*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「佐和は全く衰えないわね。」
「それどころか、今年はまた調子上げてないか。」
高校最後の体育祭。
美代と越野が、100mを圧勝する佐和を見て感心していた。
「日下部は今年も長距離出るんだよな?」
「うん、担任にバレたからね。」
「部活入ってねーのにすげえよな。」
「…ありがと。」
越野は、溜息をつく美代をやや不審がるが
(詮索するな、ってか。)
その表情に口をつぐみ、トラックに視線を移した。
「今年は奇抜な借り物なかったなー。」
「去年は仙道と魚住さんが全てをかっさらったよな。」
仙道と越野は思い出し笑いをしながら話している。
佐和と美代も、今年は完全に傍観で、茶々を入れたり、クラスの出場者の借り物を探したりと和やかに過ごした。
「この後のリレーよね、問題は。」
「そー。私は負ける気しないんだけど。」
佐和は強気に笑った。
「やるからには勝たねーと、な?」
「取るなよ、もう。」
仙道は佐和の肩に肘を置き、横目で佐和を見遣って笑った。
佐和は腕を組んで不服そうに息を吐いたが、仙道を見上げると拳を上げる。
仙道はそれに気付き、肘を下ろして拳を打ち付ける。
「ウシ。」
「勝つぞ〜勝つぞ〜。」
「高辻、怖い。」
同じ所からスタートする男子の走者が苦笑いをする。佐和は、悪い、と笑って詫びた。
「引退しちまってるからなぁ、俺。」
「でも、陵南イチのスプリンター、なんだろ。」
「それ、部紹介の時のやつ?よく覚えてんな。アホじゃなかったんだ。」
「おいこら、もっぺん言ってみろ。」
「あはは、悪い悪い。」
笑いながら拳を打ち付け合い、佐和は「頼むな。」と尚も微笑んだ。
「…うわ。」
「なに。」
「仙道がお前を好きな理由がわかったかも。」
「はぁ?」
(なんだよ、あいつめちゃはえーじゃん!)
陵南イチのスプリンターは前を走る走者をあっという間に抜き去り、速度を保って走りこんでくる。順位としては3位だ。
「行くぞォ!!!」
佐和は手を上げて叫ぶと、スタートを切る。
バトンが回って来たのをすかさず握るとさらに速度を上げる。そのまま1人追い抜き、さらに前を追う。
(またあの子じゃん…!)
1年の時にも前を走っていた女子に内心舌打ちする。
(抜けないまでも、少しでも!)
「佐和ーーー!!!!」
その声に顔を上げる。
「そのまま来いよォ!!!」
(またかよー!!!)
仙道が笑顔で手を振ると、スタートを切った。
(だから……)
「速ぇんだよ!!!」
佐和がバトンを半ば叩きつけるように仙道に回す。
仙道は笑っていた。
佐和はトラックに転がり込んだ。
(嫌味なくらい速いな…。)
仙道は前との距離をぐんぐん詰め、抜き去る。
(足の長さが最早反則…。)
佐和は立ち上がるとゴールラインに近付く。
その姿が最後のコーナーを曲がった。
「彰ーーーー!!!!」
知らず、叫んだ。
その声に仙道は目を細め、トップでゴールテープを切った。
佐和を振り返り、両手を広げる。
「今年は来ないの?」
息を切らしながら、微笑む。
佐和は溜息をついて後ろ頭をかき、顔を上げる。
「受け止めろっ!」
軽快にジャンプをして、首に手を回して抱きついた。
「すごいな彰、速かった!」
その肩に手を置き、笑った。
「佐和が追い付いてくれたからだよ。」
その表情に、仙道もつられて笑う。
佐和が飛び降りようとしたが、それが出来ず、仙道を見下ろす。
「…離せよ。この後はみんなとハイタッチだよ。」
「やだ。あの時は逃げられたからなー。」
はぁ?と佐和が眉間に皺を寄せる。
「俺、あの時もう佐和が好きだったんだから。」
そう言って口を尖らせる。
「キスして。」
「バァカ。」
佐和が、べぇ、と舌を出す。
しかし直ぐに困ったように笑うと、
「これで勘弁して。」
首に手を回し直すと、肩に顔を埋めた。
「…恥ずかしい。」
すでに公認の2人に、笑いと拍手が起こった。
(公開処刑……。)
(あはは、佐和からしてきたんだぞー。)
(うぐ、軽率。)
(…わんぱく兄弟卒業だな。)