湘北
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昼過ぎから降り出した雨は夕方もあいかわらず降り続いていた。そりゃそうだ、そういう天気予報だったもの。
「この不届きものが……っ!」
ありふれたビニール傘に、他のものと見分けを付けるために豹柄のマスキングテープを柄に巻いておいた。どうしてそんなマステを買ったのかは正直わからない。わからないけれど、これなら持っていく人はいないだろうと思った。ふてえ野郎だ、よくもこちらの思惑を打ち砕きやがって。忽然と姿を消したのだ、その、言っちゃなんだが、センスがイマイチなその傘が。
「最悪…どうすんのよ…。」
雨脚はいつまでも強く、駅まで走り抜ける勇気はない。その後電車に乗ることを考えたら無茶だ。がっくりと肩を落として雨を眺める。
すると後ろから男子の声が聞こえた。振り返ると、やたら目立つ集団が。そのうちの一人は同じクラスで、私の姿を認めると首を傾げて近寄ってくる。
「徳重、どしたの。」
「傘パチられた。」
「うっそ、気の毒。」
大楠いくぞ、と声を掛けられていたが、彼は少し考えるとそちらに返事をする。
「わり、俺急用。」
「なんだ、じゃあな。」
あっさりと他の三人は去っていく。ただ一人、水戸くんとか言ったっけ、彼だけは振り返って意味ありげに微笑んで去っていった。なんだ、なんなんだそれは。
「一緒に帰ろ。駅までだけど。」
「…は。」
目を瞬かせる私をよそに、大楠は靴を履き替える。傘立てから自分の傘を手に取ると、帰らねえの、と首を傾げた。
「でも、いいの?友達…。」
「いいって、女の子送る方がよっぽど大事。」
げらげらと笑うと、早く行こーぜ、と催促するので、慌ててついていく。ばさ、と大きな傘が開いた。大きいとは言っても二人で入れば手狭だ。ちらりと見上げれば大楠の肩が濡れている。
「濡れてるよ、私のことはいいからちゃんと」
「ファミレスで雨宿り。」
「え、は?」
「決定。はい、ゴー!」
「ちょっと!」
「ほら、走れ走れ!」
「ひどいよ、濡れるじゃん!」
やや強引な大楠に驚いて非難めいた声をあげたが、悪い気はしなかった。むしろ楽しかった。喧嘩っ早いし、頭派手だけど友達思いのいい奴だし、話してみれば楽しいことも知っている。だからその提案にわくわくしていたんだ。
雨止むといいね。
通された席で外を眺めながら言うと、大楠は、どっちでもいーけど、と笑った。深い意味はないんだ、きっと。それでも私はいい方に受け取っておくことにした。
また同じ傘に入れたら、嬉しい。
雨にうたえば
傘に当たる雨の音と君の話す声が
心地のよい歌のようだったから。
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