湘北
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「依紗、それロン。」
「え?」
ため息とともに捨てた東。洋平の声に顔を上げると私の鼻先に突きつけられた人差し指。それはするすると牌に落ちていき、トントン、と突かれる。
「三暗刻対々和、ドラもかぁ、親は俺で…」
「待って待って待って。」
大楠と野間がにやにやしてこちらを見る。さいあく。
「箱点じゃん、どーすんだよ!」
大楠が爆笑する。笑うな!大爆死だよ!
「はいはい、いーよ、遊びなんだし。」
「甘いな洋平はー。」
洋平はそう言って山を崩してしまう。それに倣って野間も崩し始めた。安堵して私も山を崩すと洋平がその手を止めてこちらを見る。
「でも…そうだなぁ、」
「デート1回でチャラにすっか。」
「は?」
大楠と野間は、お、と楽しげに私と洋平を交互に見る。花道と高宮はテレビに夢中で気付かない。
「明日、11時駅前。」
「ちょっと、」
「あ、起きれねぇ?じゃあ今夜このまま俺ん家かな?」
どうする?と口角の片っぽを上げる。これじゃ麻雀どころじゃない!
「というわけだ、お前ら帰れ帰れ。」
「へいへい、わーったよ。片付けしねーぞ。」
「構わねーよ。」
大楠はにやにやしながら立ち上がり、花道と高宮の後ろ頭をはたくと、帰るぞー、と引きずるように玄関の方へ促す。
「ハバナイスクリスマス。」
野間は片手を上げると玄関のドアを開け、抗議する花道と高宮を引きずり出す。乱暴じゃない?ていうか、本当に帰るの!?
「依紗。」
ドアが閉まるのと同じくらいに洋平の声が私を呼んだ。そちらを見ると、手が伸びて来たので思わず首を竦めた。
「…なにしてんの?」
その手はそのまま私の後ろの棚に伸びて、ジャン牌のケースを取り出した。いや、笑ってるからわざとだ。わざと狙って手を伸ばして来た!このやろう!
「期待した?」
「そんなんじゃ、」
「なーんだ、残念。」
くつくつと笑いながら洋平は牌を片付け始めた。私もそれを手伝う。じゃらじゃらと牌同士がぶつかり合う音が、静かな部屋にやけに響いた。
「…でさ。」
「なに。」
「なんでここに残ったの。」
「…え。」
洋平が上目遣いでこちらを見ていた。その問い掛けに、すぐに返事が出来なかった。
「俺、期待していいの。」
牌を集めていた私の手に、洋平の手が重なる。冷たくて驚いた。緊張してるの?
「…いいんじゃない。」
恥ずかしくて洋平の顔が見れなかった。きっと私の顔は赤い。だってこんなに熱いんだもの。
「…片付けたら、コンビニにケーキ買いにいこ。」
「なんで?」
「クリスマスっぽいこと、しよ。」
そう言って手が離れていった。いくらか温かくなっていたその手が離れるのが名残惜しい、なんて恥ずかしくて言えないけど、心の中では思っておく。
「…もう少し握ってれば良かった。」
「えっ?」
「依紗の手があったかかったから。」
ケースに牌を収めると、先程と同じように、私の後ろの棚に片付ける。縮まった距離に私が緊張したのがわかったのか、洋平は、ふ、と笑ってその手を私の頬に滑らせる。
「…後でな。」
そう言って立ち上がるとコートを羽織る。私も慌てて立ち上がり、コートに袖を通した。
「サンタクロース来ちまうよ。」
「大変、早くケーキ買ってお供えしないと。」
「…お前、サンタをなんだと思ってんの?」
洋平はそう言って笑うと、私の手に指を絡める。
「行こう。」
「うん。」
ケーキを食べたら、ちゃんと言うね。
本当はずっと好きでした、って。
我ながら殊勝なことを思いながら外に出る。寒いね、なんて笑い合えば恋人同士みたいな甘い雰囲気。
だけど次の瞬間、私のくしゃみがそれをぶったぎったのは言うまでもない。
捨てる神に拾う神
(聖なる夜のジャン牌の奇跡、なんてね。)
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クリスマスイブに間に合わなかった…。