【南】グリーンライト
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知らないことを、知っていく。
ラブレター
次のセンター模試にまた勝負が控えている。私はそうでもないんだけど、南はその方が燃えるらしい。競争社会で生きてる人間だからだろうか。
「ラブレター?」
「そ、そんな露骨に言うことないやん!…最近依紗、南くんと仲良いみたいやから渡してくれへんかなって。付き合ってるわけちゃうんやろ。」
「ちゃうちゃう。」
「犬かいな。」
「なんでやねん。」
クラスメイトに頼まれて渡された封筒。なんだか甘いようなすっぱいような香りが漂うそれを、南に渡せと言う。古風やな…。
「…。」
「受け取ってや。クラスの子に頼まれてん。」
「なんで自分で渡さんのや。やましいことでもあるんか。」
「にぶすぎん?無理やろ、好きなら。照れ臭いやん、好きなら。」
「好き好き言うなや、もっと好きを大事にせえ。」
「ソウデスネー。」
「なんやそれ。」
南は怪訝な顔をして受け取ると、鞄にしまった。それ読むの?読んだらどうするん?気になったけど聞けなかった。聞いたところでどうしようもないし、私には関係ないのだから。
関係、ないのだから…。
やがてのセンター模試が終わった。センター試験のプレということもあって、受験生の皆さまにおかれましては大変力のこもった模試となったにちがいないでしょう。私も同じだ。
「……………勝った!」
「徳重めちゃくちゃ上げてきとんな…。」
「やった甲斐あるわー!」
南と結果を見せ合い、前のようにマーカーとカラーペンで線を引く。南も同様に分析を始めた。
「徳重の切り替えの早さには脱帽。」
「そう?」
「おう、折角勝ったんやぞ、なんかないんか。」
「別にもともとなんも賭けてないし…。」
「欲ないなぁ。」
「苦学生にたかっても。」
「わかっとるやん。」
今度からはセンター対策で時間測って解くのをやった方がいいかな、などと計画を立てていたが、ふと以前のラブレターの行方が気になった。南は鞄にしまって、それからどうしたのだろう。クラスメイトからも何もない。ただの橋渡しになっただけ、それでいいのになんとなくもやもやとした。
「…手紙、どうしたん。」
「はあ?」
「うちのクラスの子の手紙渡したやん。どうしたんかなって。ラブレター…なんやろ。」
「ラブレター…。そうか、確かにあれはラブレターやったかもしれんなぁ。」
「はあ?」
すっとぼけな回答に、力が抜けた。でも、そうだよね、南は手紙の内容を誰かに見せびらかしたりして晒し者にする人間ではない。多分だけど。そういうところが
好き。
「………………はぁ!?」
「っくりした…急にでかい声出すな。」
「ご、ごめん。さっきの話、なし。忘れて。」
「は?」
「大事なものだから、人の気持ちは。私が踏み込むことやない。せやろ?せや!」
「お前、疲れとるんか?情緒が安定せんな。」
「そーかも!うん、そう!なので今日は帰ろうかなぁ!」
書き込んだ模試の結果を乱雑に鞄に押し込むと立ち上がる。すると南が私の鞄のひもを引っ張った。
「ぎえ…っ。なにこれ。」
「ラブレター。」
「はぁ?」
「ええから。受け取っとき。」
「なんで南が私に。」
「頑張っとるから。」
特に飾り気のない南龍生堂のロゴの入った茶色い紙袋を、弁当を入れた手提げ袋に押し込んできた。そこそこ重い。
「ちゃんと寝ろよ。頭に入るもんも入らんくなるで。」
「う、うん…。」
「俺はやってくから。また明日な、気ぃつけて帰れよ。」
「ありがとう。…また、明日。」
帰宅して、袋の中を早速確認した。以前買った、サプリメントとドリンク剤。それから、ハンドクリームに保湿のパック。どういう選定基準かはわからないが、私が欲しいものすべてが揃っていた。そして、袋の底にはふたつ折りの小さなメモ。
『もう少し。頑張れ。』
気の毒なくらい、ほっとけない病の男。女の子が好きになるのがわかる気がした。
私も、その女の子のひとりになってしまったから。