【南】venez m'aider
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一度くらい酒に飲まれてみたい。
あーあ、神様はいけずだ!
協力団体との親睦会。今の職場に入りたての頃に掲げた大酒飲みの看板。かなり不本意ではあったが、それでその場がうまく回るならと千聡は不満を飲み込んで酒を受ける。
飲めば飲むほど冷静になる頭。足元もしっかりしている、記憶も、景色も鮮明だ。頬を紅潮させて気分良く笑う上司や相手。もちろん自分だって笑顔を絶やしたりはしない。
「いやぁ、本山さんは酒豪だねぇ。しっかりしている!」
「いえ、そんな。」
「あまり彼女に無理させないでください。まだ若いんですから。」
「わかってるよ田尾くん!あっはは!」
上司は相手の方にばしばしと肩を叩かれて苦笑している。千聡は内心かなり心配しながらも、自分の身可愛さに間に入ることも出来ず、そんな自分に嫌気がさし、ますます冷え切っていく心。ああいう酔っ払いは面倒臭い、相手にしたくない。でも上司の代わりにいくらでもお酒飲んであげたい、肩を叩かれてやりたい。
しかしそれでは上司の立つ瀬がないじゃないか。
(たいぎいのお…。あの酔っ払い、一発くらわしてやりたい。)
自らの不穏な思考に首を振る。こんな時あの親友が居てくれたら、こんな席、一蹴してくれるんだろうな。うっせえジジイ!
(なんてね…ふふ。酔っ払いの芽衣に癒されちゃった…。)
もう一軒付き合わされてようやく帰宅する。解放された安心感なのか、酔いが回り出したような気がした。真っ直ぐ歩けているかな。大丈夫かな。
「ただいま…。」
鍵を開けてドアを開けると、偶然なのか南が立っていた。どこかに出かけるところだったようだ。
「…おかえり。」
「コンビニ?私行ってこようか。」
「…。」
「え、なに。」
南の無言の圧に千聡は戸惑う。
「…お前、携帯不携帯しとんか。」
「え、そんなことないよ。」
「なんで出えへんのや。」
「ご、ごめん!」
千聡は慌てて鞄から携帯を取り出す。不在着信が、何件も。
「ほんと…ごめん。」
「ええけど、無事なら。」
がしがしと自分の頭をかきながら踵を返す南の後ろ姿を眺めながら居心地の悪さを感じ、慌てて浴室に飛び込んだ。
(心配してくれたんだ。悪いことしちゃったな…。)
(でも私だって…好きでこんな時間まで飲み歩いてたわけじゃないよ。)
ふつふつと湧き上がる様々な感情に、涙が止まらなかった。怒ることないじゃないか、仕事なんだから仕方ないじゃないか、上司も守れないただの大酒飲みなんてただのレッテルだ。
シャワーから湧き出るお湯をを頭からかぶって気持ちを切り替える。なんとか空気を変えよう。なんとか…
芽衣ならどうするかな、芽衣なら、
可愛い酔っ払いに大変身!!
「ぶっ…」
自分の頭の中の親友はとことんそういう人間なのだと思い知らされる。ごめん、本当にごめん。何度も親友に謝る。
そして、感謝をした。
癒された。すこし気持ちが明るくなった。
(酔ったふり大作戦じゃ…。)
(目が腫れたのもいい効果になるわ…。)
その時点で思い至るべきだった。
自分もなかなかの酔っ払いに成り果てているという事実に。
「…起きとる?」
寝室に入ると、ベッドサイドの照明をつけたまま掛け布団に潜る南の姿があった。
(狸寝入りじゃ…。)
「ねえ、おこった?」
「…。」
「怒っとるやん。」
「…。」
「寝たの?ねえ、ほんとに?」
千聡は頭の中で、芽衣なら、芽衣なら、と呪文のように唱えた。可愛い酔っ払いサンプルは彼女くらいしか思い浮かばなかったためだ。
掛け布団を剥がすと、鋭い視線が千聡をとらえる。体を起こすと、なんやねん、と不機嫌を全面に押し出した声を上げる。
「ごめんね。」
「別に。」
「心配してくれたんでしょ。」
「…。」
「じゃけ、謝らんと。」
「もうええわ。」
「よくない。」
南の手を握り、彼の胸の辺りにしなだれかかるようにもたれる。芽衣なら、この後どうするんだろう。とりあえず、服を掴んでみようか。
「…どないしてん、調子悪いんか。」
(なんでやねん!!!)
