*【花形】アオハルアゲイン
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「収まるところに収まったってことか。」
空になったビールの缶をシンクに置き、新しいものを冷蔵庫から取り出す。
全く、世話の焼けるチームメイトだ。
俺は永野にも冷えた缶ビールを渡す。
春は近付いてきているのに、まだ少し肌寒い。
この部屋の主は恋人の隣に座って上機嫌に酒を飲んでいた。
その恋人もまた笑いながらおでんをつつく。
おい、俺の牛スジ残しとけよ。
「ね、透は就職どうするの?」
倫乃がビールを片手に首を傾げる。
「そーだよな、あと1年学生したら、お前もいよいよ社会の波に揉まれるわけだ。こちら側だ。」
永野が頬杖をついてにやにやしていると、意に介さず花形は口を開く。
「まだ少し迷ってはいるが、大学に残るかも知れない。」
「へえ、引き止められちゃった?」
「まあ、そんなとこ。でもまだ迷ってるな…。」
「なんで?」
「お金の問題。」
彼女の前でそういう生々しい話するなよな。
倫乃、お前もなるほどなーとか呑気なこと言ってんじゃねえよ。
なんなのこいつら…。
「一志の結婚式いつだっけ。」
「秋だろ。」
永野がそう言って缶ビールを煽る。高野は日本酒を開ける。
「永野も結婚だろ。」
「まーな。いま式場探してる。」
「順調だなーくっそ。」
…まて。
このままだと俺と高野が売れ残る?
高野と同列かよ!?
「なー倫乃、花形やめて俺にしたら。」
「そういうところが残念なのよ。」
「あーでもこんなじゃじゃ馬、手懐けられる自信ねーわ。花形に任せる。」
「こら!蹴倒してやろうか、ヒヒーン!」
「やめろよ、うるさい。」
花形は溜息をつくと空になったら瓶やボトルをシンクに運び、洗い始める。倫乃もそれについていくように空缶を集めてシンクに持って行った。
何かを話しながら微笑み合う二人
幸せそうだな、くっそー。
でも、ま。
コイツらがこうなるのは必然だったし。
「お前らさあ、俺のお陰で一緒になれたんだろ、もっとなんかねーのかよ。」
カウンターに体を預けてキッチンを覗き込む。2人は顔を見合わせると、ふ、と笑う
「キャプテン、ありがとうございました。」
そう言うと2人はまた片付けを始めた。
チクショー!!!!
「次は花見な。夏は花火やろうぜ。」
金は出すからお前ら準備しとけよ、と2人を指差す。花形も倫乃も深い溜息をついたが、すぐに微笑み合うと、まあいっか、と笑っていた。
藤真たちが帰ったあと、倫乃がフローリングワイパーで掃除をする。
「ねえ、前から気になってたんだけど。」
「なんだ。」
「なんで空き瓶とか集めてんの?」
俺は思わず、むせる。こんなの、疑ってくれと言っているようなものだ。
「……研究用だよ。」
「どんな研究してるの?」
笑われてしまうだろうか。
……俺はさ。
「……え、うそ、すごいね!」
リコーダーの音楽が印象的なあの番組の装置を研究し、制作している。
そう言うと、意外なことに倫乃は感心していた。
「すごい…!あれ、素直にすごいと思ってるもん私!よく考えられてるし、面白いし!」
まさか透がねー、と尚も笑っている。
「どんどん楽しい装置を考えてくれたまえ!」
そう言って俺の二の腕を叩く。
俺はその手をとって引き寄せ、抱き締める。
「…ああ、勿論だ。でもその為にも、倫乃が必要なんだよ、絶対に。」
「俺と結婚を前提に…このまま付き合ってくれるか?」
体を離すと、倫乃は驚いた顔をしている。
「え、」
「そのつもりだったの、私だけ!?」
腹を抱えて笑ってしまった。
こういうところに、気が抜けてしまう。
一度は過ぎ去り、失った青春。
過ぎ去った時間は戻せないし、
失ったものは置き去りのまま。
それでも。
俺たちはそれを糧に進み、成長し、未来を生きる。
そしてまた、交わった。
あの頃より、ずっと堅固に、繋がった。
「倫乃、好きだ、愛してる。」
「どうしたの透、」
確かめるように口付ける。
俺たちを隔てるものは、もうない。
遅れて来た青春を、また始めよう。
fin.
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2019.11.1〜2019.11.5