*【仙道】ハッピーエンドの欠片(高校編)
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「花火大会?」
「うん、ほら、越野が彼女誘ったやつ。お盆にやるんだってさ。」
「でも彰、実家は?」
「それはいつでも大丈夫。」
まあ帰らなくてもいいんだけどな。
浴衣着てきてね、と言ったら、唸っていた。
……ダメ?
当日、夕方に佐和を迎えに行く。
お盆とあってお店もお休みだ。
ガレージの門扉が閉められており、車がないのに首を傾げる。
「お待たせ…。」
「全然待ってな」
うお、まじか。
「浴衣だぁ…可愛い、綺麗、最高。」
「ばか。」
佐和はやや俯き加減で照れていた。
その表情も、たまんねえ!
「混んでるね。」
「まー、混むわな。」
電車に揺られながら、佐和が珍しく弱気な声を出す。車内は同じように浴衣を着た人たちでごった返している。
「苦しくない?」
「大丈夫だよ。」
その手は、俺の腕に添えられている。
「彰は体幹強いから、安定してる。」
そういうことな。
下駄じゃなかったら掴まってくれないんだろうなぁ、佐和は。負けず劣らず体幹強いもん。
やっぱ浴衣最高!
ふと、佐和が近くのカップルを眺めていることに気がついた。
「どしたの?」
「え?あ、ううん。…可愛いなって。」
「イケメン、今日は俺の彼女でいて。」
「ラジャー。」
その笑顔に少しの翳りを感じた。
「おお〜すごい人。」
開始前から大盛況の会場にやや驚いた。
「越野、よくこんなとこ来たなぁ。」
「ほんと、よく誘う気になったね。」
俺たちは背が高い方なので、そんなに困ることはないのだけど。
「佐和、手を離すなよ。」
「うん、離さない。」
何気ない一言に、どきりとする。
ねえ、それ、天然なの?やめてくれよ、心臓に悪ぃ…。
「始まったよ、ほら!」
無邪気にはしゃぐ佐和が可愛い。
俺は佐和を後ろから囲うように立つ。
上を向いた時、丁度いい高さに佐和の頭があったので顎を乗せる。
「きれー!」
「あっ、俺今のやつ好き。」
「私も!」
柳のように垂れてくる三尺玉に盛り上がる。音が大きいから至近距離にいても声が聞き取りづらい。
それでも、佐和の声はよく通った。
この声が、大好きだ。
もっと聞かせて。
「来てよかったね!ありがとう!」
「どういたしまして。佐和こそ付き合ってくれてありがとな。」
「ううん、一緒に来たかったからいいんだよ!」
無邪気にはしゃぐ佐和に笑みが溢れる。
佐和の愛情表現は屈折してるところがない。いつも真っ直ぐで、わかりやすい。だからといってベタベタとしつこくもなく、煩わしさもない。
無自覚に俺の心臓を揺さぶってくるところまで全部、お気に入り。
相当、ハマってしまっている。
「静かだね。」
家の近くまで来ると、すっかり静まりかえっていて人通りも少ない。
花火の光で慣れていた目は、この少ない街灯の道を暗いものに感じさせる。
「あっちが盛り上がり過ぎてたからな。」
「…ね、この辺でいいよ。」
佐和が繋いでいた手を離した。
「は?何言ってんだよ。家まで送るって。」
「いいって、今日はここで。これ以上はだめ。」
その頑なな態度に眉を顰める。
なんだよ、急に…。
「どうして。」
「どうしても。理屈じゃない。」
「納得できない、説明して。」
「お願い、」
「帰りたく、なくなるから。」
…ああ、これだ。
こういうところが、
酷く、愛おしい。
「……帰さない。」
「え?」
離れた手を引いて、少し乱暴に佐和を掻き抱く。こんなことあった。文化祭で。あの時は、逆だった。
佐和が浴衣だったら、キスだけでは止められないと。
今は?