【仙道】ハッピーエンドの欠片
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
並んで歩いた帰り道。
「あれは知ってる、オリオン座。」
そんなん私でも知ってるよ。
そんな風に笑い合った。
1人で眺めるオリオン座は、あの時に比べて少し色褪せて感じた。
「おー、佐和じゃん?」
聞き覚えのある声に、佐和は我に返る。声のした方を見ると、藤真が立っていた。
「なに、バイト?」
「の、帰りです。藤真さんは?」
「俺はこれから飲みに行く…。」
最後の方は少し思案する風にトーンが落ちていくその調子に佐和は首を傾げた。
「暇?お前も来いよ。」
そう言うや否や携帯を取り出し電話をかけ始める藤真に、佐和は慌てて声を上げる。
「いや、なんでそうなるんですか!」
「静かにしろって。…おー、俺。な、これから1人増えても大丈夫か?…そこはお前の腕じゃん、頼むわ。あ?あー…彼女。はは、じゃあな。」
通話を断った藤真は佐和の顔を見て声を出して笑った。
「なんつー顔してんだよ!ジョークだって、安心しろよ。ちゃんと冗談の通じる奴らだから。」
「い、行くなんて言ってないし!」
「いーじゃねえか。んな不景気な顔してんなよ、付き合え。」
(あ、優しい。)
そう言ってさっさと歩いて行く藤真を、佐和はひとつ息をついて追いかける。
「藤真さん、背伸びてます?」
「おう、大台乗ったぞ。お前より少し目線上がったろ。」
「はい。初めて会った時は一緒くらいでしたよね。」
隣に並んだ佐和がそう言うと、藤真は、うるせ、と言って頭を軽くはたいた。
店に入ると、既に到着していた面々の表情が凍りついた。
「藤真さん…マジですか、控えめに言ってドン引きなんですけど…。佐和ちゃん、正気…?」
「馬鹿、冗談だっての。そこで会ったから連れて来た。」
宮城が2人を交互に指差して震えながら尋ねるのを藤真が一蹴する。三井は唖然としていた。
「お久しぶり…です。」
「お、おお。最後に会ったのは夏か、仙道の送別会…。」
三井の言葉に佐和は困ったように笑う。藤真は佐和の背中を押して席に着かせる。
「牧たちはまだか。」
「もう来ますよ。」
藤真は佐和の隣に座ると宮城に飲み物のメニューを取るよう手を出す。
「佐和ちゃん、酒ダメなんだよな。」
「ダメ。ドクターストップ。」
「仙道ストップの間違いじゃねーの。」
「それ言ったらブラザーストップですよ。」
「兄貴から止められてんのか。」
「兄が仙道に、飲まないようにちゃんと見張ってろ、って言ってました。」
宮城、藤真、三井の言葉に佐和は苦笑いしながら返していく。
「牧さんって言ってましたけど、牧さん東京に来てるんですか。」
「うちと海南の練習試合があったんだよ。」
三井が眉間にしわを寄せた。宮城も頬杖をついて溜息をつく。
「…負けた、んです?」
「勝ったり負けたりだよ。ただ、やっぱ…」
「やっぱ、なんだ?」
「うお、驚かすなよ。」
静かな低音に三井が驚いて見上げる。
「驚いたな。佐和さんも来ていたのか。」
「お久しぶりです、牧さん。」
その後ろから神が顔を出す。
「あれ、佐和がいる。久し振り、元気?」
「宗、久しぶり。清田くんはいないの?」
「1年は強制送還。」
「え?」
「色々あるんだよ。」
「…へえ。」
「神、美代ちゃん呼べよ。佐和も居るし来るんじゃね?」
「あ、それいいな。宗聞いてみてよ。」
「はは…来るかな。」
そう言って携帯を取り出し、耳に当てながら外に出て行った。
間も無く美代も到着し、久し振りの懐かしい賑やかしさに、佐和は声を出して笑った。隣に仙道がいなくても、その空気に自然と馴染むばかりではなく、不思議と心も温かくなっていった。
「じゃ、俺佐和送るから。牧、付き合わせてわりーけど。」
「構わない。女性を無事に送り届けるのは当然だ。」
「あ、ありがとうございます…。」
店の前で解散すると、藤真は両手を頭の後ろにやり、口を開く。
「帰りに酒買ってこーぜ牧、飲み足りねー。」
「楽しそうですね、お泊まり。」
「これが野郎じゃなきゃな。」
「手厳しいな。」
「あーあ!神がうらやましー!俺も美代ちゃんの家に泊まりてー!」
「最低。藤真さん最低。」
そんなことを話しながら歩く。夜空を見上げると、先程とはすこし位置の変わったオリオン座が、変わらず煌めいていた。
「しんどくねえの。」
藤真の言葉に佐和は隣に目を移す。
「離れちまって、辛くねえの。」
打って変わって真剣な色を浮かべ、尋ねてくる。佐和は目線を外し、また空を見上げる。
「平気ですよ。どこにいたって、やることは変わらないし、想いも変わらない。」
深呼吸して、続ける。
「別々の道を歩いてても、向かう場所が一緒なら…いいなって。そう思っているから、大丈夫です。」
その横顔に、牧は微笑むと佐和の背中を、トントン、と軽く叩く。
「仙道には勿体ないくらい聡明でひたむきな人だな。」
「だろ?俺もそう思う。」
「いつでも頼ってくれればいいからな。なんでも抱え込むんじゃないぞ。」
「おう、今日みたいに騒ごうな。」
「…はい。ありがとうございます。」
「んで写真撮って仙道に送ってやろーぜ。こっちはこっちでよろしくやってまーす、ってな。」
「それ、いいですね。」
藤真が、ポンポン、と佐和の頭を撫でる。佐和はもう一度オリオン座を見上げる。
(ねえ、彰。彰が繋いでくれた人たちにこんなに大切にしてもらっているよ。)
(ありがとう。)
応えるように、星がひとつ瞬いた。
オリオン
(がんばれ。まけるな。)