【岸本】Courage et fierté
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たまには役に立つ奴やと思った。
高橋が集めた謎の面子の飲み会に麻衣を連れて行った。知った顔の居る飲み会やし、身内の気楽な集まりだから。南はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたし、土屋はめちゃくちゃべたべたしていて腹が立つ。こうなることは予想できたから俺かて出来れば連れて来たくはなかったのだが、今回は目的があった。
「麻衣ちゃん言うん、岸本にはもったいないな。」
高橋はにこにこ、というよりはにやにやして俺と麻衣を交互に眺める。
「理学さんなんや〜したら大変やね、人を治したり癒したりする仕事は自分のエネルギー送るけえ、知らんうちに疲弊するんよ。」
そっちの手を出して、と麻衣の左手を取る。
「んー疲れとるね、よく使ってる証拠。働き者やね。」
「ありがとうございます…。」
「バスケやってたんやね、関節が。」
「…あ、はい。」
突き指を繰り返し、ややいびつになった関節を麻衣は気にしていた。俺はその指が好きなんやけど、本人は好ましくないらしい。
「十分綺麗な手だよ。働き者で、優しくて。」
隣から南の彼女が麻衣の手を見て笑う。麻衣は少し照れたように俯いた。
「口説くなや。俺の従妹やで。」
「烈くんに似なくてよかったね。」
「しばいたろか。」
「あはは、辛辣〜。」
南とその彼女の応酬に土屋が茶々を入れる。高橋はそんな3人をよそに、熱心にハンドマッサージをしていた。こいつ、ちゃんと仕事できるやん。反対の手も同じように行い、麻衣は礼を言うと自身の手を眺める。
「すごい、なんだか軽くなったみたい。」
「せやろ、滞留しとったから流しといた。」
「へえ…すごいですね!」
高橋は貴金属店で働いているが、そこの研修でハンドマッサージがあったらしく、相性が良かったようで店でも多少披露しているとか。
「私、少しお手洗いに。」
「おん。」
麻衣が席を立つと、高橋はにやりと笑った。
「岸本、貸しひとつやで。」
「重いな。」
「後で連絡するわ。」
「おおきに。頼むわ。」
溜息をつくと、麻衣が歩いて行った方を見て、少し口元を綻ばせた。
「ええ、あの時に!?」
「おお。高橋はプロやな。合わんかったら直しに来い言うてたけど。」
「ぴったりだったから正直気味悪かったんですよ。」
「おいこら。」
指輪を眺めながら麻衣が笑った。ハンドマッサージと言いながら高橋は麻衣の指の号数を大体ではあるが測っていた。後日高橋の働く店で麻衣に贈る指輪を選んだ。あんなだが助言は的確だし、かと言って出過ぎることもなく、いいものを選ばせてくれたと思う。
「デザインもすごく素敵で…芽衣さん、すごい。」
「俺が選んだんやけど。」
「え、でも芽衣さんの助言あってこそでしょ。」
「…そーやけど。」
からかうように笑うのを見て、鼻を鳴らす。こいつ、泣かしたろか。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです。大切にします。」
「おう。」
左手を掲げ見て微笑む麻衣。可愛い奴やなぁ。
「麻衣。」
「はい?」
「…ん、呼んだだけ。」
「なにそれ。」
あはは、と笑いながらこちらに寄りかかって来る。俺は麻衣の左手を取り、指輪に口付ける。
「働き者で、優しい手。」
「え、あ、あの、」
「本当は俺以外の誰の体にも触れて欲しくはないんやけど、仕事やからしゃーないねんな。」
「は、はい…。」
「だから、今夜は俺だけ。」
「え。」
「たくさん触ってもらおか。」
どこまでも愛おしい、恋人。
俺だけの。
持つべきものは
高橋にはしばらく頭が上がらへん。