【仙道】ハッピーエンドの欠片
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アンタは太陽。
アンタがいるから、私は輝ける。
新入生が入って来た。私たちも先輩となる。寮生ってのは本当に面倒で、縦割のチームみたいなものがある。それと、学年ごとに取り纏めも決められる。これは部活とは別で、寮生の中だけのものだ。去年まで私は女子部長のタテワリに所属していてすごく楽だった。優しかったしね。
ただ、ヒガミの激しい奴等…じゃなくて先輩のタテワリに入ってた子たちは大変そうだったし、ギスギスしていて目も当てられなかった。3つ上はみんな仲良かったけど、2つ上が…なんか、ねえ。
「2年の寮生代表の杉村です。分からないことは聞いて下さい。少しでも心配なことがあれば、言ってくれればいいから。でも少しは頭使いなよ。」
「容子は厳しいなぁ…。」
部室で新入生と話しているところで佐和が茶化しながら笑う。この子は親戚の家から通っている…ことになっていて、通い生扱い。その方がいい、こいつがいると拗れる。し、変な責任負うことないと思う。剣道だけやってな。
「こっちが2年代表の高辻。キレると厄介だから、怒らせないで。」
「どういう意味。」
「脱線するから黙って。」
「…はい。」
くすくすと笑いが起こる。佐和はそちらを見ると、にか、と笑った。そうそう、アンタはそういう役割だから。
「なにかと理不尽だったり、厳しかったりすると思うから、同期同士での争いは避けて。味方でいて。」
私の言葉に佐和はこちらを見る。ふわ、と微笑んだ。なによ…。
「寮生のタテワリとはまた別で部内のタテワリがあるから、それを伝えるね。」
タテワリなんて言ってるけど要は連絡網だ。あとは、稽古外の後輩指導。剣道部としての品性を保つため、外れた行為をしていないかとか。
2年が指導し損ねると同じタテワリの3年にこちらが叱られるし、さらにその3年が4年に叱られる。連帯責任だ。会社かよ。
「明日、ミーティングがあるから。その時連絡先を伝え合うことになるから、ちゃんとわかるようにしておいて。」
「容子、」
「なに。」
「私、この子たちの名前知らないや、聞いてもいい?」
「明日聞けばいいじゃない…。どうせ明日自己紹介させられるんだし。変なプレッシャー与えないの。」
「そういうもん?」
「そういうもん。」
私たちのやりとりに、やはり小さな笑いが起こった。佐和は分かってないだろうけど、こういう所、すごいと思ってる。自分たちが入った時、ただただ張り詰めていただけで疲れたもの。
新入生の入部から1ヶ月、事件は起きた。
「どうなってるの。」
「あ…杉村さん。」
部室に用事があって学生課に鍵を借りに行ったら、誰かが借りたと聞いた。使用者一覧には、新入生の名前。
佐和を待たせているので急いで用事を済ませたかったのだが、この現場に居合わせてしまえばそれもかなわない。
「…同期同士、なにやってんの。」
1年のなかで抜群のセンスと実力を持っている子が居た。佐和のタテワリで、佐和もかなり熱を入れて指導をしている。
そして。
それが気に入らない、同期。
分からなくもない、この1年に対して佐和は少しやり過ぎな所がある。
もちろん他の後輩への指導も熱心で、自分の事まで出来ているのか心配になるくらいだ。もちろんその辺りはソツがなく、剣道に関しては本当に頭がよく回る。
憧れの先輩に気に入られる同期。
それを見せつけられる時の感情を、私も知っている。
「あの…。」
「味方でいてとは言ったけど、それは難しいかも知れないわね。せめて、いがみ合う事はしない方がいい、疲れるから。状況を説明して。」
「すみません。」
「謝れって言ってるわけではないの。何を、していたの」
「ねー容子ー!まだー?」
厄介な奴が入室。頭を抱えた。
「…なにやってんの。」
「高辻さん、えっと、」
「なにやってんだって聞いてんの。全員、そこに直れ!」
これだよ…。
一通り言い分を聞くと佐和の表情はどんどん険しくなる。
