【南】venez m'aider
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離れている時間が愛を育むとかなんとか。
「出張?」
「うん、災害支援のため、岡山広島愛媛高知…。」
「また範囲広いな。」
「仕方ないね。」
凄まじい豪雨に、その被害は尋常でなくて。被害の調査や復興の支援のために職員はかわるがわる支援にいくことになっていた。
「木曜から…翌金曜まで。」
「なっが。」
「回る範囲広いから。高知遠いんよ…。」
土日を挟むので、実家に少し顔を出してくるつもりだった。大丈夫だとは聞いていたけど水が来ていたことは確かで。ニュースを聞いている間は気が気じゃなかった。電話をしても、大丈夫だけど忙しいから、と取り合ってもらえず、連絡してくんなとまでいわれた。仕事上、どの地域でどんな被害が出ているか聞いている。しばらくは不安で眠ることもままならなかった。
「大丈夫やって。ホンマに忙しいんやろ、信じたらええやん。」
烈くんはそう言って手を握っていてくれた。ソファで膝を抱えて顔を伏せてしまう私の背中をさすってくれて、結局泣いてしまったら黙って抱き締めてくれた。彼に支えられてなんとかやってきた。
当事者でもない私がこうなのだ。現場のことを思うと身につまされる。
「千聡が帰ってくる日、飲み会やから帰り遅なるわ。」
「わかった。」
私が出張から帰ってくる日、烈くんは勤務先の同期と飲みに行くらしい。彼が小さく溜息をついたので首を傾げる。
「ホンマは駅まで千聡迎えに行きたいんやけど。」
「気持ちだけもらっておく。ありがとう。」
微笑み合って眠りにつく。しばらくはホテルで過ごすのか。ひとりで寝るのは久し振りな気がする。
実際は、地域によっては大分復興が進んでいた。実家に関しては被害はそんなになかった。誰一人として欠けていないことがやはり一番。怪我もなく、1階の土間に水は来たけど早めに対策していたから大丈夫だったと母が笑っていた。
帰れば当然近況報告をさせられるわけで。烈くんのことを根掘り葉掘り聞かれてうんざりだった。まだ仕事始まったばかりだから忙しいの、落ち着いたら来たいって言ってるから。そうやって宥めるのが一番疲れた。仕事より疲れた。
「ただいま…。」
重たい体とスーツケースを文字通り引きずって帰宅する。コインランドリーで洗濯していたので、そんなに洗い物はないけれど。烈くんの洗濯物と一緒に取り急ぎ洗濯機を回してしまう。買ってきたもので夕飯を簡単に済ませ、お風呂に入る。久しぶりの自宅、慣れ親しんだ浴室、基礎化粧品。…内緒で買ったスペシャルケアセットで自分を労う。最高、気分良い。
温かいお茶を飲みながら、テレビをつけるでもなくソファに座ってぼんやりとしていた。百聞は一見に如かず、見たもの全部が脳に焼き付いて、少しキャパオーバーだ。疲れたな、と思っている間に眠ってしまった。
「ただいま…。」
千聡の靴がある玄関になんとなく懐かしさを感じた。帰ってきたんやな、と思いながらリビングに入れば。
「…寝とる。」
ソファに体を預けて、寝息を立てる千聡に溜息をつく。無防備なんやアホ、もう少しなんか着てくれ、頼むから。頭を抱えて寝室のタオルケットをかけてやる。身動ぎしたので、起こしたか、と思って少し様子を見ていたが、また寝息を立て始める。
「…おつかれさん。」
前髪の上から額に口付ける。鼻腔をくすぐる甘い香りを振り払うようにさっさと浴室へ向かう。アカン、これはアカン。酔っ払っているからいつも以上に気が緩んでいる。しかも久し振りだ、近寄ったらアカン。今の俺の理性はそうそう信用出来たもんじゃない。
「やめてよ、もう…。」
シャワーの音が聞こえ始めて膝を抱える。タオルケットをかけられた時に目が覚めた。面白半分で寝たふりしていたけど珍しく気付く様子もなくて。アルコールの混ざった呼気がやけに艶っぽくて、どきどきした。ダメ、これはダメ。膝を抱えて悶々としていると、人の気配に顔を上げる。髪が濡れたままの烈くんが下半身にバスタオルを巻いて出て来た。
「…おかえり。」
「ただいま。…おかえり、おつかれさん。」
「ただいま。お疲れ様…え、なんでその格好なの。」
「ぱんつ忘れた…。」
珍しく結構酔っていて、滑舌の甘い言葉に笑みがこぼれる。可愛いな。
何を思ったのか徐にこちらに近づいてくる。え、なに、どうしたの、下着はあっちでしょ。ソファに膝をついてこちらに身を乗り出す。
「…まあ、ええか。」
「なにが!?」
「脱ぐ手間が省ける。」
「あの、烈くん、」
「俺はもう我慢出来へんねん。千聡は。」
「そ、そんな」
「無理矢理は俺かて嫌やわ。早よ言え。」
「俺は千聡が欲しい。限界や。」
言葉にするのも躊躇われ、半ば自棄で首に手を回す。烈くんは息を飲んだが、低く笑い始める。
「ええ度胸しとるわ。」
ソファに組み敷かれ、噛み付くような口付けに翻弄される。まるで応じることが出来ず、熱い舌先が貪るように深く入ってくるのを受け入れることがやっとだった。
「烈くんっ…」
体を押して、苦しいことを伝えようとしても、くく、と喉の奥で笑うだけ。
「ね、え…っ」
「…なんや。」
不機嫌そうにこちらを見下ろす。
「苦しい、もう少しゆっくり、」
「キスでこれか。もたへんで。」
「烈くんのせいじゃ!加減せえ!」
「おお、キレた。」
「もー…可愛くないやん、いやや。」
「可愛い。」
「やめて、」
私が両手で顔を覆うと、その手を退けながら笑った。我ながらとんでもない男の人を愛してしまったと思う。だって、嫌だなんて全く思えないんだもの。悔しい。苦しいけど、それさえ全て愛おしい。
「…もう知らない。」
「それは、俺の好きなようにして良いってことやな。」
妖しく笑う。もういい、どうにでもして。
本当はこの日を待っていたなんて絶対に言わない。ひとりの夜が寂しかったなんて子供みたいで恥ずかしいから。
愛して止まない
求め合う、互いの心を。
お前が、あなたが、もっと欲しい。