【南】venez m'aider
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背が高くて力持ち。
丁寧でよく気がつく繊細な眼。
適材適所、最高のパートナー。
「烈くん、そこ終わったら寝室の照明の傘も掃除してもらっていい?」
「おー。」
12月の週末、互いの家の大掃除を手伝い合うということで、千聡は南を自宅に招いて大掃除を始めていた。南はリビングに設置されているエアコンに掃除して乾かしたフィルターセットすると、千聡に言われた通り寝室の照明を掃除する。程なくしてそこが終わると、ふと本棚の前に目がいった。整頓途中の積み上げられた本の中に見付けた、おそらく卒業アルバムと思しき一冊。
(…高校、か。)
胡座をかき、パラパラとページをめくる。クラスのページを見て、思わず吹き出す。
(ゴリッゴリのギャルやんけ…。)
つけまつげに、濃いアイメイク、派手なリップで微笑む若かりし恋人に肩を震わす。更にページを繰ると、文化祭のページで手が止まる。ステージを仰視するように撮られた写真にうつっているのは、マイクに向かって歌っている千聡。汗で前髪が額に張り付き、視線は遠くを見つめていた。
(…うわ、これはアカン。)
「あ、ちょっと、何見てるの!?」
様子を見に来た千聡は南の手元を見ると、赤面してアルバムを取り上げようとした。しかし南はそれを躱すようにアルバムを遠ざける。
「もう!返してったら!」
「ええやん、可愛いし。」
「かわ…っ!?もう!やめてったら!」
「あ、おい、アホ…」
「わ!」
手を伸ばす千聡がバランスを崩し、南に覆い被さるように倒れ込むと、南はそのまま床に転がる。
「ってぇ…。」
「ごめんね!大丈夫!?」
「…大丈夫やあらへんなぁ。」
南がくつくつと笑っているのに気づき、千聡は慌てて体を離そうとしたが、あっという間に視界が反転する。
「乗られるのも悪くないんやけど。」
「元気じゃん、どいてよ!」
「…はは、この体勢でそんなこと言うても煽るだけやで。」
そう言うと南はやや長い口付けを落とす。角度を変えようとしたところで千聡が軽く唇に噛み付く。
「っつ!」
「掃除するの!もう!」
千聡は南が怯んだところを素早く抜け出す。床に投げ出されていたアルバムを拾い上げるとクローゼットの中に隠してしまう。
「さっさと終わらせようよ!」
南は噛まれたところを親指で撫でながら溜息をついた。
「後で続き見せてや。」
「烈くんのも見せてくれるならね。」
年末、南の家の大掃除をし、約束の通り互いの卒業アルバムを眺める。
「あっはは、岸本くんだ。髪長い!烈くんは…この前髪どうしたの、可愛いけど。」
「前髪のことは触れるな。」
「んー…」
「千聡こそ、ゴリッゴリのギャルメイクやんけ。」
「あーもー!いいじゃん!」
「部活の集合写真すごいな。」
「みんな可愛いでしょ?」
「千聡が1番可愛いやろ。」
「…なんでそういうことサラッと言えるかな。」
千聡は誤魔化すように南のアルバムに目を落とす。
「体育祭の写真、これめっちゃいいやん!」
「おん?どれや。」
「ほらこれ、バトン受け取った瞬間かな、顔は正面向いたままですごくかっこい…」
そう言って千聡が南の方へ顔を向けると、思いの外近い距離に、口を噤んでしまう。
「なんやねん、最後まで言えや。」
「あ、ご、ごめん。」
「…近くて緊張したか。」
「見透かすのやめてよ…。」
南は笑いながらアルバムをパラパラとめくる。そして最後のページをしばらく眺めていたが、閉じる。千聡も見終わるとアルバムを閉じたが、南の様子に首を傾げる。
「どうかした?」
「ん?や、なんも。」
「そう?…アルバムありがと。知らない烈くんを知ったみたいで楽しかった。」
「俺も。」
千聡は部屋を見渡し、ひとつ息をつく。
「部屋もきれいになったし、新年迎えるの楽しみだね。」
「そんなこと言う奴初めてやわ。」
「え?そうなの?」
「ここまでの大掃除はせえへんからな…。」
「また手伝い合おうね。」
その言葉に南は首を傾げる。
「一緒に住めばええやん。手伝い合うもなにも、一回で終わるで。」
その言葉に千聡は目を見開く。
「え、や、それは」
「問題あるか。」
「あるでしょ!結婚前は、その」
「なら結婚するか。」
「ええ!?」
「…そない驚き方するなや、傷付くやろ。」
南は笑いながら肩を竦めた。
「…わ、私、なんて答えれば…。」
「首を縦に振るだけでええんやで。」
「そうしたいのは山々なんだけど.心の準備が…。」
「っはは、わかっとる。また時期を見てちゃんと言うから。」
慌てふためく千聡の頭をそっと撫で、南は微笑んだ。
「就職決まったし、新しく家借りる予定やねん。もし一緒に住めるんならそのように探さんと。」
そのまま千聡の額に唇を寄せる。
「…そ、か。それもいいかも…ね。」
「なんなら実家挨拶行くけど。」
「そ、それはいいよ!なんか照れる!」
「先延ばししてもなぁ。」
「うう…。」
千聡は頭を抱えて唸る。その様子に南は吹き出す。
「どっかで休み取るから…広島旅行しよ。」
「お、前向きに検討してくれるんか。」
「もう!ばか!」
千聡は南の二の腕を軽くはたくと、アルバムを鞄にしまい、キッチンの方へ行ってしまった。
「…俺は全部本気なんやで。」
南は小さく呟くと、自身の卒業アルバムを拾って部屋の棚にしまう。ふと、千聡のアルバムの最後のぺージに書かれていた文字を思い出す。
『PS.広島駅で助けてもらったイケメンカリメロくんと再会出来るといいね!!めい』
(…そういえば、新幹線の改札出たところで他の高校のバスケ部にナンパされとる女子高生助けたわ。)
「まさか…な。」
「烈くん!お夕飯どうしようか!」
「鍋しようや、寒いし!」
南はキッチンから聞こえる声に返事をする。本当にもしそこで出会っていたのならなんて運命的なんだろうと柄にもなく期待している自分に、自嘲気味に笑った。