翔陽
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これはふたりの秘密だ。
「お前いつから野球に目覚めたの。」
放課後、教室に残って雑誌をめくる幼馴染の姿を見かけて立ち寄った。手元をのぞきこめば野球の月刊誌。そいつは、顔を上げるとこちらを睨んだ。
「なんでいるのよ。」
「定期考査で部活が休みなのでのんびりしてマシタ。なにそれ。」
「あんたには関係ないでしょ。」
「そうなんだけど。」
「!」
「は?」
雑誌を閉じ、それを腕で隠した。廊下側の窓から顔ごと逸らしたその頬は赤い。わいわいと歩いて行ったのは、
「……ああいうのがいいんだ。」
「うるさいな。」
「へぇ〜、ふ〜ん…センターだっけ。」
「うるさいってば。」
どこがいいの、と尋ねれば、坊主が似合うところ、などとふざけた回答が返って来た。わかってる、去年あいつともこいつとも同じクラスだったしその時すごく仲良さそうにしていた。気が合うんだろ。知ってるよ。
「甲子園連れてって、とか言うの?」
「なんでそうなるの…」
「そういうキャラじゃねーか。夏はもう終わったし。」
「もう!」
そう言って雑誌を再度開いた。グラブの特集だ。プレゼントでもすんのか?やめとけやめとけ、そういうのは自分で具合いいの探すんだよ。
「ファーストミットってなに?」
「は?」
「初めて使うミット?」
「……なんでそうなるんだ?」
「ファーストキスとかファーストバイトとか、そういうのと同じかと。」
思わずふきだした。こいつは一塁をファーストって呼ぶことすら知らないのか。言うに事欠いてファーストキスだのファーストバイトだの…
「結婚願望?」
「そんなんじゃない。」
「気が早いぞー。」
「だから!」
むきになって否定するところに本気を感じた。それに腹が立った。だから顔を上げたところに唇を押し当ててやった。
「……なに、これ」
「黙っといてほしい?」
突然のことに頭がついていかなかったけど、キスをされたのはわかった。脈絡なんてない、意味がわからない。ゆるくカーブを描いたその口角に腹が立った。
襟を掴んで引き寄せて唇をこじあける。驚いて引っ込んだ舌を追いかけたところであいつの大きな手が後頭部を固定した。
ちがう、そんなつもりじゃない。ほんのいたずら心が火をつけてしまったことに慌てる。
「…は、離してよ!!」
「ああ?乗っかってきたのそっちだろ、責任持てよ。」
「だって私が好きなのは、」
「もういいって。」
黙っといて欲しい?の質問はもちろんイエスだ。しかし答える隙も与えられず、施されるまま応じることしかできない。
もうどうだっていい。ファーストミットも、6-4-3もわからないままでいい。
あんたの気持ちが知りたいよ、健司。
unfair
でもきっと教えてくれない。
だったら私の気持ちも言わない。
そうじゃなきゃフェアじゃない。
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