がくり、と肩を落としそうになるのを堪えて一念発起、スウェットを越えて肌着の下に手を入れた。流石に体が強張り、南は焦ったように千聡の体を離す。
「お、おい…」
「許してよ…。」
「ホンマに大丈夫か、千聡。」
(だからなんでやねん!!!)
「ねえ、南く」
「はあ?」
芽衣なら、の呪文の弊害が出た。親友でシミュレーションする余り呼び名を間違える。被せ気味の南の反応に千聡もすぐに気付いた。間違えた、完全なるミスだ、台無しだ!
「…何考えとんねん。」
「…。」
「心配してホンマ損したわ。」
「だって…怒ってるもん。」
「そら怒るやろ。」
「私だって芽衣みたいに可愛く酔っ払いたいけえ頑張ったのに…全っ然酔われん…。」
「…はあ!?」
(なんやねんわけわからん、はあ!?)
素っ頓狂な声を上げる南に構わず千聡は涙を流す。手の甲で拭いながら鼻をすする。
「ま、待て、泣くな…ちょ、待て…。」
チェストのティッシュに手を伸ばし、箱ごと千聡に手渡す。
「悪かったて。千聡、お前十分酔っ払っとんで。」
「嘘じゃあ…だって全然足腰しっかりしとるし頭も回る」
「せやったら大したピエロやで、それも作戦なんか。」
「作戦ん!?」
「…なに考えとんのか全部言え。返答によっては朝まで付き合うてもらうで。」
千聡の肩をベッドに押し付けると、南は覆い被さる。
「まず、可愛く酔っ払いたいてなんやねん。」
「…全然酔わないから可愛くないけえ、振りでも…その…甘えたいなって…。」
南は盛大な溜息をつく。千聡はいくらか気分を害し、眉間にしわを寄せる。
「なんなの!?うちかてそういうこと思うわ!」
「十分酔っ払いやし、手に余るほど可愛い。」
「はあ!?んっ…」
二の句が継げぬように南が千聡の口を自身のそれで塞ぐ。思わぬ口付けに千聡が酸素を求めて口を開くと南がそこへ舌を捻じ込む。無遠慮にうごめく温いそれを千聡が拒もうと軽く歯を立てると、南の手が千聡の服の下に潜り込む。
「っあ…」
「噛むやないわ。…初めて一緒に野球観に行った時、覚えとるか。」
「う、ん…っ、」
千聡の目元の涙を拭うように口付ける。
「あん時かて可愛いと思っててん。酔っとったやんけ。」
「そんなこと…。」
「なんや、素面で手ぇ繋いでくれたんか。」
「…っそれは、」
「酔っ払い。」
「南くんだってそうだったじゃない…」
「なんでそっちに引っ張られるんや。」
「んっ」
南は千聡の喉に吸い付く。鎖骨の方へゆっくり舌を這わせる。
「烈く…」
「まだなんもしてへんやろ。なに余裕なくしてん。」
「じゅーぶんしとるわ!」
「序の口やで。」
「お願い、まだ心の準備が」
「はあ?何回やってんねん。」
「何回したって毎回緊張するの…っ」
「……。」
「だ、黙らないでよ。恥ずかしい!」
「そんなん聞いたら我慢できへん。」
「…はあ!?い、いまのなし!」
「遅い。とことん甘えさせてやるから覚悟せえ…。」
「その目は甘えさせてくれる目じゃないよね…!?」
嘘も方便
酒は飲んでも飲まれるな。