*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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お盆は毎年、ヒロ兄たちは由佳ちゃんの実家に遊びに行っている。
今年に限っては、両親は夫婦水入らずで旅行中。
いつもなら美代や剣道部の子達が泊まりに来たりするけど、今年はそれぞれ予定がある。
寂しいとは思わない。
それはそれで気楽だし、課題もあるし。
だけど、今日は。
楽しい時間を共有したら離れ難くなってしまった。
1人は気楽だと思っていたのに、寂しくなってしまった。
それを言うと、彰はきっと傍に居てくれる。
だから言いたくなかった。
彰は意外と真面目で、以前、家族の不在中に家に上がるのを断った。
その気持ちを、大切にしたい。
そんな彰だから、家族みんな彼を信用してる。
自分の一言で、それを踏み躙らせるわけにはいかない。
「ね、電車でカップルを見て何を思ったの。」
それはね。
浴衣の袖から伸びる、女の子の華奢な腕を羨ましいと思ったの。剣道をやっていると、前腕、特に左の筋肉がやたら発達するから。
ほら。
「そうかな、俺は好きなんだけど。」
アンバランスな脹脛も、腕も。
そう言って、彰が私の腕に口付けた。
「この手も好き。努力の賜物。」
手のひらの胼胝を親指でなぞる。
ん…っ。
「声出てる。」
くすぐったいんだよ、ばか。
「…前に触った時、俺、我慢するの大変だったんだから。」
それって。
「1年の時だっけ、はは、なんか昨日のことみたいだ。」
離れたいのか触れていたいのか。
その矛盾が、私から判断力を奪ってしまう。
吐息とともに漏れる声。
自分の名が、そこに混ざる。
いつまで経っても慣れなくて、毎度恐ろしく体が疼く。
心地よい筈の声なのに、
この時ばかりはとてもじゃないが聞いていられない。
そのくらい、私はこの男に毒されている。
「佐和。」
「ん…。」
カーテンの隙間から見える外は、まだ暗い。
「大丈夫?」
「大丈夫…。」
「うそつき。大丈夫じゃないだろ。」
優しいキスが、瞼を掠める。
「佐和の悪い癖だよ。俺の前では絶対に大丈夫の嘘はつかないこと。」
「そうは言われても、」
遮るように、唇が押し付けられる。
「返事はイエスのみで。」
「なんだか強引だね。」
「わかったのかわからないのか、どっち。」
「…わかった、わかったからどいて。」
なんなんだ、珍しいな。
ベッドから立ち上がり、散らかった衣類などを集める彰の手元を指差す。
「…ねぇ、それ、いつも持ち歩いてるの?」
その手にある、開封された正方形の包装。
「ん〜まあね〜。なにが起こるかわからないでしょ。ほら、前回しくじったし。」
飄々と答える彰にため息を一つ。
「堪え性はないけど、学習はするの俺。」
「…しっかりしてんな。」
「ありがと。」
褒めてないし。
「…お茶、淹れるね。」
「俺がやるよ、休んでて。」
そう言って上半身裸のまま私の部屋を出て行く。
…ねえ、なんで上は着ないの。
「シャワー、お先に。」
リビングのソファに座る彰に声を掛けると、じゃー俺も使わせてもらいます〜、と私の横を通り抜ける。その時に、こちらを見下ろして、自身の首をトントンとつついて、笑いながら洗面所に消えていった。
なんのことかわからなかったけど、翌朝鏡を見て赤面した。