「それは私に対する不満だろ!だったら直接言いに来いよ!」
「佐和、」
「なかなか上手くならないからって当たるんじゃねえよ!」
「佐和。」
少し強く名前を呼ぶと、こちらを見た。
「なんだよ。」
「正論は人を追い詰める。みんながみんな、アンタみたいには生きられないのよ。少し黙って。」
言い過ぎたとは思う。でも、佐和はそれを知っていかなきゃいけない。彼女の持ち味を潰すのは私だって嫌だけど、それでは、潰れてしまう子もいる。
いま、まさに目の前の子たちがそう。佐和の理屈じゃ潰れてしまう。分かるよ、羨ましいのよね。私もそうだよ。
佐和が、羨ましいのよ。
時々眩しくて、隣にいるのが苦しくなる時がある。
でも、知ってる。佐和は私を好きでいてくれるから。信じていてくれるから。だから私も佐和が好き。信じてる。苦しくたって、それは私を照らしてくれる光だから。
「こんなみっともないことしないで。きちんと話し合いましょう。私が、聞くから。」
「容子、私も」
「…悪いけど、今回はアンタの出る幕ないの。任せて、必ずなんとかするから。」
「でも」
「ほら、帰った帰った。仙道が待ってるよ。」
「…頼む。」
アンタが私に全てを委ねてくれるその言葉が、私を輝かせる、強くさせる。
ドアがしまったところで、全員の方をみる。
「ゆっくり話をしましょうか。そうね、まずは、私が高辻に対して抱く感情からでいいかしら。」
一緒なのよ、みんな。
「容子ちゃん、かっこいいなぁ〜。」
「…うん。」
電話をかけて来たと思ったら泣きそうな声だったので急いで佐和の家に駆けつける。珍しく、べっこべこにへこんだらしく、俺の手を握ってはなさない。
「私、後輩のこと全然わかってないみたい。」
「そうなの?」
「うん…。」
「話したらすっきりするかもよ。俺、聞くからさ。」
「…。」
ぽつりぽつりと話し始める。彼女の大事な後輩同士が僻みの争いをしているとか。なるほどなんとなくわかった。容子ちゃんの言わんとするところも。
「私は私の正しいと思うことを言ってきたけど、結果的にそれでみんなを追い詰めてしまったのかな。」
「佐和、」
「正しく…なかったのかな。」
「佐和、あのね。みんながみんな正しいことだけを選択していけるほど強くないんだ。」
「…。」
「白か黒かじゃなくて。グレーもあるんだ。間違ってはいないけれど、正しくもない、という部分も知っていくと、もう少し佐和の良さが生きると思う。」
「どういうこと?」
「1対多数の喧嘩は喧嘩ではなくいじめだ、俺もダメだと思う。彼女たちのやり方は間違い、だ。」
「そうだよ。」
「ただ、追いつこうとしても、追いつけないことはある。それは、努力してないわけじゃないだろ。」
「うん、みんな頑張ってる。」
「結果が出る時は、みんなまちまちだ。」
「…ああ、私、酷いこと言った。謝らないと。」
「…そっか。じゃあそれは次会ったらきちんと伝えて。大丈夫、伝わるよ。」
「ありがとう。今気が付けてよかった。彰のお陰だね。」
「ていうか、容子ちゃんのお陰だろ。」
「2人のお陰だよ。やっぱ私には容子が居なきゃダメだな…。」
「…俺は?」
「…まあ、そうなんだけど。」
「はは。容子ちゃんも、きっとそう思ってるよ。」
「うそだあ。容子は自分を持っててすごいよ、かっこいい。」
「…あはは。」
「なんだよ。」
俺も。俺も容子ちゃんと同じ。
佐和が時々すごく眩しいけれど、そのお陰で色んなことが見えるんだ。今まで気がつかなかった、自分の気持ちにも。
容子ちゃんも俺も、どうやら自分で光を発するタイプではない気がする。どちらかというと、月?
「… 佐和、大好き。これからも一緒にいて。遠く離れても、ずっと。」
「当たり前だろ。」
どこにいたって、太陽は皆を照らす。
どこにいたって、君を感じられる。
どこへ行っても、君を想うよ。
今度容子ちゃんに聞いてみようかな。佐和のこと、どう思っているのか。
素直に答えてくれるとは到底思えないけれど。
O sole mio
きみは、太陽。
私を、俺を照らす
強くて優しくて温かい、おひさま。