湘北
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ボールを突く音が聞こえる。
今日もやってる。
ゴールを見つめる瞳がとても綺麗だった。
なにより、すごく楽しそうに見えた。
表情にはあまり出てないけど、なんとなく。
シュートが外れた。
こちらにボールが転がってくる。
「おつかれ。」
彼は私に気が付いたけど、視線をくれただけで何も言わなかった。
私は、買ったポカリを投げた。
彼は少し驚いてそれをキャッチする。
その隙に、拾ったボールを突いて彼の脇を駆け抜ける。そのままゴールに向かって一直線。
「よっ。」
レイアップシュートを決めると、地面で弾んだボールを拾いに行く。
彼は何も言わず、ポカリを手にこちらを見ていた。
「毒入ってないと思うから、よかったら飲んで。」
「アンタ、誰。」
至極もっともな台詞だ。
私はボールを持って彼の方に近付く。
「バスケを好きなだけの女子高生だよ。」
そう言って、ボールを少し弄ぶ。
「もう少し借りてもいい?」
「いーけど…。」
「あ、名前ね、私は依紗。」
君は?と聞けば、流川楓、とフルネームで返してくれた。
「楓、ね。ありがと楓!じゃあ少し借りるね。」
しばらくすると、楓がこちらに近付いてくる。ポカリ飲み終わったのかな。開封された缶がベンチに置かれている。
「わ、」
徐に近付いてきたかと思ったら、急にボールに手を伸ばして来た。このやろう。
「ち…。」
「結構本気だったでしょ。もー、絶対渡さないから!」
「俺のだろそれ。」
そう言って1on1が始まった。
手加減してくれてるんだろうとはおもう。
でも、結局は容易く奪われてしまう。
「あーあ、取られちゃった。」
「バスケ、やってるのか。」
「んーん、やめちゃった。」
「なんで。」
「さてね。」
怪訝な顔をする楓を見上げ、ボールありがと、と笑顔でお礼を言う。
楽しかった。
じゃあね、と手を振って背を向ける。
なぜだか涙が、こぼれそうだった。
「依紗。」
呼び止められた。
「明日も会えるか。」
その言葉に、振り返る。
表情は何も変わらないからどういう気持ちなのか汲み取れなかったけど、
だけど。
「…会いたい。」
「明日も会いたい。」
毎日、この公園でバスケをしているのを見ていた。
ただそれだけのことだった。
見てくれがいいだけでなくて。
バスケへの情熱に、心が惹かれた。
「なんで泣く。」
「一緒にバスケできて嬉しかったから。」
「なんでやめた。」
「…怪我、しちゃったから。」
言うつもりなんてなかったのに。
そんな真剣な目で見られたら、誤魔化せないよ。
「ね、楓、指切りしよう。」
「明日また来るから、会おうよ。」
楓は何も言わなかったけど、
黙って小指を差し出してくれた。
小指を絡めて指切りをする。
やがてその指を解こうとした時、楓がこちらを覗き込むように屈んだ。
どうしたの、と首を傾げた時、唇が重なった。
「…どうして?」
「わからない。でも。」
「お前のこと、好きだと思った。」
ふしぎなあのこはすてきなこのこ
明日もきっと 会いたいな
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こちらから一部引用しています。
『ふしぎなあのこはすてきなこのこ』
(おかあさんといっしょソングコレクション)