湘北
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空が割れるような、耳障りな轟音が鳴った。デスクの照明が瞬きをする。すでにフロアの電気が消えていてただでさえ心細い雰囲気なのにやめてほしい。
「くそったれ、このタイミングで降ってくるなよ…!」
終業後の薄暗いフロアに、似つかわしくないけたたましい革靴の足音が響いた。顔を上げると、フロアの入口で後輩の三井くんがびしょ濡れのまま悪態をついている。
ホワイトボードを見れば出張と直帰。直帰とは、社に戻らず直接帰宅、と私は認識しているのだけど。
「あ、お疲れ様っす。え?まだやってんすか。」
「もうそろそろ終わるけど…。」
「そこ自分の担当の取引先ですよね。発注書来たんすか?やっておくんで帰って下さいよ。」
「大した量じゃ、」
もう一度、先ほどよりも凄まじい音が響き渡った。思わず耳を塞ぐ。直前まで握りしめていたマウスが宙を舞って床に転がった。
音が大きかったのと、驚いたのと、怖いのと、耳を塞いでしまったせいで、すぐに気がつかなかった。プラスチックが弾む音が遠くに聞こえた気がする。
「落ちまし、た…」
すごくみっともない顔をしていたんだと思う。床に転がったマウスを拾ってくれた三井くんは目を見開いたまま動かない。
「あ、ありがと…。」
ようやっと絞り出した声があまりに情けなくて笑えてしまった。やだな、こんなところ見せちゃうなんて。
「…いい歳して雷が怖いなんて笑っちゃうでしょ。」
私はあざけるように笑って彼の手からマウスを受け取り、動作を確認する。本体が割れている様子もないし、機能自体も問題なさそうだ。
「や………別にいいんじゃないんすか、怖いもののひとつやふたつ……。」
薄暗いフロアに閃光がまたひとつ。ふたつの影が一瞬重なる。雨に濡れたのと空調のせいなのか、唇にはひんやりとした感触が残った。
「……人間味あって結構好きだなって。」
雷の音が、少し遠くなったような気がした。