」
「へってるよ。」
「ならいこーぜ。」
「まあ……いいか。」
駅に向かっていたが一本中の道へ。高野先生イチオシの定食屋があるとか。
少し歩くと間口の狭い入り口が見えて来る。高野は少し屈んでそこをくぐった。それについて中に入り、案内されるまま席へ。メニューのページを繰りつつ、店内を眺め見た。
「趣あるだろ。」
「高野の口から出て来るワードとは思えないや。」
「失礼だな。」
「あははは。」
腹を満たすために入ったので、目に留まった定食を選んで店員さんに頼む。同様に高野も注文を終えると、やや不思議そうにこちらを見ていた。
「なに?」
「迷いがないなと。」
「コロッケが美味しそうに見えたから。」
「一目惚れ信じるタイプ?」
「そうかも。彼氏は大体失敗するけど。」
「だはははは!」
笑いすぎじゃなかろうか、失礼な。モテたい暇人高野先生はひとしきり笑うと一つ息をつく。
「おもしれー。」
「はいはいどうも。」
「そういうとこ好きだわー。」
「嬉しくないわー。」
「うわ、ふられた。」
「は?」
その場の気温が体感5度下がった。なに、今の告白だった?いわゆる「ラブでなくライクな好き」なんだよね?おいこら高野コノヤロー、どういう意味だ。
「待て待て待て、高野、どこまで本気なのかわからないから困るよ。」
「俺も勢いで言っちまって今すげー居心地わるい。」
「嘘でしょ!?どうするのよこの空気!換気してよ!モテたいんでしょ!?」
「換気してなんとかなる空気じゃねーよ!」
高野はテーブルに頬杖をつくと、ばつが悪そうに窓の方へ目をやった。すりガラスなので外が見えるわけではないけれど。
「……あのさ。もっとあるでしょ、2人で出かけるとかそういう、段階踏むアレ。」
「段階踏んでる間に避けられたら嫌じゃん、察し良さそうだし。」
「察しがいいかどうかわからないけど。……高野だし。」
「失礼だな。知ってたけど。」
沈黙が流れる。心臓の音が外に聞こえそうなくらいばくばくしていた。まさか私のことそんな風に見てるなんて思わないし!気が合うとは思ってたけどそういうのじゃないと思ってたし!だって同期のあの子が可愛いとか、後輩のどの子が気になるとか言ってたじゃん!
窓の方を見ていた高野はこちらに目をやるが、その視線をすぐにテーブルに落とす。
「で、俺ふられたわけ?」
「え、や、」
「いやいや!変なフォローはやめてくれ!余計に傷が深くなる!」
「待って待って!言葉が見つからなくて!」
「こええええ!」
「なんでふられる前提なの!」
けたたましいリアクションに思わず大きな声を出すと高野は、え、と動きを止めてこちらを見た。今度は私が視線をテーブルに落とす。
「いやだ、なんて言ってないじゃん……。」
「それって、」
「お待たせしましたー!」
威勢の良い声が私たちを横切った。千切りのキャベツと揚げたてのコロッケが乗った定食が目の前に運ばれてきたのだ。高野はアジフライか、センスいいな。じゃないよ。
「ごゆっくりどうぞ!」
「ありがとうございました……。」
あんなに食べたかったコロッケが食べる前から重くのしかかって来る。お刺身にすればよかった。
「食う前に、」
高野は背筋を伸ばしてこちらを見ていた。顔が赤いのは電球色の照明のせいではないみたい。
「好きです。俺と、付き合って下さい。」
唇が震えているのがわかる。すごく緊張してるのも伝わって来る。茶化しちゃいけない、きちんと応じないと失礼だ。
「……よろしくお願いします。」
そこで盛大に腹の虫が鳴いた。そのコロッケを早く食わせてくれと主張する。なによ、胃もたれしかかってたくせに台無しにしやがって!
「そういうとこ好きだわー。」
そう言って彼はわり箸を割った。そのひどい割れっぷりに2人でふきだす。なんかいいよ、こういうの。安心する。
スマイルファクトリー
そういうところが多分好き。