【南】グリーンライト
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スマイルおいくらですか。
一緒に映画鑑賞
電車に乗り込んだ時から雲行きは怪しかった。祈る思いで目を閉じ、やがて目を覚ましたら土砂降りになっていて絶句する。
夏特有の夕立。鞄に入れておいたはずの折りたたみ傘は忽然と姿を消していた。否、ただ入れ忘れただけだ。依紗は己のうかつさに頭をかかえながら駅の入り口に立ち尽くしていた。迎えに来てくれそうな家族は不在、いずれはやむ、急ぎの予定もない、つまり待機の一手。
「なんや、待ち人来たらずか。」
するりと依紗の横を通り過ぎて傘をさす南がいた。同じ駅を利用していたことなんて知らなかったのでそれはそれは衝撃的だった。事もなげに声をかけてきた南はといえば目を瞬かせる依紗に怪訝な視線を無遠慮にあびせかける。
「おい、徳重ちゃうんか。大丈夫か、頭。」
「なんでそんな普通なん?驚かへん?」
「別に…。誰がどこの駅使ってても関係ないやん。」
ドライな物言いに妙に納得した。相手は朝早くから夜遅くまで練習してるバスケ部員、生活リズムは完全に違うのだ。
「傘ないねん。」
「あ、そ。」
「え、冷た。」
「入りたいん?嫌やわ濡れるし。」
「そんな幅とる女に見える?」
「自分で言うな。」
南は少し思案した後依紗を見下ろして口を開く。
「ひとつ条件がある。」
駅から少し歩いたところにある映画館。地元の人間でにぎわうそこは夏休みということもあり老いも若いも入り乱れて混みあっていた。
「結構面白かった。スカッとするわ。」
「そうか。」
「南、薬局の息子なんやね、知らんかった。」
「別にふれまわっとるわけでもないからな。」
「彼女おらんの?」
「おったら誘わんわ。」
「おっしゃる通りですわ。」
ごひいきさんから頂戴したものの持て余していたという映画のチケットは期限が今日まで。南は観に行く相手もなくどうしたものかと思っていたところだった。岸本と行くなんてごめんだし、かといってほかに誘うような友人もなければ交際中の相手もいない。
映画館を出れば雨は小降り。走ればそう大してぬれないだろう、そんなことを考えていた依紗の思考を一刀両断するように南が口を開く。
「腹減った。」
目だけで依紗を見ると、依紗は駅で声をかけた時と同じ顔をしていた。その頭をかるくはたく。
「いたっ。」
「もう少し付き合えや。」
「おごりなら。」
「苦学生にたかんなや。スマイルでええか。」
「は?南の?」
「俺のは有料や。」
金払うから見せてほしい。依紗はのどまで出かかったのをこらえ、さっさと歩きだしてしまった南の後を追った。彼はどんな時に笑うのだろう。そんなことを思いながら。